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今回取り上げるのは積水ハウス株式会社です。
積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会(2023年9月8日)
2023年度第2四半期 決算概要(2023年9月7日)
積水ハウスグループ第6次中期経営計画2023-2025
2024年1月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
賃貸住宅ビジネス説明会資料
国際事業説明会資料(2023年7月19日)
事業内容と業績のポイント
それではまず、事業内容から見ていきましょう
積水ハウスの主な事業セグメントは、以下の4つです。
①請負型事業
②ストック型事業
③開発型事業
④国際事業
①請負型事業には、(1)戸建住宅(2)賃貸・事業用建物(3)建築・土木、②ストック型事業には、(1)賃貸住宅管理(2)リフォーム、③開発型事業には、(1)仲介・不動産(2)マンション(3)都市開発:ホテルなどがあります。これらに加えて、④国際事業として海外展開もしています。
戸建て・賃貸物件の建設、そのリフォームや賃貸物件は管理まで、さらに不動産仲介やホテルなどの開発も行っているという事ですね。
続いて、それぞれのセグメント事の売上の構成を見ていくと
②ストック型事業:売上27.4%
③開発型事業:売上13.2%
④国際事業:売上17.0%
となっており、戸建てや賃貸物件の建設の請負が主力です。また、海外比率は低く、国内事業が中心であることが分かります(①~④、セグメント別内訳売上高データから合計に対する構成比を算出)。
それぞれの事業内で規模が大きいのは、請負型では戸建と賃貸が同程度、ストック型では賃貸住宅の管理となっています。
多くの賃貸不動産物件を建設して、その管理の規模も増加させてきたという事ですね。不動産管理は安定的な収益が見込めますので、その点は強みでしょう。ちなみに、ストック型では、リフォームも成長が続いています(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p13参照)。人口減少が進んでいる日本市場では、顧客との長期的な関係を築くこと、つまりLTVの増加が必要で、リフォームも重要になっています。
積水ハウスはこれまで建築してきた住宅のストックがあるため、顧客情報を保有しており、それも強みとなりそうです。また、2023年6月23日に開催された「賃貸住宅ビジネス説明会」資料によると、賃貸住宅では管理の規模も大きく、2023年1月期では売上で4割、利益で5割が賃貸関連となっています。建設して売るだけではなく、管理まで行うことで収益を得られることから、賃貸の重要性が高いことが分ります。
賃貸では、シャーメゾンのブランドを展開しています。シャーメゾンは独自のマーケティングに基づき、主要駅の徒歩10分以内という基本的に好立地を中心に展開しています。好立地に高付加価値のマンションを建設することで、人口減少が進む国内でも高い入居率と賃料を維持可能、としています。実際に入居率は96~97%台で推移しており、賃料も増加傾向となっています(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p12参照)。
賃貸物件は、投資用として建てられています。ということは、賃料や入居率は重要です。それらの実績が今後の受注にも影響するからです。賃料が増加し、高入居率が続いている点はポジティブですね。さらに管理料も基本的には賃料に比例すると考えられますので、その面からも好影響が考えられます。
また、賃貸に関しては3・4階建ての比率が増加しています。直近では9割を超え、比較的規模の大きい住宅を増やしています。結果として、1棟当たりの単価、面積も増加しています。ただ、人口減少が続く日本国内の住宅市場は良好ではありません(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p9参照)。
株式会社矢野経済研究所の予想によると、新設住宅着工戸数は長期的に漸減傾向で推移し、2030年度では、2022年度比13.5%減の74万4600戸としています。そして2040年代には60万戸台に減少していく可能性がある、としています。
