第6話 桐谷さん、父の言葉で人生最大の失敗に気づく

人生変えたきゃ投資人生/ 桐谷 広人川口真目

第5話「自称天才の桐谷さん、リーマン・ショックで地獄に落ちる」を読む

「今度こそもう再起不能だ」

バブル崩壊の時は1億円くらい稼いで1億円負けた、といっても数千万円は残ったんです。でもリーマン・ショックでは現金が本当になくなってしまった。

将棋は引退していましたから収入がないし、年金の支給が始まる年齢でもない。当時の家賃が月13万円でしたが、その支払いさえ困るありさまでした。

親の面倒を見るために週1度、田舎へ帰る必要もありましたが、飛行機で帰省していたのを夜行バスに変えました。眼科に通うお金がもったいないのでコンタクトレンズもやめました。糖尿病の持病もありましたが、治療費を払えないのでタダで診てくれる治験で薬をもらうようになりました。

夜はアメリカの株式市場が気になって眠れないし、糖尿病も悪化して血糖値が極端に上がってしまうし、死にそうな顔をしていたんだと思います。友人から「自殺しちゃだめだよ」と心配されたこともありました。

今度こそもう再起不能だと途方に暮れましたよ。そんな私を救ってくれたのが、父親でした。

父親は株なんてギャンブルだと思っていた人間です。私は調子がいいころには「私に年金を預けたら株で増やしちゃる」なんて軽口を叩いていたんですが、父親は「株なんて絶対にやるな」と断じてお金を動かさなかった。私が株で損をした時も決してお金を貸してはくれませんでした。「年金を貸してくれ」と頼みましたが、父親は「絶対にだめだ」の一点ばりでした。

そんな経験がありますから、父親に頼んでもムダだということは知った上での帰省です。父親には最初から頼みもしませんでしたが、私の頭は四六時中、損失のことでいっぱいです。

「はぁ~株をやったのが人生最大の失敗だったなぁ」

そうつぶやいた時ですよ、父親が言ったんです。

「違うぞ、広人。おまえの人生最大の失敗は結婚せんかったことじゃ。わしのお金は全部使っていいぞ」

私の顔色がよっぽど悪かったのでしょう。見るに見かねた父は、固い信念を曲げて虎の子の年金を私に貸してくれたんです。それで信用取引の負け分を払って、なんとか生き延びることができました。後になってお金は返しましたけど、本当に助かりましたね。

次回は8/16(水)配信予定です。