空室率に改善の兆し 「オフィスビル」関連株が上昇

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株式市場で「オフィスビル」関連株が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は5.5%と、円安などを受けて小幅に上昇した東証株価指数(TOPIX、0.4%高)を上回りました(9月8日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します! 

東京と大阪のオフィス空室率、上昇一服

オフィスビル関連株が買われた背景は、空室率の上昇一服とインフレ定着の期待です。オフィス仲介の三鬼商事が9月7日に発表した8月の東京ビジネス地区のオフィス空室率は、前月から0.06ポイント低下の6.40%で2カ月続けて低下しました。また、大阪ビジネス地区の空室率は0.12ポイント低い4.49%で、5カ月連続の低下となりました。新型コロナウイルス感染拡大前の水準をなお大きく上回るものの、悪化したオフィス市況に底入れの兆しが出ているとの見方を誘いました。

インフレが日本で定着しつつあるとの見方も、不動産会社が保有する資産の値上がり期待につながっています。8月25日発表の東京都区部の8月の消費者物価指数(CPI、総合指数、中旬速報値)は前年同月比で2.9%上昇しました。都区部の速報値は全国CPIの先行指標とされています。全国CPIは2022年4月以降、日銀が目標とする2%を大幅に上回る推移が続いています。多くの企業が賃上げに踏み切っていることもインフレ定着の思惑を誘っているようです。

新規大型ビルのテナント募集が着実に進捗【住友不動産】

上昇率首位の「 住友不動産 」は東京都心のオフィスビルを中核とする不動産賃貸事業が成長基盤です。2023年4~6月期末の既存ビルの空室率は23年3月期末並みの6.0%で、9割超の高稼働を維持しました。23年1~3月期に竣工した「住友不動産東京三田ガーデンタワー」と「住友不動産新宿ファーストタワー」、24年3月期中に竣工予定の「中野二丁目計画」など、新規大型ビルのテナント募集も着実に進捗しています。 

既存ビルで高単価・低空室率の推移見込む【三菱地所】

上昇率2位の「 三菱地所 」は丸の内に代表されるオフィスや商業施設、ホテルや物流施設の開発・賃貸・運営管理、住宅の開発・分譲など幅広い事業を手掛けています。2023年4~6月期のオフィスビル事業は再開発予定ビルの閉館による利益の剥落があったものの、既存ビルは低い空室率が継続したため前年同期比で増収となりました。既存ビルについては24年3月期を通じて、高単価・低空室率での推移を見込んでいます(会社予想)。 

コロナ後のオフィス回帰とオフィス新規供給の綱引き

このほか「 三井不動産 」は、東京都が募集している築地市場跡地の再開発事業者に同社を中心とした企業連合が応募すると報じられました。「 東京建物 」は2023年1~6月期決算説明資料で、同社のビル事業は2025年まで大型物件の竣工がなく、空室率・賃料水準が大きく悪化する可能性は低いとの見通しを公表。「 東急不動産HD 」は2023年6月末時点のオフィスと商業施設の空室率が1.2%と低水準を維持したと発表。これらの銘柄も買われています。

「不動産」と一言でいっても、オフィスビル、戸建て住宅、マンション、REIT、投資用アパート(『投資用アパートが過去最高値! 「不動産」関連株が上昇』)など幅広いジャンルに分かれます。今回紹介したオフィスビルを巡っては、コロナ後のオフィス回帰動向、日銀による低金利政策の行方、海外投資家による国内不動産投資、主要都市での新規オフィス供給などが投資の際の着目点です。その中、規模や立地面で優位性のある物件の展開有無などが銘柄選別のカギの1つとなりそうです