採石場から見える「建材」の世界

世界は株式会社でできている/ 本城 直季日興フロッギー編集部白根ゆたんぽ

北海道・札幌での社員旅行も最終日。空港で東京への便を待ちながら、話をするユイとタカシ。開拓民の歴史を知り、野球を観て海の幸も味わい、満喫したというユイに、「実は他にも行きたいところがあった」と言う、タカシ。北海道でタカシがやり残したこととは……?
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ユイ

大好きなウニ・イクラ丼も食べたし、ふだん話さない部署の人たちとも宴会で仲良くなったし、楽しかった! 社員旅行って面倒くさいと思ってたけど、バカにできないわね。

タカシ

僕も、社会人になって札幌に遊びに来る機会がなかったから、来れてよかったな。本当は、もう1つ行きたいところがあったけど……。

え、そうなの? ファイターズは逆転で勝ったし、もう思い残すことはないでしょ。

石切り場跡で写真を撮りたかったんだよね……。

は?

「石山緑地」という公園だよ。明治から昭和初期にかけて、「札幌軟石」という建材用の石が産出された場所なんだ。岩肌がむき出しになってるシュールな景色で、絶好の撮影ポイントなんだよね~。

さすがに、その趣味にはついていけないかも!

行けばきっと気に入るよ。いまは建材のメインはコンクリートやセメントで、札幌軟石のような石材はほとんど使われていない。建材を扱う会社のビジネスモデルも、昔に比べて多様になった。たとえば「 住友大阪セメント 」は、1907年にセメント事業を始めた老舗だけど、時代とともに扱う素材をどんどん広げている。もともとのセメント事業を根幹としながら、環境、発電、鉱産品、独自技術によるナノ粒子など、新しい分野を開拓しているんだ。

建材会社が、環境事業まで手掛けているの?

あまり知られていないけど、セメント業界って、産業廃棄物処理のプロフェッショナルなんだ。業界全体で、年間2700万トンの産業廃棄物を処理していて、これはなんと東京ドーム16杯分にあたる。セメントの加工に必要な「素材を細かく選別し、高温で処理する」技術が、産廃処理に役立つらしい。業界の中でも、住友大阪セメントはこのリサイクル分野に力を入れていて、かつバイオマス発電の売買でも実績を出している。建材のイメージを覆す、ユニークな会社だよね。

社会を支える「自負」をもつ企業

ユニークな建材会社といえば、「 ヤマックス 」もそうだなあ。熊本に本社を置く会社で、コンクリート二次製品のメーカーとしては九州最大だ。

どこがほかの建材会社と違うの?

「防災・減災」をキーワードに打ち出しているところだよ。コンクリートに機能性を追加した商品を開発して、安心できる街づくりに貢献しようとしている。商品ラインナップを見ると、土砂の崩壊を防ぐ「擁壁(ようへき)」や、雨水をすばやく集めて排水する「側溝(そっこう)」、火災・洪水に備えて水を貯めておく「貯水槽」など、防災・減災に力を発揮するものが続々と出てくる。震災や大雨などの自然災害が増えているいま、頼りになる会社だね。

建材会社って、まさに「縁の下の力持ち」ね。

インフラ事業で顧客に支持されているところはみんな、「社会を支える」自負を持っている気がするな。そうそう、山口県を代表する
宇部興産 」も忘れちゃいけない。もともとは炭鉱事業から始まった会社だけど、創業者が「いずれは掘り尽くしてしまう有限の石炭を、工業の無限の価値に展開し、地域に永く繁栄をもたらそう」といって、新しい事業を次々と始めたのがルーツ。その中に、地元で採れる石灰石と、炭鉱の廃土を活用したセメント事業があった。

へ~。炭鉱事業は一時期すごくもうかったけど、石油にエネルギーが切り替わってほとんどがつぶれたって聞いたことがあるわ。

石炭が好調なときにも、それだけに頼らず、リスクを分散した。偉大な創業者だよね。宇部興産は2017年に、ちょうど創業120年を迎えた。いまや「化学」「医薬」事業を中核に、「建設資材」「機械」「エネルギー・環境」の5事業を展開するグローバル企業に成長している。ナイロン原料では世界トップクラスの生産能力を誇り、海外でも存在感を高めているよ。

創業者の精神が、見事に花開いているのね。

採石場といえば、あのシーン

採石場というと、子どものころに見たテレビの特撮シーンを思い出すわね……。

出た、昭和発言!

悪かったわね。タカシ君だって昭和生まれでしょ? ああいうシーンって、撮影が大変そう。

特撮の爆破シーンには、「発破」の技術が使われている。もともとは、鉱山や土木工事で火薬を仕掛けて岩盤を爆破するための技術だ。建設大手の「 鹿島 」は、発破のすごい技術を持っているんだよ。

ふつうの発破とどう違うの?

特殊な電子雷管を使って、発破のときに起きる振動や騒音をコントロールする方法を開発したんだ。たとえばトンネル工事で硬い岩にぶつかったとき、近隣の住宅街に迷惑をかけないように発破するのは、難しかった。その課題をクリアしたのが、この技術だ。鹿島は、日本の超高層ビルの先駆けとして知られる霞が関ビルや、六本木ヒルズ、グラントウキョウなど、高層建築物が得意。一方で、東京駅丸の内駅舎や、姫路城の天守閣の保存・修理など、伝統的な建築物を次世代に残していく活動も積極的に行っている。最新の技術に挑戦しながら、文化を継承することも忘れない。バランスのいい会社だね。

特撮シーンが気になって検索したら、「東映特撮YouTube Official」っていうのが出てきた! 仮面ライダーっていまでも、いろんなシリーズがあって人気なのね。

子どもたちに長く愛されている、「 東映 」を代表するキャラクターだね。東映は、戦後間もない1951年、復興を目指す日本で「洋画と肩を並べる、いやそれ以上の映画作品を日本人の手でつくろう」という情熱によって生まれた会社だ。映画黄金期にスター時代劇を量産して人気となり、娯楽の中心がテレビに移ってからも、『水戸黄門』『遠山の金さん』などのロングラン時代劇や、『仁義なき戦い』といった任侠アクションでヒットを飛ばした。『プリキュア』などの子ども向け作品にも強く、2017年3月期決算では、『ONE PIECE FILM GOLD』の大ヒットで連結の過去最高益を記録。映画やテレビにとどまらず、モバイル向けのコンテンツ制作など、「総合映像企業グループ」としてさまざまな取り組みをしているよ。

採石場から、いろんな業界に話が広がったわね。帰ったら早速、いま出てきた会社についての投資情報を調べてみようっと。

あ~、なんか北海道を離れるのが寂しい。チマチマした東京に帰りたくないなあ。

私はそろそろ、都会が恋しいんだけど……。もしかしたタカシ君って、そのうち「田舎暮らしがしたい」とか言って会社をやめちゃうタイプ?

……えっ?!(図星)

意外な一面があったのね。私は田舎暮らしとか、とてもじゃないけど無理だなあ。

そ、そうなんだ。まあ、そういう話は今度ゆっくり……。

今回のテーマで取り上げた上場企業

住友大阪セメント
宇部興産
ヤマックス
鹿島
東映

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