ファンドマネージャーの叔父の話を聞いて、株式投資を始めたユリコ。自分で決めた銘柄としばらくつきあってみて、だんだん「投資」についての知識と経験も蓄積してきました。もっともっと投資のことが知りたいと思ってきたユリコは、あらためて叔父さんの「ファンドマネージャーとしての哲学」が気になってきて……。
※この連載は、ひふみ投信のファンドマネージャー藤野英人さんによる投資入門です。投資ファンドの運用担当をしている「叔父」が、姪の「ユリコ」に、投資について、物語形式で教えていきます。
第7回「もっと広く投資をしたいとき、どうすればいいの?」を読む
不誠実な会社を見分けるために大切なこと
ユリコ 叔父さん、こんばんは。
叔父 おや、ユリコちゃん。相変わらず楽しく株式投資をしているようだね。
ユリコ はい。叔父さんのおかげで、毎日の生活での興味関心も増えて、投資以外でも楽しく過ごしてます。それで近くを通りがてら、またお邪魔しちゃいました。叔父さんにいろいろ教えてもらって本当によかったと、あらためてお礼を言いたくて。
叔父 なんと、わざわざありがとう。ぼくとしては、「お金」や「投資」について前向きに興味を持ってくれる人が増えることがうれしいから、ユリコちゃんが楽しく投資をしているというだけで十分なんだけどね。
ユリコ 株を始めてからいろいろな企業のニュースにも関心が高まったんですが、東芝のニュースなど、大企業の不正の話を見ていると、とてもかなしくなりますね。先日も、富士フイルムの決算延期のニュースが流れていました。
叔父 海外子会社でのリース取引での不適切会計があって、200億円以上の損失が計上されていなかったというものだね。
ユリコ 写真フィルムの技術から派生してスキンケア商品を開発して話題になっていたので、コスメ関連の銘柄としてちょっと気にしていたのですが……。
叔父 富士フイルムがそうなると予想していたわけじゃないけど、「やはり」とは思ったな。ぼくは、この種のニュースはまだ続くと思っている。
ユリコ 自分が株を持っているときに、その会社が上場廃止になってしまうとどうなるんですか?
叔父 上場廃止とひとくちに言っても他の企業による買収とか、親会社への吸収合併などの場合もあるので、いろいろなケースがあるんだよね。ただ、その会社が経営不振で上場基準を満たさなくなったり、倒産したりというような場合、その株式はほとんど無価値になってしまうことが多い。
ユリコ それを聞くと投資が怖くなっちゃいますね……。
叔父 まあ、これは投資だけの話ではないんだけど、100パーセント安全ということはないね。だからこそ、自分に理解できる企業に、手に汗をかかない金額で、分散投資しようという話をしてきたわけだよ。
ユリコ 「小さくゆっくり長く」投資しようというのを叔父さんに何度も教えていただきましたね。1銘柄あたりにかけるお金を少なくして銘柄を分散することで、リスクも分散し、時間を味方につけるように。
叔父 うんうん。今のユリコちゃんはうまくやれてるみたいだね。
ユリコ そういえば最初に話を聞いたとき、叔父さんのようなお金のプロが運用する「投資信託」を活用すると、自分だけではわからなかった幅広い銘柄に分散投資ができるという話を聞きましたよね。個別株の投資を一通りやって学んだ今だからこそ、投資信託にも興味がわいてきました!
叔父 うん、個別株もやりながら、それとは別に投資信託にもチャレンジしてみるのはいいことだと思うよ。投資信託を保有すると、どんな資産をどれくらい買っているか書かれた運用報告書が届くんだ。そういうのを見て、「お金のプロ」が経済動向をどう捉えているかなど、実践的な投資術を学ぶことができる。個別株の投資に対する勉強にもなると思うよ。
ユリコ そうかあ、叔父さんのようなプロのファンドマネージャーの人たちはいろいろな人からお金を預かって大きなお金を動かすわけですよね。私には手の届かない、高い金額の銘柄にもたくさん投資できていいですね。
叔父 まあ、ぼくたちのようなファンドマネージャーが運用している、市場平均より上回る成績を目指すタイプの「アクティブ型」と呼ばれる株式投資信託にとっては、運用額が多ければ多いほど成績が良くなるというわけではないんだけどね。
ユリコ 運用額が大きくなると、やることが変わってくるんですか? 資金力があるほうが分散投資ができるから、どんどんやりやすくなるのかなと思ったんですけど。
叔父 そういう効率の良さはたしかにある。でも、なるべく分散して、たくさんの銘柄を買えば買うほど、市場の平均に近づいていくからね。大量の資金を持った上で、そこにはまりこまずに平均よりもいい成績を出し続けるというのは大変なんだよ。だから、僕たちも運用額が増えていったら今までよりは大変になっていくかもしれない、とも思っていた。それが業界では常識とされていたしね。
でも最近、そこを乗り越えるヒントが、やっと見つかったんだよね。
ユリコ お。一体どういうアイデアですか?
