第7回 もっと広く投資をしたいとき、どうすればいいの?

だれでもできる株式投資入門/ 藤野 英人下窓 まめ子

ファンドマネージャーの叔父のすすめで株式投資を始めてから半年が経ったユリコ。「まず3銘柄」を買い終えて市場での学びを得るうちに、もっと広い銘柄に目を向けたくなってきて、久しぶりに叔父のもとを訪ねます。そこで、以前は「見なくていい」と言われた『四季報』の活用法と、「日経新聞」電子版の購読をすすめられて……。

※この連載は、ひふみ投信のファンドマネージャー藤野英人さんによる投資入門です。投資ファンドの運用担当をしている「叔父」が、姪の「ユリコ」に、投資について、物語形式で教えていきます。

第6回「株の買い時っていつ?」を読む

株を始めて半年が経ちました

ユリコ 叔父さん、久しぶりです〜!

叔父 おお、久しぶり。元気そうだね。投資の調子はどう?

ユリコ 「小さくゆっくり長く」のアドバイスに従って、半年かけて3銘柄を100株ずつ買いました。毎日ニュースを見るのも楽しくなりましたね。会社の決算による株価の変動も経験して、財務諸表の読み方も気になり始めたところです。他に、SNSで投資の話をしている人をフォローするアカウントも作りました。他の人がつぶやいている銘柄のことを調べたりするのも楽しいです。

叔父 うんうん、順調に学んでるようで何より。

ユリコ 今の私にはまだ早いとのはわかってますが、もう少し株のことを勉強して、より広い銘柄、「まだみんなが知らない、いい会社」に投資できるようになりたいと考えています。それでまた、話を聞きたいなと思ったんですけど……。

叔父 うんうん。今のところは買う銘柄を増やすのはおすすめしないけど、勉強熱心なのはいいことだね。今のユリコちゃんなら、そろそろ『四季報』を買ってもいいだろうね。

ユリコ あ! 四季報。前に叔父さんが少し話してくれましたよね。上場している会社すべての情報が載っている本。SNSでフォローしてる人たちが名前を出しているのも目にします。

叔父 年4回発行されるんだけど……新しいのは「夏号」だね(デスクから取り出す)。季節ごとに、春号、夏号、秋号、新春号が出る。

ユリコ 冬に出るからといって「冬号」じゃないんですね。

叔父 そう。「冬」って不景気をにおわすイメージがあるから、ゲン担ぎを大切にする投資業界では嫌われてるんだよね。だから、新春。

ユリコ おもしろいなあ。

四季報でまず見るべき箇所は「見出し」

ユリコ こうやって見ると、四季報って本当に分厚いですよね。「分厚い」という事実に圧倒されてしまって、まったく読める気がしない……。

叔父 はは。しかも毎号分厚くなるんだよ。上場企業がどんどん増えていくから掲載企業数も増える。

ユリコ そういえば証券会社のサイトで四季報のデータが見られはするんですけど、冊子を買ったほうがいいですか?

叔父 うん。CD-ROM版もあるし、電子のほうが便利なこともあるんだけど、初心者のころはぜひ紙の本で買って、めくってみてもらいたいね。そのほうが、「自分の知らない、いい会社」にも出合いやすいと思う。

ユリコ あまりの分厚さに心が折れそうなんですけど……どこを読めばいいんでしょう?

『会社四季報』(2017年3集・夏号)より転載

叔父 まず押さえるべきは、「見出し」だね。四季報の各企業の記事は、必ず2つのパラグラフになっていて、それぞれ見出しがついている。前半が業績の傾向、後半がその具体的な背景ということで、内容が分かれているんだ。この見出しが非常に特徴的で、「四季報文学」と呼ばれるくらい、たった数文字にそれぞれの記者さんの思いが込められているんだよ。ライザップだと業績は「一段増」、その背景には「M&A」があるということだね。

ユリコ 各企業の近況が2ワードで表されてるってことですね。全体を見るよりも、まず見出しを見ればいいと言われると、ちょっと気持ちがラクになりました。「こういう見出しがある企業が要チェック」というのはありますか?

叔父 まずは前半の業績見出しでいったら「絶好調」かな。「絶好調」という言葉は、1冊の四季報の中で5回以上使ってはいけないというルールがあるらしいよ。

ユリコ へええ!

叔父 だから最新号が発売されたら、四季報マニアはまず「絶好調」を探すね。「絶好調」と見出しにつけられた会社は、株価が上がる率が高いんですよ。四季報の言葉には、それだけの重みがある。

ユリコ 見出しの他は、どういうところを見るといいですか?

叔父 ぼくは左下の財務諸表の数字を見ますね。といっても細かく見なくてもよくて、過去から未来に向けて、売上げや利益などの数字が大きくなっているのかをみるだけでいい。赤字が続いている会社は、原則投資をしないほうがいい会社。

ユリコ この▲マークがついているのが赤字ですよね。この会社は、掲載している年度については▲がついていないから、投資してOK?

