居心地の良い場所にいて、一生の仕事に出会うことはない

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小中学校の理科でお馴染みの微生物、小さな藻の仲間のミドリムシ(学名:ユーグレナ)。顕微鏡でようやく見えるレベルの大きさながら、実は豊富な栄養素を持っていることで近年注目を集めています。

そんなミドリムシの可能性を信じ、その食用屋外大量培養とビジネス化に世界で初めて成功したのが、「 ユーグレナ 」創業者の出雲充さん

バイオの専門家でもなかった出雲さんが、なぜ「世界の栄養問題をミドリムシで解決したい」という大なビジョンを持ち、それに邁進することができたのか。その理由を深堀りしたいと思い、インタビューを申し込んだのですが……

結果として、僕らは「やりたいこと探し」に関する大きな勘違いに気付かされることになりました。

【出雲充(いづも・みつる)】1980年、広島県生まれ。1998年東京大学文科三類に入学。グラミン銀行のインターンとしてバングラディシュに赴いた際に食料問題に関心を持ち、3年進学時に農学部に転部。2002年同大学を卒業後、東京三菱銀行に入行する。2005年株式会社ユーグレナを創業し、代表取締役社長に就任。同年12月に、世界初となる微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の食用屋外大量培養に成功。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)、『サステナブルビジネス』(PHP研究所)などがある

〈聞き手=渡辺将基(新R25編集長)〉

記事提供:新R25

居心地の良い場所にいるだけでは、人生をかけるべき仕事に出会えない


最近は「やりたいことがない」と悩み、出雲さんのように「ビジョンを持っている人」に憧れているビジネスパーソンは多いと思うんです。
そもそも出雲さんは、なぜ早くから「世界の食料問題・栄養問題を解決していきたい」というビジョンを持つことができたんでしょうか?
親御さんの育て方が影響しているとか……?


それは一切関係ないです。
学生時代にたまたまバングラデシュに行き、そこで「なんでこんなことになってるんだ」と驚愕した。
その経験がすべてです。


「ビジョンを持つ」というテーマに関して、これが一番お伝えしたいことなんですけど……
居心地の良いところにいて、自分が一生を捧げたいと思える仕事やテーマに出会えることはないと思うんです。


実体験からそう感じているんですね。
でも、ではなぜ学生時代にグラミン銀行でインターンをしようと思ったり、バングラデシュに行ってみたいと思ったりしたんでしょうか?


頭の良い人ほどそういう質問をするんですけど、順番が全部逆なんですよ。


私は、「やりたいことを見つけよう」と思ってバングラデシュに行ったわけじゃないんです。理屈じゃなくて、とにかく居心地の良い場所から自分の身を投げ出しただけ
その結果として、「栄養失調の子どもたちに元気になってほしい」という人生のテーマと出会うことができました。


なるほど…… ビジョンって必然じゃなくて、偶然から生まれるんですね。


今はVUCAの時代と言われてますけど、先のことは何もわからないじゃないですか。これまで正しいと言われていたことが、すぐに通用しなくなるかもしれない。
だから、行動するために「なんで?」と理由を追い求めること自体が意味をなさない時代なんです。
これだけは頭に置いておいたほうがいいですよ。

起業家教育の権威・バブソン大学が“一番最初に教えること”


ただ、ここまでお話しても、「お前の体験談は特殊なケースでしかない」「そんな偶然を信じて無謀な行動はできない」と思っている人もいるかもしれませんよね。
私の話だけじゃ説得力がないと思うので、アメリカのバブソン大学が教えていることを紹介させてください。


バブソン大学、ですか。すみません、存じ上げず……


バブソン大学は、起業家教育で全米No.1の大学です。
私も以前そのプログラムを受けたことがあるんですが、そこで一番初めに教えることって毎回決まってるんです。


起業家教育の一丁目一番地、気になります。


それは、「Get Out Your Comfort Zone」。すなわち、「コンフォートゾーンを飛び出せ」。
それにより、自分の使命・天命・運命に出会うことができるんだと。

