GXってなに?

これだけは知っておきたいESG投資のこと/ SMBC日興証券 サステナブル・ソリューション部岡田 丈

「GX」という言葉をご存じでしょうか。「GX」はグリーントランスフォーメーション(Green Transformation)の略で、環境に優しいクリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のことです。2023年2月に日本政府が「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。日本ではGX実行に向けた取り組みが本格化しようとしています。そこで今回は、GXってなに? 私たちの生活にどう関係しているのか? を紐解いていきます。

GXがいま求められているワケ

なぜいま、GXが必要とされているのでしょうか。これには大きく2つの背景が挙げられます。1つは温室効果ガス削減のためです。世界各国で温室効果ガス削減に向けて取り組みが進む中、日本も2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年のカーボンニュートラル実現という国際公約を掲げています。
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そのために、GXによるエネルギー構造の転換が求められているのです。2つ目の背景としては激変する世界情勢があります。2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻、さらにはロシアへの経済制裁から、火力発電の燃料であるLNGや原油などのエネルギー不足が懸念されています。
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私たちが生きるため、豊かな生活を送るために行うさまざまな活動には、エネルギーの安定供給が必要不可欠です。化石燃料に頼らず、再生可能エネルギーや原子力を活用しながらカーボンニュートラルを達成できるエネルギー需給構造へ転換することが、喫緊に求められています。そして、この転換を経済成長の機会と捉えて、日本の産業競争力を高めることがGXの目的なのです。

IHIの世界初! CO2が出ないアンモニア専焼ガスタービン開発

それでは具体的に、GXに向けた先進的な取り組みをご紹介します。

IHI 」は、2023年1月に米GE社と協力してアンモニア専焼大型ガスタービンの開発を進めることを発表しました。

アンモニア=「刺激臭の強い有害物質」をイメージする人も多いかもしれません。しかし、アンモニアは輸送・貯蔵が容易な「エネルギー・キャリア」であり、さらに燃焼してもCO2を排出しない次世代エネルギーとして注目されています。現在、石炭火力にアンモニアを混ぜて発電を行う「混焼」という技術の実証実験が進められています。

さらにIHIでは、CO2を排出しないアンモニア燃料のみで、効率よく発電(=「専焼」)を目指す先進的な取り組みを行なっており、2022年6月にガスタービンで100%アンモニア燃料とするCO2フリー発電を実現しています。

アンモニア専焼ガスタービン発電(出所:IHI)

この動きはアジアを中心とする海外でも進んでいます。IHIは、シンガポールやマレーシア、インドネシア、インドなどでアンモニアを燃料として活用する取り組みを現地パートナーと共に進めています。日本企業が持つ水素・アンモニア技術は、世界のカーボンニュートラルに貢献していく可能性を秘めています。

東京ガスが進める「メタネーション」とは

ガスのカーボンニュートラル化を実現するため、「メタネーション」という技術の開発・実証に取り組んでいるのが「 東京ガス 」です。

メタネーションとは、水素とCO2を化学反応させ、都市ガスの主成分であるメタンを合成する技術で、合成されたメタンはe-methane(e-メタン)と呼ばれます。

発電所等から排出されるCO2を回収・利用してメタンを合成し、消費地で都市ガスとして再利用するため、グローバルで捉えれば、e-メタンを利用しても大気中のCO2は増加しません。こうしたことから、e-メタンはカーボンニュートラルなエネルギーとされています。e-メタンは都市ガスの主成分であるため、既存のガス管やガス機器をそのままで活用できることも大きな利点です。

e-メタンの社会実装に向けて、三菱商事・東京ガス・大阪ガス・東邦ガスの4社では、米国から日本へ合成メタンを導入するプロジェクトの検討を開始しています。2030年に約13万トン/年のe-メタンを製造し、日本へ輸出することを目指しています。

ほかにも東京ガスは、水素の調達をせずに水とCO2からe-メタンを製造する「革新的メタネーション技術」の開発に取り組んでいて、カーボンニュートラル実現のための技術の社会実装を進めています。

横浜メタネーション施設・水素タンクとCO2タンク 出所:東京ガス

私たちの「家」もGX化が必要?

