「130万円の壁」崩壊 2年連続で超えても扶養のままでOK!

フロッギー版 お金で得するオタク会計士チャンネル/ 山田真哉

みなさんこんにちは! 公認会計士兼税理士の山田真哉です。
2023年9月24日、各新聞社から「年収130万の壁が実質的に崩壊」というスクープが出ました。これは一体どういうことなのか、そしてこの裏側にある注意点についてお話します。

お送りする内容は、以下の通りです。

・そもそも130万円の壁とは
・ 106万円の壁との違い
・年収130万円超えても2年連続まで扶養内OKについて
・3年目の要注意点

超えてはならぬ「130万円の壁」

まず簡単におさらいですが、年収の壁と呼ばれるものはたくさんあります。税金の扶養に関する93万円の壁、103万円の壁など。また社会保険の扶養に関する106万円の壁と130万円の壁もそうです。このうち、今回は社会保険に関する「130万円の壁」の話です。

「130万円の壁」について、年収129万円のパート主婦の例で見てみましょう。

このパートの方の配偶者(夫)は会社員で、夫に扶養されている状態にあるとします。つまり夫の会社の健康保険証を持っていて、国民年金をタダで受給できる。こうした対象者を「第3号被保険者」というんですが、健康保険や年金にお金を払わなくて済んでいる状態です。

この方の場合、パート先の雇用保険に年間7740円、そして所得税と住民税に4万5400円払ってます。すると、手元に残るお金は123万円余りになります。

これが年収1万円アップして130万円になった場合はどうなるでしょうか。130万円になると、夫の会社の扶養からは外れることになり、自分自身で国民健康保険と国民年金に加入し、保険料を支払う必要が出てきます。その場合、どのように手取りが変化するでしょうか。

年収は130万。雇用保険に7776円、国民健康保険に10万円少々、国民年金に20万円弱ということで計32万円ほど払うことになります。税金は社会保険料を多く支払っている分、少し安くなって年間5000円となります。すると、手元に残るお金は97万5000円です。

ということで、年収が1万円アップしたばっかりに手元に残るお金は26万円以上減ってしまう。こんな悲劇が待っているーーこれが130万円の壁です。

悲劇! 130万円の壁を超えても年金は増えない

悲劇はさらに続きます。年収130万円の壁を超えた人は、自分自身で国民年金を払うようになったにも関わらず、将来もらえる年金は一切増えません。

これは106万円の壁と比較すると分かりやすいと思います。106万円の壁を簡単に説明すると、勤めているパート先の会社で週20時間以上働いて、賃金が月8万8000円以上、年間106万円以上。勤務期間は2ヵ月超。そして、学生ではない。従業員が100人超の場合は、社会保険(健康保険と厚生年金)に強制加入しなければいけない。というのが、106万円の壁のルールです。

【106万円の壁】
・週20時間以上
・賃金が月8万8000円以上
・勤務期間は2ヵ月以上
・学生ではない
・従業員数が100人超
→社会保険へ強制加入

106万円の壁の場合も、健康保険や年金の負担がタダだった扶養から外れるため、手取りが15%以上減ってしまいます。ただ、将来もらえる年金は増えます。パート先の厚生年金に入れるので、年金自体が国民年金から厚生年金にパワーアップするからです。

106万円の壁は手取りは減るけど、年金は増えるから、まぁ仕方ないかなという感じになるのですが、130万円の壁は年金も増えないので、いいことがひとつもありません

だから世の中のパート・アルバイトの方々は「130万円の壁」は絶対超えないようにしようとします。そして、年末の繁忙期にもかからず、今年はちょっと働きすぎだから12月のシフトを減らしてください、といった仕事の調整が起きます。それでは、世の中の人手不足がますます加速してしまいます。これをなんとか変えようというのが、今回の改正です。

年収130万円を超えても、2年連続までなら扶養でOK!

