【伊藤園/対談編】まだまだ拡がるお茶の可能性!

御社の決算、教えてください!/ 妄想する決算

音声プラットフォームVoicyの決算10分解説で人気の「妄想する決算」さんが、企業を分析、対談する動画「御社の決算、教えてください!」。今回は、株式会社伊藤園の広報部の古川副部長への突撃取材を公開します。

飲料市場の動向

妄想:飲料市場の動向についてお伺いしたいと思います。飲料市場全体はコロナの影響を受けて減少した状況が続いていると思います。減少の要因について、もう少し詳しくお聞きしたいのと、外出需要が戻りつつありますが、今後の見通しについてお聞かせください。

古川さん:コロナ禍においては外出の自粛や、人流が滞ってしまったことで、飲料市場は厳しい状況でした。コロナ以前の飲料市場がどうだったかというと、当時はインバウンドで3000万人以上の方が来られるなど、日本の観光地などでの消費が多い状況でしたが、国内は人口減少や少子高齢化といった傾向もあり、微増の状態が続いていました。

今後長期的に見ても日本国内の人口は減少傾向にあり、当然胃袋の数が減っていきますので、消費される量も減ってくると思います。ただ消費者としては、コロナ禍を経てより健康的なものや価値あるものを選び、お買い求めになるスタイルに移るのではないかと予想しています。

お茶の差別化は難しいのでは?

妄想:お茶の飲料販売でいうと、なかなか商品の差別化は難しいのではないかと感じています。そういった中、商品としてはどういう優位性があるのか、先行者優位が効くのかなど、そのあたりもお伺いできますか。

古川さん:「お茶」と一言でくくると、どれでも一緒ではないかと思われる方が結構いらっしゃいます。でも、実はものすごくこだわりがあって、私は逆に差別化ができる商品だと思います。日本で売られているお茶、グリーンティーのほとんどは無糖です。弊社の取り扱っている「お~いお茶」も無糖ですけれども、無糖というのは、味付けとして何も入れていないので、原料の味や香りがそのままパックされています。つまり、原料がしっかりしていないと美味しいもの、品質の良いものはできない。我々は茶畑から原料にこだわりを持って作っているので、品質や味にも自信があり、差別化は可能だと思っています。

消費者に寄り添った容器の大型化・小型化

妄想:最近、600mlサイズのペットボトルの大容量が増えていますが、差別化の仕方として、量に焦点が当てられているのでしょうか?

古川さん:昨年の春に、ペットボトル容器を525mlから600mlに変えて、少し容量を増やしました。価格は変えていません。ユニットプライス(一定の単位量当たりの価格)が安くなるということで、お客様にご好評をいただきました。一方で、実は小型サイズもご好評をいただいています。昨年195mlほどのかなり小さいペットボトルの「お~いお茶」を販売しました。この需要先としては、コロナ禍におけるオフィスなどで使用する来客用のお茶でした。コロナ禍でお客様へお出しするお茶が、急須でいれるお茶からペットボトルに変わっていったことによるものです。大きいものだと商談中に飲みきれないというお声を拾い上げ、小さなペットボトル商品を開発したところ、法人向けとして多数のご注文がありました。

リーフ市場全体は縮小する中、簡便性リーフは増加

妄想:リーフ(茶葉)については国内市場の縮小が続いていますが、今後どういった見通しを立てていらっしゃるのでしょうか。また、伊藤園のリーフ市場におけるシェアは増加していますが、今後どういった取り組みをしていくのかお聞かせください。

古川さん:リーフ市場は、ご指摘の通り縮小しています。背景としては、急須でお茶をいれる場がなくなってきたことが影響しています。特に世代が若いご家庭では、家に急須がないといったことが分かりました。我々としてはショッキングな現象です。一方で、簡便性商品といわれるティーバッグや顆粒の製品で、家庭でも簡単にいれられる商品は増加しています。特に包材を紙製にするなど、プラスチックの使用削減にも配慮した商品は、比較的若い方にも浸透しています。

コロナ禍において家中で嗜好品にお金を使う人が急増!?

妄想:コーヒー飲料市場もコロナの影響を受けて大きく下落しましたが、外出やビジネスの需要も戻りつつあると思います。今後の見通しについて伺ってもよろしいでしょうか?

古川さん:コロナ禍による外出自粛でコーヒー飲料は大きくダメージを受けたカテゴリーになります。特に、オフィス需要において影響を受けました。最近は人流の回復に伴い、会社もリアルで(出社して)業務をすることが増えてきたせいか、回復傾向にあります。ただ、コロナ禍に家中(イエナカ)でいれたてのコーヒーを楽しんだ時期は、実は嗜好品にものすごくお金と時間を使われたのではないかと思っています。自分に合ったコーヒー、更により良いものを選び、時間をかけてゆっくりと家で楽しむ。この影響もありここ3年ぐらいで、RTD(Ready To Drinkの略称。缶飲料やPET ボトル飲料などの総称)においても本物品質を求められるようになりました。弊社はタリーズブランドでショップの本物品質をしっかり打ち出しすことにより、お客さまの声に応えてきました。

値上げの影響は?

妄想:業績面について、10月以降は価格改定も影響して、売上数量が減少していますが、飲料市場の見通しはどのようになっていますか?

