ROEで読み解く味の素

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部CHINATSU

ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

ROEにも弱点がある?

資本の効率性を測る指標の1つであるROE。企業の資産効率を見るうえでとても便利な指標の1つですが、ROEにも実は弱点があります。そんな弱点をカバーする指標も併せてチェックすることで、さらに企業の「本気度」が見える場合があります。今回はそんなケースをご紹介します。

case22:味の素

今回は、うま味調味料「味の素」や、ほんだし、カップスープ「クノール」などでおなじみの「 味の素 」です。1908年に「日本人の栄養状態を改善したい」という池田菊苗博士の想いから生まれた「うま味」を、調味料「味の素」として商品化したのが事業の始まりです。最近では、スポーツ科学に基づくアミノ酸補給「アミノバイタル」を展開するなど、食と健康のさまざまな課題を解決しようとしています。

同社の予想ROEは12.1%と、目安の1つとされる8%を大きく上回っており、資本効率が比較的高いと言えます。こうした高いROE水準の背景には、同社の中期経営計画も関係しています。

2030年にROIC:17%へ

味の素が2023年2月28日に掲げた中期ASV経営 2030ロードマップによれば、ROIC(Return On Invested Capitalの略称。投下資本利益率)を経営上の重点指標「ASV指標」の1つに置いています。そして、2030年までにそのROICを17%に引き上げることを目標にしています。

※ASVとは「Ajinomoto Group Shared Value」のこと。

カエル先生の一言

ROICは「投下資本利益率」と呼ばれるもので、有利子負債を含めた資本でいかに効率的に利益を稼ぐかを示す指標です。ROEと並んで、企業の収益性や資産効率性を測る重要な指標の1つで、投資の際にもチェックしておきたい指標です。
ROIC=(営業利益×(1-実効税率))÷(株主資本+有利子負債)

ROEとROICの違い

資本を効率的に活用してどのぐらい稼ぐか、という意味ではROEとROICはとても近い指標です。しかし、ROEの場合は、借入金を増やし、株主資本の比率を下げるなど財務的なテクニックを活用すると、それだけで上昇してしまいます。ROICの場合はそうしたテクニックは関係せず、いかに本業で効率的に稼いでいるかを測ることができるのです。

同社がROEではなくROICを採用した理由は、上記のほかにも、これまで資産効率性の観点をあまり重視せず事業を拡張してきたという反省に立っているという側面もあります。グローバルで活躍する企業にとっては、いまや欠かせない視点の1つになっているようですね。

資産の効率性を上げる工夫とは

そんなROICを経営上の重点指標に掲げる同社ですが、「収益の改善」「資産の圧縮」の両面にて構造改革を進めています。具体的には、2020〜22年度において300億円規模の収益改善や、1900億円規模の資産圧縮(事業資産の圧縮や政策保有株の売却など)を計画しています。

また、同社が展開する「調味料・食品」「冷凍食品」「ヘルスケア等」の3事業において、事業分野ごとのROIC目標も掲げています。それにより、事業ごとの「見える化」を図り、経営の透明性を確保しようとしていることがわかります。

足元は過去最高の売上高・事業利益

足元の業績は好調です。2022年度の第3四半期決算では、増収増益(事業利益)を達成。2016年度のIFRS(国際会計基準)導入後では、四半期・累計ともに過去最高の売上高と事業利益を更新しています。原材料等のコストの増加はあったものの、販売価格の値上げや為替、ヘルスケア等分野の増収などにより、増収増益(事業利益)を達成しています。

〈ROEの読み解き方3ヵ条〉
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①から味の素を見てきました。ROICを経営上の重点指標として掲げ、あらゆる面から資産の効率化を図る同社。グローバルな観点で経営を実践するからこその、高い目標と透明性の高さが伺えますね。ROEと併せてROICも覚えて、銘柄を選別する際のチェック項目の1つにしてみてはいかがでしょうか。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。