テレビや新聞で取り上げられたニュースの裏側を解説する本連載「ニュースの裏事情」。今回は、「ispaceによる月面着陸挑戦」に関するニュースの裏側について、ご紹介します。
成功に向けた知見は得られた
日本の宇宙ベンチャー「 ispace 」の、月着陸船による民間初の月面着陸が失敗しました。これに伴い同社の株価は一時ストップ安となりました。失敗とはいいますが、本プロジェクトで目指していた10段階のうち、第8段階までは成功しており、成功に向けた知見はかなり得られたと専門家は見ています。
「ただ宇宙ベンチャーの目的は、アポロ計画のような月面着陸ではない。今、NASA(米航空宇宙局)が手掛けるアルテミス計画は、月での居住と、月を火星探査のための中継点とすることを目指している。そのための月面探査・開発を進めようとしており、ispaceもそこまでを見据えての活動なので、まだ第一歩に過ぎない」(サイエンスライター)。
居住や火星へのロケット発射のために宇宙ベンチャーやNASA、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が目を付けているのが、月の「水」だといいます。月の南極の縁、太陽光があたらない「永久影」には水があると見られています。その水は人間の飲料水にするだけでなく、水を液体水素と酸素に分解すれば、火星へ行くロケットの燃料に使えるとの目算があります。
タカラトミーの月面ロボットSORA-Qもチャンス待ち
こうした探査活動のためにispaceは今回、JAXAや「 ソニーグループ 」、同志社大学が開発に携わったタカラトミーの超小型の変形型月面ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」を搭載していました。着陸が成功していたらSORA-Qの活躍に注目が集まり、ispaceとともにタカラトミーの株価も大きく上がったことでしょう。
なお、タカラトミーはこのSORA-Qの原寸大モデルを一般向けに販売することを4月13日に公表、発売は9月を予定しています。もし今回の月面着陸が成功していたならば、かなりの売り上げを上げられたかもしれません。
SORA-Qに関しては、JAXAが打ち上げを予定している小型月着陸実証機「SLIM」にも搭載されることになっています。次のアピールチャンスがあるわけですが、SLIMは今年度初めの打ち上げを想定していたものの、3月のH3ロケット試験機の打ち上げ失敗に伴い、8月以降に延期となりました。昨年10月のイプシロンロケットの打ち上げ失敗もあったことから、JAXAも次の打ち上げには捲土(けんど)重来を期すでしょうから、打ち上げ時期はやや先になるかもしれません。
タカラトミーとしても、海のものとも山のものともつかぬ「宇宙」に翻弄され気味のようです。
(出典:日本証券新聞)