第3話「なりゆきA子と計画的なB美。人生を楽しんでいるのはどっち?」を読む
どうも。こんにちは。毎度おなじみの私、A子29歳です。
いまも独身かって?
ええ。独身です。独身ですとも。
私、このまま独身でもいいかなって思ってます。
なんでか?
それがですね、私、最近結構あれじゃないですか。
コツコツと家計簿アプリつけたり、投資信託について(B美から)ちょっと学んだり。
B美がA子に紹介したのは、毎月積み立てができる投資信託。月1000円からはじめられるとか。
決まった額をちょっとずつ買えるので、なんとなく貯蓄女子にピッタリ。
もう、無駄な残業もしないです。
コンビニにもめったに行かなくなりました。
お弁当も作ってみようかな、と思ったら料理の腕前ゼロだったけどそれはまた別の話。
そんでもって、この勢いでいよいよ投資の領域に足つっこんじゃう?
そろそろお金に働いてもらっちゃう?
なんて思い立って、行ったんですよ。本屋へ。
そうしたら、マネーコーナーの一番目立つところに、それはあったんです。
“30代”と“単身”……これ以上、私にとって自分ごと化できる言葉を知らない。
20代と30代を隔てる1年は、本人達にとって大きな違い。「わ~もう20代終わる~」と理由もなく焦りがち。しかし、「自分は30代である。別になにも変わらない」と認められたとき、ふと気持ちが楽になることも少なくない。一方で、「今のままの仕事や生活のままでいいのかな……」という漠然とした不安を感じている未婚女性は約半数の53%。20代も30代も関係ない。要は気持ちの持ちよう。
(2016年6月マイナビウーマン調べ│22歳~39歳社会人女性対象│有効回答数200件)
定時後に魅せるB美の一連の動きさながら、光のスピードでレジへ直行。
華金にもかかわらず、家でカップ麺(コンビニじゃなくてドラッグストアで買った特売のやつな)をすすりながら、読みふけった。
そして今日、またまたB美とのランチ。
いつもとは違う、一皮むけた私をあの女に見せつけたい。B美より人生ちょっとだけ長めに生きてるんだから、一回くらい勝ちたい。一回だけ、B美に「いやあ、参った!」という顔させたい。
何にか分からないけど。
鼻息あらく、B美が指定したチョップドサラダなるものを食べさせる店に到着した。
なんだよ、チョップドて。
それからなんで、サラダしかないんだよ。草食動物かよ。
(ほんとは1回くらい、私のオススメの店を指定したいわ!)
でも不満は言わない。
「センパ~イ!!! こっちこっち!」
テラス席から大きく手をふるB美。
くそぅ、やっぱ今日もかわいいな……。
恋のチカラかよ。少女マンガかよ。
いや、でも。弱気になるな自分!
今日の私はこれまでとは違う。
テラス席に腰をかけ、戦いのゴングが鳴った。
「突然だけど、B美ちゃん、私さマンション買おうかな~って思ってるんだよね。B美ちゃん、そっち系どういう風に考えてる?」
B美がめっちゃ、キョトン顔してる!!
っしゃーーー!!!!
得意げな私と、キョトン顔のB美の間に、チョップドサラダなるものが運ばれてきた。
1280円したのに。
まあ、いい。
とりあえず気を取り直して、ネットと雑誌で得たマンション購入に関する知識をB美にすべてぶちまけた。
アンケートによると、“実際にはしていないが興味がある投資”として26%が「株式」と回答。次いで25%が「国債」、20%が「外貨預金」、9%が「不動産投資」。また投資を始めたきっかけとして、「同世代の友人がやっていたから」という理由がダントツで多く、その次に多いのが「雑誌や情報サイトを見て」という理由。
(2017年6月マイナビウーマン調べ│22歳~40歳社会人女性対象│有効回答数79件│複数回答可)
「ほら、今えっと、マイナス金利だっけ? まあとにかく、金利がマイナスな感じになってるわけよ。あと調べたら、今のアパートの家賃と同じくらいの返済額で綺麗な分譲マンションに住めるんだよ? そう思うと毎月、家賃を払ってるのってバカバカしいじゃない? ほらそれに、まあ、結婚とか? そういうことになったら売ればいいんだし。売れなきゃ貸して家賃収入得るっていう方法もあるらしいしさ! めっちゃ良くない? どお? B美ちゃん、マンション買いたくなってきたでしょ? 興味あれば私に何でも聞いてくれていいからさ」
黙々と鳥の餌、いや、違う、チョップドサラダを食べていたB美がまっすぐ私の目を見てこう言った。
「センパイ、複利ってしってますか?」
ん? ふくり?