古川さん:昨年10月にメイン商品の価格改定をやむを得ずさせていただたきました。今回の価格改定はコストプッシュ(生産原価の上昇が経営に与える圧力)から来る価格改定で、消費者の皆様にご理解いただくまでには時間がかかると思っていました。ですが、価格が改定されたことによってより一層商品選別が進んだようで、お客さまはより良いものや安全なものをお買い求めになっています。食品については「安全・安心」はもう当たり前で、「健康」という価値もほぼ当たり前になってきている中、次に来るのは「環境」と考えています。同じ百何十円でも、この一本を買ったら自分はどう地球に貢献しているのか、と考えながら購入されるのです。特に若い方に多いように感じます。そのようなお客様にしっかり刺さるような商品を作っていきたいと思っています。

原材料確保の取り組みは?

妄想:原料確保に関する取り組みについて詳しくお伺いしてよろしいでしょうか?

古川さん:お茶を作るためには農家の方から茶葉を仕入れなければなりません。弊社の茶産地育成事業は、現在2400ha規模であり、契約いただいている農家さんが数多くいらっしゃいます。その農家さんに「こういうお茶を作ってください」「こういうものをこれぐらい作ってください」と、レシピ的なものをレクチャーし、全量を買い取りさせていただいています。この茶産地育成事業のメリットは、我々としては高品質なお茶の原料を安定的に確保する一方、農家の方々は売り先が分かることで、作ったお茶がどういう商品になっているかを見える化できます

また、ドリンクを作った際に排出される茶殻は、年間5万トンほどになります。この茶殻には消臭効果や抗菌作用などの成分が含まれています。我々はこの茶殻再利用に着手し、様々な企業とアライアンス(提携)を組んで2000年から茶殻リサイクルシステムを構築し、現在では100品ほど茶殻を使った製品を展開しています。

様々なシーンでニーズのある麦茶

妄想:麦茶が伸びているのは、どういった要因があるのでしょうか。

古川さん:麦茶はカフェインが入っていないお茶です。カフェインが入っていないということは老若男女、幅広い方々にいつでも飲んでいただけます。最近は、麦茶をスポーツシーン向けに販売促進をしています。他社の麦茶との違いは、麦茶の中にミネラルがしっかり入っていることで、「健康ミネラルむぎ茶」というブランドになっています。ミネラルを入れることによって、夏場は熱中症、冬場はヒートショックの予防にも効果があるのではないかということで、ご提案させていただいています。

赤字転落の海外事業の要因は

妄想:今期、北米事業は売上や販売数量は大きく伸びていますが、営業利益は赤字転落になっています。要因などについてお聞かせください。

古川さん:北米伊藤園が販売するドリンクやリーフは、主にアメリカ外から輸入して販売しています。足元、海運や陸送コストが高騰した影響で、物流費が一番大きな足かせになりました。一方、価格改定は日本国内同様アメリカ現地でも実施していますが、「お~いお茶」のドリンクやティーバッグの販売は伸びています。これは海外の方の健康志向が高いことや、グリーンティーに対する関心・興味が高いことが推察されます。無糖のものを、特に日本のものを好んで飲む傾向が継続すると見ています。

世界一のティーカンパニーを目指す海外の拡販戦略

妄想:海外展開においては、今後どのように市場を展開していくのでしょうか?

古川さん:北米と中国は人口も多いので、期待して展開していきます。次に、東南アジアやオセアニア、そして最近ではEUの辺りも将来的にしっかり見据えて展開していきたいと考えています。例えば、日系のコンビニが進出している所ではもちろん、出店に合わせて現地のディストリビューター(販売代理店)や問屋を通して、現地の消費者にこれがどういう飲み物なのかを知らせることが大切だと考えています

妄想する決算の総括

古川さんとお話してみて、緑茶飲料市場については、コロナ前は微増でしたが、今後インバウンドが徐々に戻るなかで業績は伸びていくことが期待できました。また、無糖飲料市場は飲料市場の中では伸びており、ゼロカロリー、ノンカフェインの麦茶等は利用シーンも増えているので注目です。また、今後、業績を伸ばしていくためには海外市場が重要で、日系の小売りが展開されている所に積極的に進出して、新たな販路拡大ができるのか注目していきたいと思っています。

妄想する決算総括/気づき
Q.無糖飲料市場の見通し?
A.健康志向の高まりから無糖飲料市場は伸びる価値があるものを提供することで他社と差別化
ポイント①コロナ以前はインバンドにより微増。今後も健康志向の高まりにより無糖飲料の市場は伸びる
ポイント②無糖飲料は素材の味や香りがそのまま出るため、品質による差別化が図れる
Q.海外市場の今後?
A.北米・中国を中心に健康志向の高まりから需要は拡大中。世界一のティーカンパニーへ
ポイント①物流費高騰により、直近の業績は赤字
ポイント②販売数量や売上は健康志向の高まりから増加
ポイント③日系コンビニや現地卸し業者を通じて今後も拡販

「妄想する決算」さんの詳しい解説から対談まで見られる動画はこちらから!

古川正昭さんプロフィール
株式会社伊藤園 広報部副部長
1996年4月伊藤園入社。都内墨田支店でルートセールス営業から始まり、法人企業担当の広域法人営業部、交通インフラの営業を専門とする交通営業部と、多くの業態の営業を経て、現在広報部副部長を務める。広報室とIR課を束ねながら、伊藤園の更なる企業価値向上を目指し、様々な施策を追求中。
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