「130万円を超えても扶養で大丈夫」という今回の改正は、パート・アルバイトの勤務先が従業員100人以下という大前提があります。さきほど話したとおり、100人超だと、そもそも106万円の壁で社会保険へ強制加入だからです。

月10万8333円、年間130万円を超えていると、配偶者の扶養から強制的に排除されるのが130万円の壁です。じゃあ、ひと月でも10万8333円を超えたらダメなのか、とか、3ヵ月連続だったらダメなのか、については配偶者側の健保組合の判断で、結構ばらつきがあります。今回の改正は、そのばらつきをなくそうという意味合いもあります。

では、どのような改正内容かというと、今年の年末に130万円を超えてしまっても、パート先の会社が「これは一時的な収入アップです」と言ってくれたら、配偶者側の健康保険組合が「2年連続までだったら130万円を超えても扶養のままでOKだよ」と言ってくれるという仕組みです。パート先の会社が証明してくれれば、130万円を超えたから、即扶養から外れなさい、とは言われないというルール改正なんですね。

そして、このルールはどうやら今年(2023年)の10月にスタートしそうです。ですので、今年は130万円を超えても問題なさそうです。まだ細かい情報は出てませんが、現状出ている情報だけを見ると、仮に月20万円働いても、年間200万円以上働いても、パート先の会社が「これは一時的です」と言ってくれれば大丈夫というルール改正になっています。

3年目に注意すべき点

というわけで、2年連続であれば130万円を超えても扶養のままでいられるのですが、ポイントは3年目です。仮に3年目も130万円を超えてしまった場合は、会社側も「3年連続です」と言わざるを得えません。配偶者の健康保険組合も3年連続で130万円超なら扶養から外れなさいと言うしかありません。その結果、この方は配偶者の扶養ではなくなり、自分で国民健康保険と国民年金に入ることになります。

ただ、これを逆に考えると、3年おきに130万円未満に下げてしまえば、セーフといえばセーフなんですね。つまり、今年200万円、来年200万円稼いでも、再来年だけ129万円に下げてしまえば、また次の2年間に200万円稼いでも扶養から外れないということができそうな気もします。この辺は、今後分かり次第、僕のチャンネルで取り上げたいと思います。

ここで、じつは僕がすごく気になっていることがあるんです。今後予定されている改正の時系列を見てください。

2023年10月から、今回説明した「130万円を超えても扶養内OKの2年ルール」ができます。来年(2024年)10月には「106万円の壁」で改正があります。これまでは従業員数101人以上だったのが、51人以上の会社に対象が拡大します。パート先の従業員数が51人以上の会社であれば、社会保険に入らなくてはいけません。

さらに2025年以降にも改正が予定されてます。より社会保険の適用対象の会社を増やすため、従業員が10人以上、もしくは1人いたら、社会保険に加入しなきゃいけないとなるかもしれません。

さらに、よく噂されてるのが、第3号被保険者の見直しです。保険や年金が扶養内ならばタダだよという制度の廃止です。最近の日経新聞の社説でも、廃止を含めた見直しといったようなことが書かれていて、この方向に行くのはかなり有力だと思います。

その結果、扶養から外れなくてはいけない130万円の壁が、70万円になる可能性も高まっています。つまり、基本、全員が保険や年金を払う、というのが政府の方針です。

となると、ここでふと気付くんです。なんで今回、130万円超えても扶養でもオッケーという改正が2年縛りなんだろうと。1年でも3年でもいいのに、なんでだろうと考えると、2年後は2025年です。この2年間、年収を130万円オーバーさせといて、2年後の改正のタイミングで、130万の壁を70万に下げる、みたいなことが起きたとしたら、どうでしょう。

200万円まで年収を増やした人が、いきなり70万円まで下げられるかというと、いまさらそこまで下げられないでしょう。

どうやら2年間というのは、単なる一時的なルールで、本命は、壁自体めちゃめちゃ下げてしまう、もしくは第3号被保険者をなくしてしまうという前振りかなぁと僕は感じたのですが、皆様はどう思うでしょうか?

とりあえず、今年に関してはこれからいっぱい働いても大丈夫だと思いますので、稼がなきゃいけないパート・アルバイトの方、また自分の会社のパート・アルバイトさんにいっぱい働いてもらいたい会社は、この2年ルールを使ってみてはいかがでしょうか。

というわけで、2023年9月23日時点の情報でございました。
それでは今後ともごひいきに。ば~い、ば~い。