【味の素/対談編】半導体部品を作ってるってホント?

御社の決算、教えてください!/ 妄想する決算

音声プラットフォームvoicyの決算10分解説で人気の「妄想する決算」さんが、企業を分析、対談する動画「御社の決算、教えてください!」。今回は、味の素株式会社のグローバル財務部の梶IRグループ長への突撃取材を公開します。

為替の影響について

妄想:最近、ボラティリティが高い為替の影響について、事業や業績に対する影響をお聞かせください。

ボラティリティ:価格変動の度合いを示す言葉

梶さん:一つは、海外事業の比率が高いことです。海外の業績を円換算して連結決算を作りますので、換算為替になりますが、これが大きく影響します。

もう一つは、日本国内の食品事業を中心として、海外から原材料等を購入しておりますので、円安はネガティブな方に働くことが大きいです。

当社の食品事業は、海外の売上と国内の売上の比率は、ざっくり7対3で、海外の構成比が高いです。そのため、全体として円安は当社の業績にとってはポジティブに働くことになります。

原材料価格高騰による値上げの影響について

妄想:値上げに対する反応はいかがでしょうか?

梶さん:足元でインフレが厳しい状況になってきていますので、生活防衛の動きは当然出てきていると思います。これは当社の一部の製品にも影響が出ております。

一般(家庭)の食卓では、肉や野菜などの食材のコストは大きな影響があるので、比較的価格が安定しているお米に合うようなメニューで使う調味料なども積極的にご提案しております。一方、外食用では唐揚げを作る際に肉汁をしっかりと閉じ込めることで歩留まりを改善したり、油の劣化を防げる製品などを提供しております。

当社は家庭用だけで見ていただくと、今年度は減収となっておりますが、課題解決型の製品やソリューションを提供する外食用・業務用の事業も合わせると、増収になっております。

成長が期待されるアジア市場

妄想:今後成長が期待できるアジア市場についてお伺いしてよろしいでしょうか?

梶さん:一昨年、私共がASEANやラテンアメリカも含めて、減塩に対する意識調査を実施したところ、ASEANやラテンアメリカの方々の方は日本以上に減塩に対する関心が高いという結果が出ています。

そのため、“smart salt(スマ塩)”という取り組みを通じて、塩分の摂取を美味しくコントロールいただける高付加価値製品や、不足しているタンパク質を上手にとっていただくことで、付加価値を感じていただける製品を展開しています。

構造改革が進む冷凍食品事業について

妄想:構造改革が進む冷凍食品事業について、これまでの取り組みやどの程度の改善が見込まれているのかお伺いしてよろしいでしょうか?

梶さん:冷凍食品事業は利益構成の中では、足元ほぼゼロに近い状況です。国内については比較的順調に構造改革が進んでいる一方、大きな課題を抱えているのが北米の事業になります

2010年代中頃に当社は比較的大きなM&Aを北米の冷凍食品の会社で実施しております。この際に獲得したアセット(編集部註:資産のこと)に低採算・不採算のものがありました。現在、工場の再編統合を進めると同時に我々の強みが活きる餃子やアジアンのカテゴリーといった、より高付加価値の製品の投入などを進めています。

これらの構造改革を成長戦略と併せて実施し2025年度にはWACC(加重平均資本コスト)並みのROIC(投下資本利益率)達成を目指しております

ワック(WACC):Weighted Average Cost of Capitalの頭文字をとったもの。資本コストの代表的な計算方法で、借入のコストと株式調達のコストを加重平均する
ロイック(ROIC):Return On Invested Capitalの頭文字をとったもの。投下資本利益率。企業が事業に使った資金から、どれだけ利益を生み出したかを示す指標

好調のヘルスケア等事業について

妄想:好調なヘルスケア等の事業について、医薬用・食品用のアミノ酸が好調ですが、今後の見通しをどの様に予想されていますか? また、競合企業と比べてどういった強みがありますか?

梶さん:ヘルスケア等の事業は、売上や利益に貢献している大きな塊が3つございます。

一つは医薬用・食品用アミノ酸というセグメントで、医薬品メーカー様とか食品メーカー様に、私どもアミノ酸を製造して販売する技術や生産設備などをたくさん持っていますのでアミノ酸をバルク(大きさ、容量)であったり、お客様の必要に応じてテーラーメイドでミックスをしたりして製造販売する事業がベースになります。

二つ目は医薬品のCDMOの事業になります。これは当社の技術を活かし、強みを持った領域にフォーカスして、医薬品メーカーさんやバイオ医薬品の企業さんなどへ医薬品の中間体や原薬を製造販売をする事業になります。

三つ目が、半導体パッケージ基板に使われる層間絶縁材フィルム、当社の製品名で「味の素ビルドアップフィルム®(ABF)」と呼んでいる製品を中心とした電子材料の事業がございます。

妄想:他の企業と比べてどういった強みがあるのかお伺いしてよろしいでしょうか?

