知識ゼロから株式投資を始めようと思い立った28歳会社員のユリコは、ファンドマネージャーの叔父に話を聞きながら、「投資」の基礎を勉強中。「何も勉強しなくていい」「大企業が安全とは限らない」という叔父さんの言葉に一応納得はしたものの、「いい会社」の探し方が知りたくてたまらないユリコ。しかし、叔父さんは「『いい会社』なんて存在しない」と言い出して……。
※この連載は、ひふみ投信のファンドマネージャー藤野英人さんによる投資入門です。投資ファンドの運用担当をしている「叔父」が、姪の「ユリコ」に、投資について、物語形式で教えていきます。
ルールは「自分の理解しやすいものに投資する」こと
ユリコ 大企業が、かならずしも「いい会社」というわけではないということはわかりました。でも、ますますどの会社に投資していいかわからなくなっちゃったんですけど……。「いい会社」って何なんでしょう。
叔父 以前、投資の手法について優劣はないという話をしたよね。それと同じで、絶対的な「いい会社」「悪い会社」というのも存在するわけではないとぼくは思っているよ。すべての会社は存在していいし、存在しているということは、その企業が提供するサービスや商品をつかうお客様がいて成り立っている。ぼくらの会社も銘柄を選んで投資をしてるけれど、「絶対的にいい会社」を見つけているというわけじゃなくて、ぼくらの投資基準に合致した会社に投資をしているということなんだ。
ユリコ つまり私は、「私の投資基準に合っている会社」に投資すべきということになるわけですよね。
叔父 そうそう。
ユリコ でも、自分の投資基準なんてものがそもそもわからないんですけど……。
叔父 それはこれから実際に投資しながら見つけていくことになるわけだよ。でも、まず大切なのは、「理解しやすいものに投資をする」ということだね。投資には成功も失敗もあるけど、失敗をしたとき、その会社のこともサービスのことも知らないのであれば、なぜ失敗したかわからないでしょう。
ユリコ そうかあ。株式投資は「勝つか学ぶか」のはずだったのに、知らない企業の株を買ってしまうと「勝つか負けるか」になっちゃうということですよね。
叔父 そうそう。よくわかってきたね。だから、製品とか商品、サービスを頭でイメージできる企業の株を買うのがいいんだね。自分が働いている業種に近いとか、よく使う化粧品や乗り物を扱っている会社だとか。そうすると、株の上がり下がりの理由がよくわかるようになる。上がっても下がっても、理由がわかるようになると、そこから学べるようになるんです。だからこそ、「理解しやすいものに投資する」ことが絶対条件。
ユリコ はい。
自分にとっての「いい会社」の探し方
ユリコ それでいうと……。あ、GWにちょうどディズニーランドに行ってきたんです。ディズニーランドを運営している オリエンタルランド はどうでしょう。
叔父 うん、その探し方自体はいいよね。でも、株価を見てみて。
ユリコ えーと、7502円(編集部註:7月7日終値。以下同)。たしか株式って1株からは買えないんですよね。
叔父 そうそう。一応1株で買える制度もあるけれど、最小単位数が100株のことが多いね。1000株が最小単位の株も多いから注意してね。
ユリコ じゃあオリエンタルランドの株を買うには、最低でも75万200円必要なんですね。私の手持ちは50万円なので、今買うのは厳しいわけだ。残念!
叔父 他にユリコちゃんが興味あることって何かな?
