第2話「桐谷さん、『一食17円生活』でプロ棋士を目指す」を読む
「この人たちと付き合うのはまずい」と思っていたけど……
20歳までに初段にならないとクビだったんですが、どうにか初段に上がり、26歳でやっと四段に昇格できた。四段以上がプロの棋士ですから、晴れてプロの棋士になったわけです。
でも、四段になったからって油断はしていられない。三段に落っこちてしまったらおしまいですから、将棋の研究は怠れません。
プロ棋士になったからといって遊んだり人生を楽しむ時間はありませんでしたね。
でも私が幸いだったのは将棋の解説原稿を書いたり、レッスンの依頼が多かったことです。そうした副収入があったおかげで棋士になってからの10年間で4000万円くらい貯金ができました。半分以上は桐谷家の節約体質のおかげかもしれませんが……。
私が株を始めるきっかけも、そんな依頼のひとつから生まれました。
私が受け持っていたレッスンのひとつに証券会社の集まりがありました。茅場町にある東京証券会館の6階が趣味の部屋で、茶道や華道、ダンスなどのサークル用に部屋が与えられていました。そのひとつに将棋部があったんです。
最初の5年間は将棋を教えて謝礼をもらって帰るだけでした。「この人たちと付き合うのはまずい」と思ってね。
というのも小学生のとき、道端の香具師に50円巻き上げられたことがあります。それ以来、怪しげなものには近づかないようにしていました。証券会社も香具師と同じようなものだと思っていたんです。父も「株はギャンブルだ」というのが持論でしたからね。私にとっては、証券会館はギャンブラーの集まりだったわけです。
そんな風に警戒していましたが、この証券会館での仕事をきっかけに、証券会社の支店長室に将棋をしに行ったり、お茶を飲みに行くようになりました。当時、将棋は男性中心の社会でしたから、若い女性がいる証券会社を訪問するのが楽しくて。美味しいお茶菓子も出してくれますしね。