GXの実現には、供給側だけでなく、受け取る側である私たちの暮らしでもGX化が必要です。環境省のデータ(2020年度確報値)によると、日本でのCO2排出量の約2割弱程度が家庭由来です。GXの実現には、消費者である私たちも取り組んでいく必要があります。

それでは、身の回りで実現可能なGX化にはどのようなものがあるのかを見てみましょう。

政府の方針では、新しい資本主義に向けた計画的な重点投資の具体的な取組例として、住宅分野では2025年度までに住宅の省エネ基準への適合を義務化しています。また、先進的な省エネ投資を支援することで、2030年度以降に新築される住宅について、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準の省エネ性能が確保されることを目指しています

全国の民間金融機関と提携して全期間固定金利の住宅ローン【フラット35】を提供している独立行政法人住宅金融支援機構。脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速させるため、私たちの暮らしそのものを支える「住宅」の省エネ実現に取り組んでいます。

住宅金融支援機構が脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速するために提供するのが、住宅ローンの金利優遇策です。省エネルギー性等を備えた質の高い住宅を取得する場合に、借入金利の一定期間引下げをしています。ほかにも、既存住宅の省エネルギー性能を向上させる省エネリフォームを推進するため、2022年10月から【グリーンリフォームローン】の取扱いを開始しています。

「物流」でも進むGX化

私たちの生活に必要な物品を運ぶ「物流」においても、GX実現に向けた取り組みが始まっています。トラックによる輸送から、環境負荷が低く、大量輸送を可能とする鉄道や船舶への輸送手段の転換を意味する「モーダルシフト」が求められています。

独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、鉄道建設や船舶の共有建造等、我が国のモーダルシフトを促進する中心的な存在であり、過去整備した鉄道路線は3,600km以上、建造した船舶は4,000隻以上にものぼります。2019年には、環境改善効果について厳格な国際基準を設けるCBIからプログラム認証をアジアで初めて取得し、毎年度四半期毎にグリーン性とソーシャル性のいずれの要素も100%兼ね備えたサステナビリティボンドを継続的に発行しています。

サステナビリティボンドとは、調達した資金が環境改善効果を有するプロジェクト(グリーン性)と社会的課題への対処や軽減に貢献するプロジェクト(ソーシャル性)に充当されるものをいいます。

次世代バイオディーゼル燃料サステオを給油して試験航行する観光型高速クルーザーSEA SPICA出所:JRTT鉄道・運輸機構

同機構は2021年7月、バイオ燃料を活用した船舶や鉄道建設現場における更なる温室効果ガス排出量の削減を目指し、 ユーグレナとの連携を発表しました。その後、神奈川東部方面線事業( 相鉄東急 直通線)の鉄道建設工事や内航船試験航行において、ユーグレナの製造・販売するバイオ燃料「サステオ」を燃料の一部として給油しました。その結果、建設工事や内航船試験航行に支障はなく、温室効果ガス排出量の削減が期待できる可能性が見出されました。

バイオ燃料「サステオ」出所:JRTT鉄道・運輸機構

官民一体でGXを推進

また、地方自治体単位でもGX化の浸透が期待されています。2022年6月に日本政府は、「地域脱炭素ロードマップ」を公表しました。その中で「地域脱炭素は地域課題を解決し、地域の魅力と質を向上させる地方創生に貢献」と謳っています。2030年度までに少なくても100ヵ所の「脱炭素先行地域」を選定し、その地域の特性に応じた先進的な取り組みを全国展開することで、2050年を待たずに脱炭素を達成する「脱炭素ドミノ」の実現を目指しています。

これまで2回の選定が行われ、46の地域・自治体が選ばれています。2023年2月には第3回目となる募集が行われていて、脱炭素に取り組む地域・自治体は今後も広がっていきそうです。

脱炭素先行地域に選定された地域・自治体

脱炭素先行地域に選定された46地域・自治体(第1回と第2回)

また、下記の13の自治体は既に、環境課題の解決に資する事業・プロジェクトに調達資金を充当する、いわゆるグリーンボンドを発行しています。このグリーンボンドの発行を通じて環境問題の解決に取り組んでいる自治体は数多く存在します。
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グリーンボンドを発行した自治体;東京都(※過去に個人向けグリーンボンドも発行)/長野県/神奈川県/川崎市/福岡市/三重県/仙台市/兵庫県/静岡県/大阪府/愛知県/京都市/大阪市

日本企業が持つ技術は、国内および世界におけるカーボンニュートラルに貢献する可能性を秘めていて、その技術は常に進化しています。また、今後は地方自治体や、社会課題解決を担う独立行政法人等も脱炭素化に向けた取り組みを加速していくものと考えられます。カーボンニュートラルの実現のために私たちができることは、日常生活でGXを意識することではないでしょうか。