記事では伝わりませんが、異常に発音がよかったです


だからバブソン大学では、起業家を目指している学生を、自分が行ったことがない場所、友だちがいない場所、英語が通じない場所に放り出すんです。


へぇ〜! それは興味深い指導ですね。


当然ですけど、そういう場所ってすごく居心地が悪いじゃないですか。
でも、そこで感じた怒りや、悲しみや、感動を通じて「自分はこんなことがしたい」とか「こんな社会課題を解決したい」という気持ちが芽生えるんです。
やりたいことって、そういう順番で見つかるんですよ。

今は賢い人ほど「効率」にトラップされている


たしかに、居心地の良いところに居つづけてしまうと、そうやって感情が揺さぶられる経験はなかなかできない気がします。
ただ、「コンフォートゾーンを飛び出す方向」っていろいろあると思うんですが……そこはどう考えればいいんでしょうか?


うーーーん…… 「どこに飛び出すべきか」ってことですかね?
頭の良い人ほどそう考えるんですが、私が一番嫌いな言葉、私が会社で絶対に使わない言葉が「効率」なんです。


「効率」というのは、高度経済成長時代のように、社会が安定しているときには重要です。
でも、今みたいな先行きが見えない時代で効率にこだわると、選択肢が多すぎて動けなくなります


そうこうしているうちに社会環境が変化して効率の基準が変わってしまったら、またもう一回やり直しじゃないですか。
それを繰り返していると、コンフォートゾーンを飛び出して感情が動く経験をするのが遅くなる、もしくはそういう経験が一生できないかもしれない。


たしかに、「効率」という言葉は正解がある時代にしか通用しない概念なのかもしれません。


だから今、賢い人ほど「効率」というものにトラップされてると思うんです。
それを壊すために、バブソン大学は「居心地の悪い場所へ身を投げ出させる」ということをインテンショナル(意図的)に、わざとやってるんですよ。
これが起業家の動機形成につながるということが、統計的にわかっているので。


「ビジョンを持つためにどうすればいいか」という問いに対しては、バブソン大学のデータと出雲さんの原体験、どちらも同じ結論を導き出しているんですね。


そうなんです。


ちなみに、「コンフォートゾーンを飛び出す」経験は、起業家以外の人にも必要だと思いますか?


それはSuper Good Questionですね!!!

今日はじめて褒めてもらえました


今って、これまでの延長線上にないものを社会が必要としているじゃないですか。そういう時代には、すべてのビジネスパーソンに「アントレプレナーシップマインド」が必要なんです。
だから、新しいことに挑戦しようとする姿勢はどんな会社であっても歓迎されますし、そういう姿勢を持った人こそがリーダーに抜擢されると思います。


サラリーマンにもアントレプレナーシップ精神が求められていると。
実際に経営者である出雲さんがおっしゃると説得力があります。


ありがとうございます。
だから、「居心地の悪いところへ飛び出す」というのはすべての人にオススメしたい習慣なんです。

「コンフォートゾーンを飛び出すリスク」は過大評価されすぎている


ちなみに、出雲さん自身も、いまだにコンフォートゾーンを飛び出すことを意識しているんでしょうか?


質問ありがとうございます。実は今でもやってるんですよ。
私はミドリムシの分野では第一人者だと自負しているので、ミドリムシ業界にいれば一番エラそうにできるし、正直そのほうがラクです。
でも、異業種から仕事のオファーがあったときは可能な限り引き受けて、まったく知らない分野に自分を押し出すようにしています。


なるほど…… 正直、自分はそういう話を断ってしまいがちですね(汗)。


もちろん、専門外のフィールドに出ていくと恥ずかしい思いをすることも多いです。
ただ一方で、「これは気づかなかった」「ミドリムシでも活用してみたいな」という新しいヒントやテーマが必ずいただけるんですよ。視界が広がるんです。


考えてみてほしいんですけど、このとき最大のリスクは、「自分が恥ずかしい思いをする」ということじゃないですか。
これをほとんどの人が過大に見積もってるんです。
そこで恥をかいたって、1時間もしたらまわりの人は誰も覚えてないですよ。