人口減少、さらに「住宅余り」の状況も進みますから、当然市場は縮小していくわけです。ですので、需要が減りにくい好立地に、大きな規模の賃貸物件の建設を進めているという事でしょう。
また、戸建てに関しても単価は上昇が続いています。建設できる件数が減る中、1件あたりの単価上昇で収益性の向上を進めているという事ですね。戸建ての受注に関しては、2023年4~7月は前年比では減少が続くものの、他社と比べると下落幅は小幅にとどまっているようです(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p7参照)。高単価であれば物価高やインフレの影響は受けづらいですから、実需の減少の影響はあるものの、受注面では強みがあると考えられます。
こうした状況の中で、ここ10年間ほどの業績の推移を見ると、売上は右肩上がりで成長しており、利益面も2020年にコロナの影響で悪化したのを除けば成長が続いています。国内の住宅建築の市場は良好とは言えない中でも、高単価化の取り組みもあり、大きな成長を続けてきたのですね(積水ハウスグループ第6次中期経営計画p11参照)。
とはいえ国内だけでは成長が難しくなる中、積水ハウスが方針として掲げているのが、国内の安定成長と海外の積極的成長です。国内での成長が見込みづらいため、海外での成長を進めている事が分かります。
実際に今後の3年の投資計画としても、投資額は国内へ1.3兆円、海外で1.7兆円となっています。現在は規模が小さいにも関わらず、海外の方が多額となっています。さらに、海外では3年で新規領域やM&Aにも2000億円を使っていくとしています。投資に対する回収でも海外が大きくなっており、海外での成長を見せられるかが重要になっています(積水ハウスグループ第6次中期経営計画p38参照)。
海外事業についてもう少し詳しく見ていくと、2022年度の市場別の売上構成は
アメリカ:83%
オーストラリア:12%
中国:5%
とアメリカを中心とした構成になっています。
また、2025年度の計画を見ると、アメリカが85%、オーストラリアが15%となっており、中国での事業完了を目指すとしています。中国は政治的なリスクが考えられますし、また建築市場の停滞が起きている中で撤退するようです(積水ハウスグループ第6次中期経営計画p23参照)。
成長が見込まれるアメリカ市場で成長していけるかが非常に重要であり、そこに注力していくという事でしょう(積水ハウスグループ第6次中期経営計画p24参照)。
現在のアメリカ事業では、西部で戸建て住宅を中心に展開しています。今後はM&Aを通じて南部進出し、エリア拡大を進めていくとしています(積水ハウスグループ第6次中期経営計画p25参照)。
2023年7月19日に開催された「国際事業説明会」の資料によると、2023年の6月に、Hubble社を買収しています。この会社は、アイダホ州Boise市にて、市場シェア2位(11.8%)の引き渡し戸数を持ちます。このように、西部の強化と南部への拡大を進めています。南部拡大のためのM&Aを今後も行っていく可能性が高そうです。
2030年までには国際事業は3割ほどとなる計画を立てているため、M&Aなどの投資を積極的に行っていくでしょうから、その投資の成否に注目です。
積水ハウスは、国内で戸建てや賃貸物件の請負を中心としています。賃貸に関しては管理まで行っており、大きな規模を持っています。賃貸の管理は安定的な収入が見込めますので、その点は強みがあります。
また、賃貸では好立地にこれまでよりも大きな規模の建設を増やしており、単価は上昇しています。戸建てでも単価は上昇しており、市場が縮小していく国内では高単価化の取り組みを進めていて、しっかり業績を伸ばしています。
ここまでのまとめ
・主な事業セグメントは、①請負型事業、②ストック型事業、③開発型事業、④国際事業で、戸建てや賃貸物件の建設の請負が主力
・多くの賃貸不動産を建設し、その不動産管理で安定的な収益を見込む
・ストック型では、リフォームの成長が続く
・人口減少が続く日本の住宅市場で、需要が減り難い好立地に大規模な賃貸物件の建設を進める
・戸建ては単価上昇で収益性の向上をねらう
・海外比率が低く、国内事業が中心。国内の安定成長と海外の積極的成長がカギ
・海外は成長が見込まれるアメリカ市場に注力
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年1月期の第2四半期までの業績です(決算短信を参照)。
