バブルはなぜ生まれ、そしてなぜ崩壊するのか?

投資がもっと楽しくなる!日興フロッギー選書/ クロスメディア・パブリッシングタザキ

投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。前回は「損切り」を妨げる「人間の心理バイアスの罠」についてお話ししましたが、今回は、「バブルを生み出す心理」について、サラリーマン投資家・YouTuberとして活躍する著者のタザキさんと見ていきましょう。[PR]

世界中でこれまでに発生したバブル

コロナ禍での実体経済に見合わない株高に、NISA口座の開設増加、暗号資産の高騰、そしてインフレにより現金では資産を守れなくなるのではないかという懸念……。今ほど多くの個人が投資に関心を示している時代は、これまでになかったのではないでしょうか。

コロナ以降の株高は「コロナバブル」と呼ばれていますが、過去に崩壊しなかったバブルは存在しません。ここからは、人間が発生させたバブルの歴史と、その裏に隠れている心理バイアスを見ていきましょう。

歴史上、最初のバブルは1630年代、オランダの「チューリップバブル」と言われています。チューリップは当時のオランダ中で人気が高まり、高価な植物でもあったため、庭にチューリップの花が咲いていることはステータスの象徴にもなりました。そして複雑な模様(のちにウイルスの作用と判明)が入った花びらだとさらに高価になるため、「来年はどんな模様が流行るだろう」と商人が予想し大量に仕入れたことから、投機熱が加速します。

チューリップバブルがピークを迎える頃には、1つの球根に支払われた金額は2500ギルダーでした。『バブルの歴史』によれば、当時の2500ギルダーでは、小麦は27トン、ライ麦は50トン、太った雄牛は4頭、太った豚は8頭、太った羊は12頭、ワインは500リットル、ビールは3800リットル、バターは2トン、チーズは3トン、カバー付きのベッドが1台、衣装ダンスいっぱいの服、銀のビーカーが1つ買えたといいます。

その後、バブルは崩壊し、ほとんどの球根は普通の玉ねぎと変わらない値段になってしまったそうです。

英・米・日のバブル

続いて1720年代、イギリスの「南海バブル」です。1711年に、イギリス政府の負債を肩代わりするために設立された南海会社は、南米貿易の独占権を与えられました。人々は南海の株は富の源泉だと考え、熱狂的に株を買うようになります。次第に人々は頭金10%だけでよいローンを組んで株券を買うようになり、その株券を担保にした融資までおこなわれるようになりました。

バブル崩壊の影は少しずつ訪れていました。南海会社の配当率を引き上げるなど、下がり気味の株価を保つための策がとられましたが、万策が尽きると特段の決定的なきっかけもなく、株は暴落しました。アップルビーズ誌は「最初の暴落で多くの人が株を売った。一人が売るとそれはほかの人に対する警告となり、ほかの人も売る。これが連鎖的に起こって株価は徐々に下落していった。やがて皆が恐怖を抱きパニックとなり、大きな混乱が生じた」と説明しました。

その次はアメリカです。1970年代、アメリカで「ニフティ・フィフティ(素敵な50銘柄)」ブームが起こり、成長性もあるブルーチップ(優良大企業)への投資が主流になりました。IBMやマクドナルド、ディズニーといったお馴染みの約50銘柄の厳選企業ほど安全な投資先はなく、「優良企業ならば払っても払いすぎることはない」とされ、株価は高騰しましたが、その後に急落しました。

最後に日本のバブルといえば、1990年代の不動産バブルです。極東の小さな島国である日本の地価がアメリカ全土の5倍にも評価されました。株式時価総額もアメリカの1.5倍まで評価され、全世界の45%を占めるようになりました。アメリカ株の平均PER(平均株価収益率)が15倍、イギリス株が12倍のときに、日本株の平均PERは60倍にまで膨らんでいたので、いかに割高な水準になっていたかがわかります。

