ゲーム業界でも音楽業界でも“ごぼう抜き”を達成できたワケ

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結成からわずか2年でメジャーデビューを掴みとり、2021年1月に結成5周年を締めくくる3rd FULL ALBUM『何者』をリリースしたロックバンド・ポルカドットスティングレイ

バンドの知名度を猛烈な勢いで押し上げたのは、音楽制作にとどまらず、SNSプロモーション、グッズ制作など“徹底的なマーケティング戦略”でバンドを牽引してきたフロントマン・雫さん

【雫(しずく)】1992年生まれ。ロックバンド・ポルカドットスティングレイのボーカル・ギター。新卒でゲームクリエイターとして一般企業に入社。社会人になり趣味で始めたバンドが、結成わずか2年でメジャーデビュー。グラフィック、映像制作などクリエイターとしてさまざまなスキルを駆使しバンドを牽引する

私はマーケティングしてみんなが欲しい曲を書いてるだけ。私個人の想いとかメッセージとか、どうでもいいんです」と断言するほど、自他ともに認める“ニーズ至上主義”な雫さん、じつはもともとゲーム会社のディレクターという経歴の持ち主

相手が求めていることを察知し、応える。「ニーズに応える力」はビジネスパーソンにとっても大切なスキルですが、バンドマンである雫さんがそこまで「ニーズ」にこだわる理由とは……?

〈聞き手=サノトモキ〉

記事提供:新R25

“好き勝手やって結果が出る天才”じゃない限り、好き勝手やってる場合じゃない


あの……なんかすみません。


え? 何がですか?


アディダスとアディダス……完全に部屋着で来てしまいました

想像の8万倍どうでもよくてかわいい心配事でした


今日は雫さんが「ニーズにこだわる理由」を深ぼっていきたいのですが……
最初に雫さんの仕事ぶりを教えてください。「ニーズにこだわる」って、具体的にどういうことをされてるんですか?


まず、ポルカのことを呟いてくれる人のツイートをめちゃめちゃ見ますね
性別、年齢、恋人の有無、最近感じていること、モヤモヤしていること……「ユーザーが求めるもの」を徹底的にリサーチしてから手を動かすんですよ。
楽曲もグッズもプロモーションも、リリースしたら反応を入念に調べて次の制作に反映。ひたすらこの繰り返しです(笑)。


完全に“デキるビジネスパーソン”の働き方だ……
でも、アーティストの方が「マーケティングで曲作ってます」と言うのって珍しいですよね。こう……批判されちゃうこととかはないんですか?


いやー、めっちゃ言われましたよ。
最近はだいぶマシになってきたんですけど、インディーズのころは“ニーズに合わせて曲作るとかロックじゃねえ警察”が湧きまくってマジだりぃ」と思ってました(笑)。

あっ、この人包まないタイプの人だ


うるせえ、お前はお前の好きな音楽聴いてろ! こっち来んな!」ってずっと思ってましたね(笑)。
そういう人たちは「ニーズに合わせて曲を作る=やりたい音楽を捨ててる」みたいに決めつけてくるんですけど、そうじゃない。
「ニーズに応えられる音楽」こそがまごうことなき“私のやりたい音楽”なんですよ。


どういうことですか?


「ニーズに応えて結果を出すこと」こそが、仕事に誇りと責任をもつことだと私は思ってるので。
遊びや趣味なら好き勝手やりたいようにやればいいけど、仕事なんでね。
会社にお金出してもらってモノ作ってるわけですから、“好き勝手やって結果が出る天才”じゃない限り、好き勝手やってる場合じゃないんですよ。

これは真理かも


私の性癖に刺さるとか、自分の内面を表現したいとか、どうでもいい。
お客さんによろこんでもらう。クライアントの期待に応える。これが私の生き甲斐なんです。
なんで、「お前らの狭い視野で人の生き甲斐に口出ししてくんじゃね~!」とは正直思いますね(笑)。

ここまで言われると清々しい

「私、天才かも?」と思っていた23歳。挫折で出会った“一生ものの才能”


「ニーズに応える」ってビジネスパーソンには欠かせない視点だと思うんですけど……意外と意識できていない人も多いと思うんです。
「ニーズに応える大切さ」に気づけたきっかけって、何かあったんでしょうか?


きっかけは完全に、ゲームクリエイター時代の挫折経験ですね。
私、幼稚園のころから暗いし友達もいなくて、ゲームばっかりしてたので、「ゲームを作る人」になるのがずっと夢で。
その分こだわりや熱量も強かったので、新卒でゲーム会社に就職できたときは「私がいいと思う最高のゲームを作るぞ!」みたいなことを考えてたんですよ。


ほうほう。
今とは真反対に、「自分の作りたいもの」を作ろうとされてたんですね。


そうです、そうです。
で、しかも私……ぶっちゃけ評判よかったんですね、社内で

あっ自分で言うんだ


「ものづくりの才能がある」「こいつの作るゲームは絶対面白くなる」って、先輩たちたちからすごく褒めてもらって。
おだてられるままバリバリ働いてたら、23歳くらいでディレクターになれちゃったんですよ。23歳のディレクターってけっこう珍しかったので、テレビの取材とかもきて
正直自分でも、「あれ私、天才なのかなあ?」とか思ってたんですよね(笑)