叔父 黒字ではあるけど、過去の数字に比べて大きくはなってないよね。過去から未来に向けて大きくなってるかも大切。そういった会社に印をつけて、さらにサービスを調べて興味を持てるところに投資するのもアリだね。本当は、四季報だけで1週間の講座ができるくらいの深さと厚みがある。株式投資は「四季報に始まって四季報に終わる」と言ってもいいので、時間があるときに自分でも四季報の読み方を調べてみてね。

カエル先生の一言

約3600社の上場会社を網羅する四季報。一歩踏み込んだ投資情報を知るために、投資の辞書として1冊買ってみるのも良い。知っているとネタになる身近な企業の話など四季報のプロの話を読んで検討してみては。

ユリコ はーい!

叔父 ちなみに、お金に余裕があったら、「日経新聞」の電子版を購読するのもおすすめ。ぜひ取ってほしい! 本当に便利だから。

ユリコ たしかに投資してる人は購読してる印象がありますね。日経新聞については、紙じゃなくて電子版がいいんですか?

叔父 電子版のよさは、キーワード登録ができることなんだよ。100ワードまで好きな単語を登録しておけて、その用語が出てくる記事をまとめて教えてくれる。朝起きてアプリを開くと、自分専用の秘書が新聞の切り抜きをしてくれているというわけだね。

ユリコ それは便利ですね! 自分の持ってる銘柄とかを登録しておくと良さそう。叔父さんはどういうキーワードを登録してるんですか?

叔父 僕は、「上方修正」「IPO」「最高値」「増益」「増収」の5ワードだね。その5ワードを登録しておくと、いろいろな会社の良いトピックが流れてくるんだよ。四季報だけを見ても、いい会社は探せるんだけど、日経新聞でピックアップされた「増益」「最高値」の会社の情報を四季報で見てみる……ということを繰り返していると、新しいフィードバックがあって、とってもためになるんだ。

ユリコ でも、「最高値」「最高益」のニュースが出てから買うのでは、遅くないですか?

叔父 それがね、遅くないんだよ。最高益の会社は、その次の年度や決算でも最高益を出すことが多いんだ。

ユリコ そうなんだ!!! 会社の業績を見るのって、もっと難しいものだと思ってました。

叔父 うん。むしろ「素直」な目でマーケットを見れることのほうが大事だよ。それもまた、投資の醍醐味のひとつなんだ。

50万円を5年で20億円にした人の手法

叔父 ほかに……万人にはおすすめできないけど、こういう手法もある。ユリコちゃんはTDネットって知ってる?

ユリコ いや、知りません。

叔父 Timely Disclosure network、「適時開示情報閲覧サービス」の略。つまり、上場企業が開示した、投資にかかわる重要情報をタイムリーに掲載しているサイトのことね。そこに投げ込まれる重要情報をすべて閲覧して、各企業の株価の反応をチェックしつづけるという手法もある。

ユリコ それはなかなか地道ですよね。全部って、だって3600社くらいあるわけでしょう。

叔父 うん。普通の人にはできないことだよね。でもTDネットを毎日朝から晩まで見続けて、手元の50万円を5年で20億円にした人がいるんだ。

ユリコ えっ!?

叔父 ネット上では「五月」というハンドルネームで知られている人で、もともとは専門学校卒のニート。

ユリコ ええっ!?

叔父 今は片山晃という本名を出して、シリウスパートナーズという投資会社を立ち上げているんだけど、個人資産も数百億円くらいあるんじゃないかな。

ユリコ なんか……すごすぎてどこからつっこんでいいかわからないです。一流大学に行って一流証券会社に入ったエリート、みたいな人じゃないんだ……。

叔父 そう。投資の世界に差別はないと言ったでしょう。体力もいらないし、学歴もいらない。片山さんは、もともとオンラインゲームをやりこんでいる、いわゆる「ネトゲ廃人」(失礼!)だったんだけど、あるとき投資を題材にしたドラマで「マーケットは世界を相手にするゲームセンターだ」という台詞を聞いて、「ゲームなら俺にもできる」と思ったそうなんだよね。それでまず、ゲームセンターで働いて投資に使うためのお金を稼いだ。

ユリコ 少年マンガみたいな話ですね(笑)。

叔父 それで投資のためのワンルームを借りて、えんえんとTDネットを見るということを始めたんだよね。本当に全部の情報を見て、「こういう情報なら株価は上がる」「こういう情報なら株価は下がる」ということをインプットしつづけた。そうするとたまに、「この情報はすごいから株価が上がるはずなのに、市場に反映されていない」というときがある。彼はそういうときに投資をして、バーンと上がったらまた売るということを繰り返し続けて、20億円にしたんだ。誰も見ていないような小さい会社の、すぐには株価に反映されないような情報をチェックして、何倍にもなったときに売るということをやりつづけたんだね。

ユリコ 一瞬「真似できるかな」と思ったけど、できないですね……。

叔父 うん、真似できないよね。彼はこの世の全ての上場企業の情報を見て、会社とは何か、人間とは何かというのを一人きりで問いつづけたんだ。

ユリコ まさに「投機」ですね。

叔父 そう。以前、ユリコちゃんに「街歩きをしよう」とすすめたことがあったけれど、実は数字や市場を追い続けることでも、社会に対する理解を深めることはできるんだよ。ただ、そうやって数字から本質を見続けるのは、ものすごく労力がいるし、なかなか常人にできることではないんだよね。だからこそ、成功している個人投資家のエピソードはおもしろいんだけど。

ユリコ 株以外の生活も大切にしたい人は、日常で暮らす中で投資のヒントを見つけつつ、数字や情報の力も借りるといいということですね。