叔父 「どうすればいいか」ということよりも、考えるべきは「どうありたいか」だってことに気づいて。
ユリコ つまり……?
叔父 預けていただいているお金をどうやって使うかの細かいテクニックを考えるよりも、自分たちがどういう存在でありたいのかっていうことを突き詰めるほうが大切なんだって気づいたんだよ。そうしたら、めちゃくちゃワクワクしてきたね。きっかけが、さっき話の出た東芝なんだよ。
日本国民みんなのお金で、夢を持って「信じて託す」
ユリコ どういうことですか?
叔父 日本を代表する家電メーカーであったはずが、いつのまにか債務超過におちいって、不正会計もしていて、それで上場廃止の危機に陥って、各部門の売却先を探している。本当にひどい状態だよね。大企業のすべてがすべて悪いとはもちろん言わないけれど、昔ながらの体質の企業であればあるほど、株主を裏切るような実態を隠していることが多い。だから、ぼくらのファンドでは東芝の株には投資はしてこなかったわけだけど……東芝の半導体部門(東芝メモリ)が2兆5000億円で売りに出されているというのを見たときに「買いたいな」と思ったんだ。
ユリコ え、東芝メモリを? それは……何のために?
叔父 東芝の半導体部門は、東芝のなかでは最も将来性のある優良部門だった。だから今回、東芝メモリだけが売りに出されたわけだから、当然、さまざまな外国企業が手をあげたよね。
「外国人がハゲタカのようにむらがって!」とは思わない。たとえば、
シャープ
は「鴻海」のおかげで劇的に回復したしね。でも、「儲けたい」という動機でもいいんだけど、日本国内の企業や実業家がほとんど手をあげないというのは、同じ日本人として、情けないなあと思ったんだ。というところまで考えてみたら……企業や実業家が手をあげないなら、日本国民みんなの力で買うってこともできるなと気づいて。
ユリコ あ! つまり、ファンドのような形で2兆5000億円の個人のお金が集まれば、東芝メモリだって買えるかもしれないってことですよね。
叔父 そうそう。「投資信託」ってもともと「信じて託す」と書くよね。未来を信じる人たちのお金を集めて、夢のある日本をつくるためにがんばっている経営者や企業に投資をすることで、その成長のリターンをみんなで分け合えたら……ワクワクするよね。それこそが、ぼくたちにとって今もこれからも変わらない「どうありたいか」の姿なんだ。あらためてこのことに気づいたら、アイデアはいろいろわいてきたんだよ。
例えば、もう東芝の件には間に合わないけれど、これから第2、第3の東芝のような企業が出てくるかもしれないし、東芝メモリのような優良事業が売りに出される可能性も高い。ぼくの会社の運用残高はまだ3000億円だけど、いつかのそのときのためにも、もっと仲間を増やしたい。真剣に、数兆円規模まで成長させたいって思ってるんだ。
ユリコ だって、日本人は900兆円もの現預金を持ってるんですもんね。
叔父 よく覚えてたね。800兆円のお金が銀行口座や「ゆうちょ」にあって、もう100兆円は、現金のかたちで財布やタンスやツボのなかにある。この100兆円のうち数パーセントのお金が動くだけでも、東芝メモリだって日本人の手で育てていくことができるんだよ。それを動かせてない自分たちって、タンスやツボに負けてるじゃん……と思ったら、ファンドマネージャーとしてよりよい運用成績を目指すことに加えて、また新しいやる気が出てきたんだよ。
ユリコ ライバルは、タンスやツボなんですね(笑)。これまで、投資信託でそういったことをやろうとした人はいなかったんですか?
叔父 誰にでも開かれたオープンな投資信託でやってるところはなかったね。将来性のある中小企業が成長軌道に乗るまで応援したり、大企業の改善できる部分をレスキューしたり、というのは、すごくやりたいことだと思ってる。それが、それぞれの企業の投資になるだけじゃなく、日本という国全体に夢を見て、投資をしていくことにつながるんだ。
日本はもうダメだって言って、外国に移住したり外国株に投資したりする人ももちろんいるけれど、ぼくはまだ日本という国に信頼と希望をかけられると思っているし、そう思ってくれるお客様にも夢を持って「信じて託し」てもらえるような、運用をしていければと考えているよ。
ユリコ ということは、ひとりひとりが日本の成長を支える存在になれるかもしれないんですね! 叔父さんの「夢」の大きさを知って、私もワクワクしてきました。私も、個別株の投資だけじゃなくて、投資信託にもチャレンジしてみようかな。またいろいろと教えてください! これからもよろしくお願いします!
婚活資金50万円から始まったユリコと叔父さんの話。少しは「投資」が身近に感じられたでしょうか。物語はここで終わりですが、ここから先はみなさんが自分の口座を持ち、実践を通して「投資」を体験してみてください。いつもの風景が少し違って見えてくるかもしれません。