EV市場勢力図の塗り替えも 「全固体電池」関連株が上昇

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株式市場で「全固体電池」関連株が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は5.1%と、円安や米株式相場の上昇などを追い風に大幅高となった東証株価指数(TOPIX、3.4%上昇)を上回りました(6月16日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!

トヨタ、全固体電池搭載車を2027-28年に実用化へ

全固体電池関連株が買われたきっかけは、トヨタ自動車が6月13日に開いた技術説明会「Toyota Technical Workshop」での発表でした。水素事業の確立やバッテリー電気自動車(BEV)の技術革新の一つとして、量産に向けた工法を開発中の全固体電池について、2027~28年の実用化にチャレンジすると表明しました。

全固体電池とは、これまでのEVで主流だったリチウムイオン電池では液体だった電解質を固体に置き換えた電池です。リチウムイオン電池に比べ充電時間が短く、航続距離を伸ばせるのが特徴です。トヨタは2026年にも次世代電池として航続距離1,000kmを実現する予定ですが、新しい全固体電池では、そこからさらに20%も航続距離が向上するとのこと。新しい全固体電池の投入が実用化する見通しを受け、関連株が物色されました。

固体電解質材料「LICGC」を提供【オハラ】

上昇率首位のオハラは光学ガラスのパイオニアで、ガラス素材の製造・販売を手掛けています。1995年に酸化物系の無機固体電解質であるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス「LICGC」を他社に先駆けて開発しました。高いイオン電導度を持ち、大気中や有機溶剤中でも安定し燃えないという安全性が特徴です。全固体リチウムイオン電池などの素材として、様々な研究機関が利用しています。

米国の全固体電池開発会社に出資【三桜工業】

上昇率2位の三桜工業は自動車用の配管部品が主力製品です。2018年9月、米コロラド大学の研究室からスピンアウトして設立されたソリッド・パワーへの出資を発表。ソリッド・パワーは全固体電池の研究開発や製造を手掛けており、22年12月には提携するBMWに全固体電池の設計・製造ノウハウの研究ライセンスを付与すると公表しました。

全固体電池の市場規模、2040年に3.86兆円へ

このほか、トヨタについては、6月16日、経済産業省が、同社のBEV向け車載電池の安定供給などの取り組みに対して、最大1178億円の助成金を交付すると発表。ジーエス・ユアサ コーポレーションは、2022年11月に開かれた第63回電池討論会で、全固体電池の重要素材である固体電解質の実用化に向けた研究成果を評価され「電池技術委員会賞」を受賞。FDKは、4月14日に発表した中期経営計画で全固体電池を含む次世代電池事業について、産業やモビリティー向けの供給に注力し事業の存在感を高める計画を表明。これらの銘柄も買われています。

全固体電池の世界市場規模は、2040年に3.86兆円になるとの予想もあります。全固体電池の実用化については依然として開発途上とされていますが、トヨタの実用化表明を受け実現が近いとの期待が広がりました。温度変化に強く発火リスクが小さいといった安全性の高さもあって、全固体電池はEV市場の勢力図を塗り替えるとも言われています。世界に先駆け日本で全固体電池の搭載車が市場に投入される可能性にも期待しながら、銘柄を見極めていきたいですね。