売上高は2.7%増の1兆4624億円、営業利益は14.7%減の1249億円、経常利益は15.2%減の1252億円、純利益は11.1%減の924億円となっていて、増収ながらも減益となっています。
これまでは大きな成長を続けてきた積水ハウスですが、今期は苦戦している事が分かります。
セグメント別の業績の推移を見ていくと、業績が悪化しているのは、請負型事業と海外事業となっています。請負型事業に関しては、売上が2億円(0.03%)減でほぼ横ばい、利益面は19億円(2.8%)減とこちらも小幅な減少にとどまっています。
開発型やストック型では成長していますので、国内事業全体としては成長が続いているという事です。
業績が悪化していたのは海外事業だったのですね。
ちなみに、開発型が好調だった要因としては、ホテルの需要回復などもありますが、特に物件売却の影響が大きいです。福岡に開業したザ・リッツ・カールトン福岡に関しては、その特定目的会社に出資しているようで、そのホテル部分の売却(持ち分法投資利益として、営業外収益に計上)が行われた影響もあるようです(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p15参照)。
インバウンドが増加する中で、これから建設需要の増加が見込まれる数少ない分野はホテルです。成長が見込まれるホテル開発は重要性を増していくでしょうから注目ですね。
さて、今回の業績悪化に大きくつながっているのは、積極投資を進めていた海外事業です。売上は399億円(16.5%)減、利益は337億円(73.1%)減と大きく業績は悪化しています。
業績が悪化していた国際事業に関しては、特に悪化しているのが主力市場であるアメリカです。住宅事業では売上が増加しているものの、利益面ではすべての事業で悪化しています。
アメリカ市場での収益性の悪化が業績に大きな悪影響を与えていたという事ですね。
アメリカでは、金利上昇が進んでいるため、住宅ローン金利は上昇。また原料高も進む中で、住宅価格が高止まりしています。そういった市場環境の悪化もあり、住宅着工件数は調整局面となっていました。単価上昇による売上面への好影響はあったものの、大幅な収益性悪化があり、業績は悪化していたという事ですね。アメリカの物件売却規模の差異にも一因がありそうです。一方で、アメリカ市場では、販売は回復傾向にあり、建築資材の急騰や納期遅延などの問題も改善されつつあるとしています(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p16参照)。
実際に受注に関しては、5月以降は前期比で特に大きく増加した状況が続いていますし、想定以上の受注があったとしています(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p19参照)。アメリカの消費は強いですし、前年の金利上昇による急激な減少の反動もあるようです。売上に計上されるのは、受注してから数ヵ月後になりますので、今後は業績の改善が見込まれます。
また、オーストラリアの大型物件の契約が8月に完了したものの、分譲マンション引き渡しの端境期であったことや、中国の撤退による売上減など、アメリカ以外にも減益の要因はあります。不振の海外事業の業績の回復は、全体の業績回復につながりますので、どこまで業績が改善するかに注目です。
また、減収減益となっていた請負型ビジネスに関して見ていきましょう。戸建住宅は減収減益で不振だったものの、昨年の価格転嫁の効果によって利益改善が進んだとしており、収益性の改善は進んでいるようです。そして、賃貸は増収増益で、受注は好調だとしています。
単価の上昇の影響もあり、2023年以降、受注は前期比で増加が続いていますので、賃貸の堅調な受注を背景に請負型のビジネスでも、業績が大きく悪化する事はないでしょう(積水ハウスグループ2023年度2Q経営計画説明会資料p9参照)。
そうなると海外事業の業績改善もあり、全体の業績も改善が考えられます(決算短信を参照)。
実際に、通期予想としては増収増益の見通しを立てていますから、海外事業の回復がどこまで進むかに注目です。
大きな成長を続けてきた積水ハウスですが、直近ではアメリカ市場の悪化を受けて増収ながらも減益となっています。しかし、アメリカ市場では環境の持ち直しが見られており、受注も回復していますから、今後の業績に関しては一定の改善が進む可能性が高そうです。
積水ハウス※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。