FUKURI?
Fukuri?
「…………あ、あ、あぁーフクリねーーーー」
B美の、労わるような慰めるような、視線が痛い。
「センパイ、たくさん調べて勉強したんですね。すごく良いことだと思います! でも一つだけいいですか? 聞いたことあるかもしれないですけど、金利って“単利”と“複利”っていうのがあるんですよ」
チュンチュン。
すっかり、チョップドサラダを食べる小鳥と化した私は、おちょぼ口で細かく切られた野菜を食べている。
小鳥A子こと、私が聞いたB美の話をまとめてみよう。
マンションを購入するにしても、ローンを組むのが一般的。
しかも期間は何十年。
すると、結果的に購入のためにかかるお金は、マンション購入時の価格プラス、ローン返済の利息が上乗せされる。ヘタしたらプラス1000万円以上。
簡単にいうと、『利息が利息を生む』ということ。
複利はある面で、長い目でみると大きな利益につながることもあるが、ローンなどの場合は負として働くこともある。
ここをしっかり分かっていないと、後で痛い目をみる。
「センパイがそこまで、しっっっっっかり考えてマンションを買おうとしているなら、私は何もいわないです」
言い切ったB美の顔を見てハッとした。
「で、でも……でも!!!
どの記事を読んでも今が買いドキ! って書いてあるし、東京オリンピック前に買うべし! と書いてあったもん!!!!
「…………」
ふっ、今日も完敗か……。
本屋でたまたま見つけた雑誌で舞い上がって、これでB美をギャフンと言わせたかっただけなのかな。わたし。
お金のことや将来のことまでちゃんと考えてるB美に彼氏ができて。
どんどん離れていくB美に置いていかれないようにと焦って。
B美より優れた“何か”を見せつけたかったのかもしれない。
私が今日やろうとしたことは、きっといわゆるマウンティングってやつだ。
そんな女になるなんて。
情けない……。
マウンティングは、女子がよく使う手法。
一見すると攻撃的だが、実際には自分に自信がないゆえ“弱い自分を守るためのバリア”として使われることが多い。
「センパイ、本当の幸せはお金じゃないんですよ。私、センパイが大好きです。いっつも一生懸命で、優しくて、仕事もできて。だから私、センパイとのランチが毎回楽しみなんです。こうしている時間も、センパイが私に時間を投資してくれてるってことなんですよ。だから私も精一杯、センパイに何かを返したいんです」
「……(トクン!)」
「センパイ、いつか結婚したいってこの前、居酒屋で言ってたでしょ? じゃあ結婚して幸せになるための投資、してみませんか? 金曜日にカップ麺すすりながらマンション購入について調べるより、もっと外に出ていろんな人と話したり、出会いを求めてみることが、今センパイにとって一番必要な投資かもしれないですよ?」
「B美ちゃん……」
なんていい子なの。
やっぱりB美って、ほんっといい子だ。
(てかなんで、カップ麺すすってたこと知ってるの? やっぱりエスパーなの?)
B美はさらに続けた。
「前に私、料理教室通ってるって言いましたよね? あれも、いつか結婚したいと思える素敵な人に出会ったとき彼の胃袋を掴んで離さないための、いわば投資です。婚活パーティーに毎週行っていたのも、将来のライフプランを実現するための投資。どんな人と関わって、どんな風に過ごすか、その選択もすべて投資だって思ってます。
私、お金は好きですけど、単純にお金を殖やすことだけが大事じゃないです。
熱弁するB美に心を打たれ、気づいたら私はうっすらと涙をうかべながら彼女の手を強く握り締めていた。
“マネープランを立てる上での困りごとは?”というアンケートによると、45%が「お金について詳しい人が周りにいない」と回答。将来が不安、なにか準備をしておきたい、と思いながら誰に相談してよいか分からないというジレンマを抱えているよう。信頼できる人を見つけておく事が、将来の不安を払拭するための近道かもしれない。意外と。
(2016年7月マイナビウーマン調べ│22歳~39歳社会人女性対象│有効回答数200件)
もう素直に認めよう。
やっぱり私、この子が大好きだ!!!
「あ、センパイ、いま自分で言ってて気づいたんですけどぉ~、私も、今この時間をセンパイに投資してるってことですよね? だったら、たまにはセンパイがお店選んでください♥ 毎回私っていうのは不公平ですう~」
そしてB美はニコっと笑った。
「センパイ、いいかげん、
してくださいね!!」
さすがB美。こんなときでも抜かりなくちゃっかりしてんな~。
でも不思議と、全然イヤじゃないや。
「うん! いつも遠慮してたけど、次は私が選ぶよ!!!」