いや、それは普通に思っちゃうだろうな……


でも、いざ自分で企画したゲームをローンチしたら、見事に空振りだったんですよ。
ユーザーの動きとか売上を毎日数字で追うんですけど、自分が響くと思って打った施策が全然当たってなくて。

「私、全然天才じゃねえじゃんって」


で、当時うちの会社、私のチーム以外、全員次回作の開発に当たってたので……会社の収入源、私のチームが運営してるゲームだけだったんですよ。
自分のプロジェクトで、社員50人の生活を支えなきゃいけない
こんな局面で「自分の作りたいものを作りたい!」とか言ってたらマジで子どもじゃんって、そのときようやく気づいたんです。


23歳でとんでもない経験をされている……
そこで目線が、「やりたいことをやる」から「結果を出す」に切り替わったと。


そこから、リリースしたゲームを徹底的に分析しました。
何がうまくいって、何がネックになっていたか。数字やデータで確認しまくって、「お客さん視点」で全部洗いだして、抽出できた要素を全部次のゲームに反映させたんです。
そうしたら、そのゲームが『App Store無料ゲームランキングで1位を獲ったんですよ。

雫さん、続けてたら普通に有名ゲームクリエイターになっていたのでは?


もう、「これだ!」って。「私のやるべきことは“マーケティング”だ」って確信しました。
ものづくりの才能はないけど、お客さんの目線をものづくりに反映させる才能は、人より少しだけあるかもしれないって。
そこからですね。ニーズにこだわる大切さとやりがいに気づいたのは。

スピード出世の秘訣は、「求められていることを把握」→「できることに変える」の繰り返し


他にも、「ニーズに応える」という視点が役に立った経験ってありますか?


そうですね……
今思うと、ゲーム制作未経験だった私が23歳でディレクターになれたのも、「会社からのニーズ」を意識したおかげだったのかも。

どういうことですか……?


私、将来の夢はゲームクリエイターとか言いつつ、大学時代はゲームを作る知識も技術も全くなかったんです。
専門学校に通ってひとりでゲーム作れるような人もたくさんいたので、このまま新卒で入っても使い物にならないぞって焦りはじめて。
そこで私、海外留学で培った「英語力」を活かして“翻訳アルバイト”としてゲーム会社に飛び込んだんですよ。


翻訳アルバイト?


ゲーム内容を翻訳する仕事なんですけど、とにかく現場に飛び込んで「ゲームクリエイターに求められるスキルが何なのか」を把握するところから始めようと思ったんです。
「求められていること」を把握して、一個ずつ「できること」に変えていくしかないなと。
まわりは「この英語だけできる大学生、誰?」みたいな感じだったんですけど、「絶対いち翻訳アルバイトからごぼう抜きしてディレクターになってやる」って決めて、毎日深夜まで仕事してました。

生き様がとことんかっけえ


無事新卒プランナーとして入社させてもらった後も、「求められていることを把握→できることに変える」の繰り返し。
「英語が喋れる」→「企画書が書ける」→「シナリオが書ける」→「レベルデザインができる」→「フォトショが使える」→「仕様書が書ける」……
これを繰り返すうちに、気づいたら23歳で「ディレクターとしてゲームを作れる」にたどり着けてたんですよね。


職場からの「ニーズ」に的確に応えつづけたからこそのスピード出世だったと。


私、「仕事がデキる人」って、ニーズに応える努力をしてきた人だと思うんです。
スポーツ選手でも何でも、仕事である以上必ず、求められるスキルとレベルがある。
「好き」という気持ちだけじゃどうにもならなくて、「求められていること」に応えられる自分になっていかなくちゃいけないんですよね。

苦手なことや、やりたくないことを求められたら……?


でも、「求められること」のなかには、苦手なことや、やりたくないこともあったりしますよね。
そういうときはどうされてるんですか?


やりたくないならやらなければいいんじゃないですかね?
私これ、学校の勉強と同じだと思ってて。


「私、勉強向いてなかったんだよね~」っていう人いますけど、「いや勉強なんてやったかやらんかったかや」ってマジで思うんですよ。
世の中、本気で努力したら「できるようになること」のほうが多いと思うんです。ほとんどの場合、「できない」ときは自分が頑張ることを選択していないだけ。
仕事もそれと同じで、「頑張れるかどうか」のテストをされてるんだと思うようにしてます。


「頑張れるかどうか」の、テスト。


「やりたいこと」を目指す過程で求められた「やりたくないこと」は、頑張るしかない。
そこで「やりたくない」が勝って頑張れないようなら、そこまでやりたいことじゃなかったのかなと。それなら仕事を変えてみればいいと思いますし。
とりあえず私は、「ここで頑張れなかったら、この先なんも頑張れないだろうな」ってマインドで、勉強も仕事も頑張ってきた気がしますね。


雫さん、今日はありがとうございました!
ニーズにこだわる視線、僕ももっと意識してみようと思います……!


いやあ、今までやったことないタイプの取材だったので、楽しかったです!
音楽の話ゼロだったの、めっちゃいいな~~

最後まで清々しい本音トーク、ありがとうございました!

誰しも、自分のことしか見えなくなってしまったり、「自分はこうしたいんだ!」と頑固なこだわりを持ってしまったりする瞬間はあると思います。

そんなときこそ一度冷静になって「まわりから求められていること」に考えを巡らせることができれば、意外な突破口を発見できるのかもしれません。

筆者も、雫さんのようにちゃんと頭を使って生きていこうと思います……!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