いくつかのバブルの歴史を紹介しましたが、ニフティ・フィフティを除くと、市民たちの財布が潤っているときにバブルは発生しているといえます。

チューリップバブル時代のオランダは、スペインの軍事的脅威から解放され、織物貿易で経済が潤っている時期でした。南海バブル時代のイギリスも人々のお金が余り、魅力的な投資先を求めていた時代でした。不動産バブル時代の日本も同様です。

バブルを繰り返す人々の心理

さて、長い前置きでしたが、なぜ人間はこんなにもバブルを繰り返してしまうのか。そこに隠れている心理バイアスにはどんなものがあるかを見ていきましょう。

ダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏は、1974年の論文で、「代表性ヒューリスティック」をはじめ3種類のヒューリスティック(直感による判断)を紹介しました。

この「代表性ヒューリスティック」とは、投資においては「上がるものはさらに上がり続け、下がるものはさらに下がり続ける」と思い込む現象です。割安銘柄はさらに悪くなると考えて買う気が失せ、より割安になっていき、人々の考えが行きすぎたときにはチャンスが生まれます。

どちらにせよ、人は「今の状態が永遠に続く」と考えすぎてしまう傾向があります。過去に何度もバブルを経験しておきながら、「今回は違う」と考えてしまうのです。著名なバリュー投資家ジョン・テンプルトン卿は、投資で最も高くつくフレーズは「今回は違う(This time is different)」だという名言を残しました。この言葉は世界共通でバブル時に見られ、人々は同じようにバブルと崩壊を繰り返してきたのです。

次に、人々の病的な「群れ行動」についてです。「バンドワゴン効果」と呼ばれる現象はバブルに大きく関わります。これは集団で行動することによって、間違った考え方があたかも正しいかのように増幅されて広がってしまう現象のことです。また、人と同じだと安心してしまう「ハーディング効果」も、バブルを加速させます。日本人は特に「人と同じだと安心」というバイアスが強いと言われています。これらの「群れ」が引き起こす行動によって、多くの人が人気銘柄や流行りに「自分も勝ち馬に乗りたい」と考えて飛びついてしまいます。

バブルは一種のストーリーによっても加速させられているようです。世界的ベストセラーとなった『FACTFULNESS』によると、私たちには「ドラマチックな物語」を求めてしまう本能があります。人間のドラマチック性が、市場の暴騰や暴落など、ドラマチックすぎる変動を生み出すのです。

バブル局面での正しい対応

バブルに直面したときに大事なのは、「乗り遅れていることが明白なら次を待つ」ということです。我々は、他社と比べられ、四半期ごとに成績チェックがある機関投資家ではありません。タイミングを逃してしまったら、機が熟すまで投資を休めるのが個人の強みです。多くの人が熱狂しているとき、すでに先行者利益はありません。

不動産バブルを予期し、2013年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー氏も、「市場は行きすぎる」と考えていました。そしてバブルとは「価格の上昇がさらなる価格の上昇を招く社会的な伝染病」と定義していました。

株価が上がり始めると、より多くの投資家がゲームに参加し、それにより多くの投資家が潤い、ますます多くの投資家を惹きつけます。ただこれは、「より愚かな」人が後から市場に供給されていき、上昇が維持されているだけです。市場参加者の新規供給は、いつかは途切れます。その供給が尽きたとき、価格も崩壊するのです。

ハワード・マークス氏は『投資で一番大切な20の教え』の中で、投資家心理を「振り子のように偏りすぎる」と言いました。振り子は、「強欲」と「恐怖」といった極端な感情を行き来するとされています。これは、カーネマン氏が指摘した「恐怖や羨望のような感情的な行動は、論理的思考に先立つ」という考えとぴったり重なるようです。

その心理の振り子が市場の変動を生み出し、適正価格より行きすぎたとき、冷静な投資家にとって絶好のチャンスが生み出されるというわけです。

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