買うことより難しい、投資の「出口戦略」を考える

目指せFIRE!おけいどん式 資産形成術/ 桶井 道(おけいどん)西田ヒロコ

これまで、節約、貯蓄、投資とお金の増やし方について語ってきました。お金は増やすことも大切ですが、増やしたお金をどう使っていくか、つまり投資の「出口戦略」を考えることも同じくらい大切です。

今回は、私の単行本「月20万円の不労所得を手に入れる! おけいどん式ほったらかし米国ETF入門」(宝島社)より一部引用しながら、投資の「出口戦略」についてお話しします。

「投資信託を積み立て中の人、老後はどうやって売る予定ですか?」

老後に向けた資産形成のために国が用意してくれたのが、少額投資非課税制度の「NISA(ニーサ)」「つみたてNISA」や個人型確定拠出年金の「iDeCo(イデコ)」です。いずれも、投資で得た利益にかかる税金20.315%がかかりません。

投資対象はともに運用コストが安い投資信託がメイン。分配金をなるべく出さず、再投資に回すものが多いため、利益がまた新たな利益を生む複利運用の効果が得られます。
NISAやiDeCoの非課税枠をフル活用して投資信託で資産形成を励むのはよいことです。“ETF推し”の私も、その点について異論はありません。

ただ、積み立てた投資信託はいずれ売らなくてはいけません。資産の取り崩しが必要になったとき、どのように売っていくのかが悩みどころです。

毎月売るのか、1年に1回売るのか? 毎月少しずつ売ることに決めたとして、売りたいと思った月に投資信託の基準価額が大きく下がっていたら「こんなに下がった月は売りたくない」と、手がとまってしまうのではないでしょうか。

基準価額が一番高くなったときに一括売却するのが正解のようにも思えます。しかし一番の高値は、あとから振り返らないとわかりません。また運用資産すべてを売却してしまうと、その後は運用益が得られません。現金を取り崩すだけの生活になります。

生活に必要な範囲で少しずつ取り崩しながら、まだ証券会社にある資産は少しずつ増えていくのが理想です。それにしても、「毎月何万円または資産の何%分を引き出すのか」を決めるのは難しいですね。買うことより売ることのほうが何倍も大変なのです。

その点、ETFなら元本を取り崩さなくても毎年、分配金が支払われます。意外に誤解が多い部分なのですが、分配金が出たら、その分だけ価格が下がることは知っておきましょう。価格はそのままで、分配金だけ魔法のように出てくるわけではありません。つまりETFの分配金受け取りは強制的な利益確定といえます。「分配金+年金収入」の範囲内で生活できるなら、“自分の意思で”元本を取り崩す必要がないということです。これこそ、投資信託ではなくETFを使って資産運用するメリットです。

(以上単行本より引用)

なぜ「出口戦略」は語られないのか

単行本や投資雑誌、ウェブメディアなどでお金の増やし方が多く語られる一方で、「出口戦略」、つまり取り崩し方がこれまであまり語られてこなかったのは何故でしょう? 買うことより売ることのほうが何倍も大変なのに、です。

語られないくらいだから、問題にもなってなくて、簡単なことなのでは? いいえ、私はそうは思いません。これまで、投資の出口戦略が語られなかった理由として、次のように考えます。

(1)これまでの世代は、退職金や公的年金が充実していて、それで老後を暮らせた
(2)投資していたのは富裕層がメインで、資産があって投資に出口戦略が必要ではなかった
(3)平均寿命が今ほど長くなかった

数年前に物議を醸した「老後2000万円問題」すら無かった世代には、そもそも投資する必要がなかったのです。ゆえに、投資の出口戦略など語られることもなかったのです。

これからの世代は、人生100年を生きると言われています。にもかかわらず、退職金も賃金も公的年金も、まず増えません。だから「投資」が当たり前となるわけです。よって、お金の増やし方だけではなく、「出口戦略」も考えておくことが大切です。

お金を増やすには何十年もかかります。せっかく増やしたお金を、取り崩しで失敗するわけにはいきません。もし失敗してしまったら、取り返す時間はもう無いのですから。

ETFが出口戦略に向いている2つの理由

ETFと投資信託には一長一短がありますが、出口戦略という視点では、私はETFに軍配が上がると判断しています。理由は2つ。

①自動で分配金を得ることができるから
②「投資判断力」の鈍化をカバーできるから

ETFなら、分配金が自動で支払われます。相場が悪く株価が大きく下落しているときでも、メンタル的に楽です。支払額がある程度計算できる点も良いでしょう。ETF1本に投資すれば分散投資ができていますので、決算確認や投資判断も必要ありません。

それから、投資には年齢も関係してきます。若いうちは気にならないことですが、高齢になると、投資判断が鈍ります。売買の判断ができなくなるのです。実は、私の父は80代になって投資判断することが難しくなり、保有していた個別株をすべて売却して投資家を引退しました。

個別株に限らず投資信託でも判断が必要なことは同じです。証券会社によっては、投資信託の自動取り崩しサービスがありますが、生涯同じ取り崩し設定でいいとは限りません。再設定を判断する力が年齢とともに衰えるリスクがあります。

よって、私はETFの分配金+公的年金で生活することを提案します。20代、30代から出口戦略を決める必要はありませんが、いずれ必要となっていくことだけは頭の片隅に置いておくと良いと思います。

今回のまとめ
・お金の増やし方だけでなく、お金の出口戦略も考えよう
・ETFなら自動で分配金がもらえて投資判断力の鈍化もカバーできる
・出口戦略の観点ではETFに軍配が上がる

次回は2/27(月)配信予定です。