梶さん:当社はアミノ酸の研究を120年にわたってずっと続けてきております。

長年、研究と設備投資を行いグローバルで展開できる基盤を整えて参りました。高品質のアミノ酸はグローバルでいうと、40%ぐらいマーケットシェアを頂戴しているような状況です。医薬品メーカーさんやバイオ医薬品の企業さんがバイオ医薬品をお作りする際にお使いいただく培地の開発・販売を当社が行うほか、収益貢献は少し先になるかもしれませんが、iPS細胞を使った再生医療にお使いいただく培地も開発をしております。

安定的にフルラインナップのアミノ酸をグローバルでお客様に供給できるということも、当社の非常に大きな強みであると考えております。

培地:細胞や微生物が成長しやすいように人工的に作られた環境

フィルムタイプの絶縁体の先駆者 ABF(味の素ビルドアップフィルム®)

妄想:ABF(味の素ビルドアップフィルム®)の強みについてお伺いしてよろしいでしょうか?

梶さん:今日は現物をお持ちしました。これがパソコンに入っている半導体の基板、マザーボードになります。マザーボードの中にはパソコンをちゃんと動かすための頭脳として、CPUやGPUというプロセッサーが入っています。

味の素ビルドアップフィルム®(ABF)

様々なシグナルをこのマザーボードのいろんな機能に伝達するために、CPUの下に基板が入っています。基板の中には細かい信号を伝達するための回路が組まれています。

薄い基板ですけれども、実は回路を複雑に書くために何層にも積み上げる必要があります。基板の中の層と層の間にフィルムで私どもの絶縁体をお使いいただいています。

当社は、90年代の前半から半ばぐらいから本格的にこのフィルムタイプの絶縁材を開発しています。なお、フィルム化したのは当社が先駆けです。それまでは液状のものを間に塗って、そこに回路を書いて、また液状を塗ってと積み重ねていました。しかし、フィルムにすると加工度も上がり、取り扱いが容易でより細かい回路を組みやすくなります。

現在はパソコンだけではなくて、サーバーやネットワーク基地局、AIコンピュータ、自動車の自動運転等用途が広がっており、私どものABFもいろいろな用途で今ご利用いただいております。フィルム上の半導体パッケージ基板の層間絶縁材としては、グローバルで圧倒的なシェアを頂戴しています。

当社の強みについて少し補足をさせていただきますと、私どものお取引先である半導体パッケージ基板メーカーさんももちろんですが、その先のエンドユーザー様、CPUメーカーさんやGPUメーカーさんともかなり密接にコミュニケーションをさせていただいております。

お客様が先々のいろんな新しい製品の開発をする際には、私共もそこにしっかりと寄り添って一緒になって開発していくことが、圧倒的な強みになっており、参入障壁にもなっていると思います。

妄想する決算の総括

梶さんとお話してみてわかったことは、日本の食品市場の値上げについては一定の難しさはあるものの、顧客に寄り添った商品開発や付加価値商品を提供することで、値上げやコスト増で補っていける可能性があるということです。そこに注目したいと思います。

海外市場はアジアを中心に減塩への意識が日本よりも高いことから、日本で早くから展開を始めている減塩タイプ商品が海外でも売れるのか見ていきたいと思います。一方、冷凍食品は構造改革を進めており、2025年までにはやり切れるのか見極めたいです。

ヘルスケア等の事業に関しては、高品質のアミノ酸の市場シェア40%を有しており、今後も成長が期待できます。また、ABF(味の素ビルドアップフィルム®)についてもBtoBでバリューチェーン全体の企業との繋がりが強く、参入障壁が高くなっていると感じました。

妄想する決算総括/気づき

Q.原材料高・値上げの影響は?
A.顧客に寄り添った付加価値商品を提供することで家庭用、外食用合わせると増収
ポイント①内食では価格が安定的なお米に合うメニュー調味料を提供
ポイント②外食では課題解決型の商品を提供
Q.冷凍食品における構造改革の進捗は?
A.国内は順調、北米事業の改善を進める
ポイント① 現状、冷凍食品の利益はほぼゼロ
ポイント② 北米の不採算事業や工場の再編統合と餃子等高付加価値製品の投入
ポイント③ 2025年までにWACC並みのROIC達成を目指す
Q.ヘルスケア等事業の強みは?
A.技術を活かし、強みを持つ領域にフォーカス
ポイント① アミノ酸研究について120年の歴史がある
ポイント② 高品質なアミノ酸シェアは40%
ポイント③アミノ酸をフルラインナップで安定供給できることが、バイオ医薬用培地や再生医療用培地にも強み
Q.ABF(味の素ビルドアップフィルム®)の競合は?
A.フィルム上の半導体パッケージ基板の層間絶縁材として、グローバルで圧倒的なシェアを有する
ポイント① 絶縁体をフィルム化した先駆けである
ポイント② バリューチェーン全ての会社と密接な連携をすることで高い参入障壁を構築

「妄想する決算」さんの詳しい解説から対談まで見られる動画はこちらから!

梶昌隆さんプロフィール
グローバル財務部IRグループ長
1991年三井生命保険相互会社入社。1994年から特別勘定運用部でディスクローズ業務、外国株式運用等を担当、1999年からニューヨーク駐在(現三井住友DSアセットマネジンメント株式会社)。2004年興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)株式会社に入社し、医薬品・食品セクターアナリストに従事。2013年味の素株式会社に入社。経営企画部、欧州・アフリカ本部(フランス)を経て、2020年から現職。CFA協会認定証券アナリスト。
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