利幅拡大で収益改善 「電炉」関連株が上昇

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株式市場で「電炉」関連株が買われています。QUICKが選定する関連株の平均上昇率は8.6%と、米国の利上げ打ち止め期待などから上昇した東証株価指数(TOPIX、1.3%高)を上回りました(7月28日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!

製品単価上昇の一方、仕入れコストが低下

電炉関連株が買われたきっかけは企業の決算発表でした。電炉大手の東京製鉄が7月21日に発表した2024年3月期第1四半期(4~6月期)の単独売上高は過去最高を記録、通期予想も上方修正されました。

電炉関連企業は、不要になった鉄スクラップを電気炉で溶解、新たな鉄鋼製品へとリサイクルし、建築、自動車など様々な産業分野に供給しています。仕入れる鉄スクラップと販売する鉄鋼製品の価格差が主要な収益源となります。

東京製鉄は、民間の設備投資などの需要が堅調で、製品単価が会社の想定を上回ったうえ、出荷数量が増加。加えて、鉄スクラップの購入単価が想定を下回って推移したため、利幅が拡大しました。同業他社も利幅の拡大で収益が回復するとの連想から関連銘柄にも物色が広がりました。

2023年4~6月期の売上高が過去最高【東京製鉄】

上昇率首位の「 東京製鉄 」は、電炉メーカーのパイオニアとして、鉄スクラップのアップサイクルを通じ「脱炭素・循環型鋼材」を広く社会に提供するなど、気候変動対策にも力を入れています。7月21日に発表した4~6月期の単独売上高は前年同期比13%増の1027億円と1000億円を超え、過去最高となりました。また、通期の単独営業利益は前期比8%減の350億円と、従来予想から50億円(17%)上方修正されました。

 2023年4~9月期の営業利益予想を上方修正【大阪製鉄】

上昇率2位の「 大阪製鉄 」は日本製鉄グループの中核電炉メーカーとして、多岐にわたる製品群をさまざまな産業分野に供給しています。7月27日に発表した4~6月期の連結売上高は前年同期比10%増の308億円、営業利益も45%増の27億円と大幅な増収増益となりました。国内経済と、事業を展開するインドネシア経済が緩やかに回復するなか、販売価格の維持・改善策などが奏功。足元の主原料価格が想定を下回る水準で推移しているとして、4~9月期の営業利益見通しを前年同期比14%減の36億円と従来予想から10億円上方修正しました。 

循環型社会や脱炭素社会の実現に向け活躍が期待

鉄スクラップの価格の低下は電炉企業にプラスですが、反対に上昇すると製品価格を引き上げても、契約から出荷までのタイムラグにより、販売価格の引き上げが原料価格の上昇に追いつかず収益が悪化するケースがあります。日本製鉄グループの電炉会社で鋼片や線材などを手掛ける「 合同製鉄 」は、鉄スクラップ価格の変動に応じて価格を決める「スクラップサーチャージ」の改定期間を従来の6カ月から3カ月に短縮し、スクラップ価格の急変動による収益の悪化期間を短縮。「 中山製鋼所 」は、高品質な鋼板製品や自動車、建産機向け構造用棒鋼などを提供しており、脱炭素需要の高まりを追い風と捉え、電気炉生産能力の増強に注力しています。「 共英製鋼 」は、鉄鋼事業を中核に、溶融技術で廃棄物を完全無害化してリサイクルする事業を展開。コスト増を踏まえ製品の値上げを実現。これらの銘柄も買われました。

鉄はリサイクルしても品質がほとんど低下せず、何度でも様々な製品に生まれ変わることのできる数少ない素材と言われています。また、リサイクルによる鉄づくりはCO2発生量を抑制することから、環境にも有効な方法です。循環型社会や脱炭素社会の実現に向け活躍が期待される電炉関連企業投資にあたっては、収益に影響する資源価格や製品価格、国内外の景気動向がポイントとなりそうです。