堀江さんも同じことを言ってました。


先ほど、真面目な人・賢い人ほど、効率的な選択肢を過大評価していると言いましたが、こういう人は「自分が恥ずかしい思いをする」というリクスも過大に評価してるんです。


たしかに、そうかもしれません。
これまでの話を聞いていて思ったんですが、今は一見非合理に見えることが、実は合理的だったりする時代なんですね。「合理的な非合理の選択」が大切なのかなと。


それ、いいですね!
戦略的に非合理を選択しよう」。このメッセージ、広めていきたいですね。

出雲さんオススメの「コンフォートゾーンを飛び出すトレーニング」


ただ、「戦略的に非合理を選択しよう」と言うと、少し小難しく感じてしまうかもしれませんね(笑)。
出雲さんの「コンフォートゾーンを飛び越えよう」というメッセージはわかりやすいし、行動につながりやすいと思いました。


別に、私みたいにいきなりバングラデシュに行く必要はないんです。
会社の新入社員にもよく伝えていることなんですけど、初級者の方にまずやってみてほしいのが、毎日の通勤ルートを変えてみること
たとえば、降りる駅を1駅ずらしてみるとか、バスや自転車を使ってみるとか。
まずはこうやって、居心地の悪いところへ飛び出すトレーニングをしてみてほしいんです。


ほかにも、「10年間くらい連絡をとっていなかった友だちと会ってみる」とかでもいいですよね。
とにかく、場所・時間・付き合う人のどれかを変えてみる。その習慣を日常に取り入れてみてほしいんです。


それを繰り返しているうちに、飛び出しグセがついてくると。


そうですね。正確にいうと、「飛び出すことが怖くない」ことと、「飛び出して恥ずかしい思いをしてもたいしたことがない」ことがわかってきます。
飛び出すことへの免疫力が高まるという感じでしょうか。


「飛び出しても大丈夫だ」ということに気づける、ということですね。


そうです、そうです。


僕も経験上、習慣や環境でチャレンジ体質はつくれると思っているので、すごく共感します。

これからの時代は「性善説」で考えるべき


今日は温かく、そしてアツいメッセージをありがとうございました。出雲さんのお話は、やりたいことが見つからずに悩んでいる人たちの行動指針に間違いなくなると思います。
今まで新R25のコンテンツを見たことがなかった人は、コンフォートゾーンを飛び出してぜひこの記事をシェアしてほしいですね(笑)。


あ、いいですね!
この記事を見て、「自分の意見を発信してみよう」と思ってくれる人がいたら、こんなにうれしいことはないです。


でも、「コンフォートゾーンを飛び出して、はじめて批判的なコメントをします」という人がいたらどうしましょう?(笑)


あっはっは(笑)。
渡辺さん、賢いからすぐそういうことを考えるんですけど、大丈夫です。そういう人はいませんから。

間違いを指摘する際に、「渡辺さんは賢いから」という言葉でプラマイゼロにしてくれる出雲さん


これからの時代は、性悪説より性善説で考えたほうがいいですよ。
性悪説に立つと、何もしないことが正解になってしまいますから。


たしかに、先ほどの話にも関連しますが、性善説に立てない人は無駄なリスクを見積もって動けなくなってしまいますよね。


そうです。
これまでの安定した社会では、いいものを内側に取り込んで少しずつ成長していく、クローズドなやり方が正しかったんです。
でも今は、これまでの延長線上にないまったく新しいものが求められているので、オープネスとイノベーションとの親和性がすごく高いじゃないですか。
現代は「クローズド」から「オープン」「性悪」から「性善」で考えるべき時代に急激に転換してるんです。


その考え、心に刻みたいと思います。


だから、性善説で考えましょう。
性善説で社会を信じて、居心地のいいところを飛び出す
これがVUCAの不確実な時代に、真面目な人ほど効果てきめんですから。

「考える前に動け」「コンフォートゾーンを飛び出せ」

いつもなら右から左に受け流しがちだった言葉たちが、このインタビューではまったく違って聞こえました。

やりたいことが見つからない。このままでいいのかわからない。

そんなふうにモヤモヤしているときは、日々少しずつ、居心地の良いところを飛び出してみる。仕事や人生の大切な行動指針にしようと思います。

出雲さん、刺激たっぷりのお話をありがとうございました。

〈取材・文=渡辺将基/撮影=長谷英史〉