ユリコ そうだ、アラサーになってお肌の曲がり角を感じていて、基礎化粧品にお金をかけるようになったんですよね。化粧品メーカーだと…… 資生堂 とか上場してますね。3862円だから100株買うなら38万6200円。これなら買えるけど、「手に汗をかかない金額」としてはまだ大きいかも……。それに「帝都銘柄」だし、せっかくならもっと若い企業を応援したい気持ちもありますね。
叔父 その調子その調子。
ユリコ 化粧品にかかわる企業でもっと若いところ……。あ!!! 化粧品の口コミレビューで有名な「@cosme」というサイトを最近チェックしはじめたんですけど、調べたら運営会社は上場しているんですね。 アイスタイル っていうのか。今日の株価は848円。100株買って8万4800円なら、私の感覚でも「手に汗をかかない」で投資できそう。それに、デパ地下のブランドコスメを買いに行っても「@cosmeで人気!」というPOPがついているのを見かけるようになってきたんですよね。今までも若い子たちは活用していたみたいだけど、だんだん認知が年齢の高い層にも広がっていってる気がするし、もっと伸びる気がします。
叔父 うん、たしかにユリコちゃんの手持ちのお金で買いやすそうな株価だし、そういうふうに「夢が見られる」なら、ユリコちゃんにとってはアイスタイルが「いい会社」と言えるね。
そのうえで、アイスタイルだけじゃなくてあと2つくらい銘柄を考えてみてほしいな。つまり「まずは3銘柄に投資する」ことを考えてほしいということ。「小さくゆっくり長く」の法則とも通じるんだけど、投資の際には「リスクを分散する」というのがとても大事なことなんだよ。
ユリコ そうなんですか? 1銘柄を集中して勉強したほうがいいかなと思ったんですけど……。
叔父 もちろん、3銘柄を一気に買う必要はないよ。でも、もし1社だけを買って50万円使おうとすると、その会社が万が一破綻したときにものすごく困るよね。3つの企業なら、同時に破綻することはほとんどないよね?
ユリコ そうか……。ということは、その3銘柄は違った業種がいいですよね? 同じ業界だと、業界全体の不振でいっしょに引っ張られちゃう。
叔父 そうそう。たとえば、製造業が1つ、サービス業が1つ、ITが1つ……というふうに業界を変えるのがいいね。本当は銘柄が多ければ多いほどリスクはならされていくけど、そうするとユリコちゃんにとって理解度も下がっていってしまうだろうから、ぼくは3銘柄くらいがちょうどいいと思うな。
ユリコ あと2銘柄、ちょっと考えてみます!
株式投資がもたらす本当のリターン
ユリコ それにしても、「勉強しないで始めていい」と叔父さんは最初に言っていたけど、考えることは結構ありますね。なんだかんだ楽しいのでいいんですけど。
叔父 考えるのが「楽しい」と思えるのはいいことだね。そういう人は株に向いてます。
ユリコ 株式投資がうまくなるために大事なことってありますか?
叔父 一番大切なのは「好奇心が旺盛」であることだよね。今、ユリコちゃんに考えてみてもらったように、自分の興味あること、理解できることから発想を広げていくのが、株式投資の本質だから。自分の主観にとらわれずにさまざまな情報にふれられるようになると、チャンスが増えるしリスクヘッジにもなるんだ。そして何より「前向き」であることも大切。何度も言っているように、投資先に夢を見られる人が勝つのが株式市場だから。
ユリコ なるほどなあ。
叔父 さらに言えば、一見冷たい数字にしか見えない株価から、どれだけ株式の肉体性を感じられるのかということが本当に大事です。株券を単なる紙切れだと思ってる人は、20年30年経ってもダメ。
ユリコ 投資そのものの知識だけじゃなくて、人間や社会に対する洞察力が必要になってくるということですよね。
叔父 その通り。もし興味があるなら有名な投資家の本を手にとってみるといいと思うけれど、過去大きく成功した人たちっていうのは、「会社とは何か」「社会とは何か」「人間とは何か」という哲学を持っている人がほとんどなんだよ。短期的に勝つことは運の要素もあるけれど、維持し続けた人はだいたいそう。
ユリコ あー、ウォーレン・バフェットとか聞いたことあります!
叔父 そうそう。逆に言うと、株式投資をちゃんとやっていると、ユリコちゃんのなかでも「会社とは何か」「社会とは何か」「人間とは何か」といった哲学が育っていくはずだよ。
ユリコ そうなれたら、うれしいですね。
叔父 世界がさまざまな会社でカラフルに彩られていることを知ると、株式投資だけじゃなくて、自分の本業や人間関係にもいい効果があるはずだよ。ぼくがずっと投資の世界に身をおいているのも、まるでポケモンの種類を覚えていくかのように、世界がどんどんカラフルになっていくのが楽しいからなんだ。それこそが株式投資の醍醐味のひとつであり、たんなる値上がり益以上に得難いリターンなんだよ。
投資って、お金儲けが好きな人がする、ちょっとずるいイメージがありがち。でもユリコは、叔父さんのお話を聞いて、値上がりだけじゃないリターンにも気付けたみたい。「自分の興味があること」に投資をしてみたくなった人は、口座開設してみるよいかも。