安川電機【6506】受注面の回復がカギ? 自動化の進展で中長期の市場拡大に期待

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カエル先生の一言

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今回取り上げるのは株式会社安川電機です。

インベスターズガイド 本編
インベスターズガイド 事業編
統合報告書「YASKAWAレポート」
決算補足説明資料 2023年度 第2四半期 業績概要
決算補足説明資料 2022年度 通期 業績概要
2024年2月期 第2四半期決算短信〔IFRS〕(連結)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、株式会社安川電機の「インベスターズガイド本編、「インベスターズガイド事業編」「統合報告書「YASKAWAレポート」「決算補足説明資料 2023年度 第2四半期 業績概要」「決算補足説明資料 2022年度 通期 業績概要」「2024年2月期 第2四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」より引用しています。

ハイテク企業の中では珍しい2月決算の会社です。このため、その後発表される企業の決算の動向を占ううえでも、決算に注目が集まりやすい企業です。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。

安川電機の事業セグメントは以下の3つです。

①モーションコントロール事業:ACサーボモータ・コントローラやインバータなど、その名の通り動きの制御を行う製品
②ロボット事業:産業用ロボット、半導体製造装置用ロボットなど
③システムエンジニアリング事業:鉄鋼プラント用電機システムなど

それぞれの事業の2022年度の売上構成は、以下の通りです(インベスターズガイド 本編p7参照)。

①モーションコントロール事業:46%
②ロボット事業:40%
③システムエンジニアリング事業:9%
④その他:5%

主力は、①モーションコントロール事業と②ロボット事業です。つまり、業績は工場などの設備投資の需要に左右されます。

業績に大きな影響を与えるこの2つの事業について、もう少し詳しく見ていきます。

まず①モーションコントロール事業の主力製品は、(1)ACサーボモータ・コントローラと(2)インバータの2つに大別されます(インベスターズガイド 事業編p3参照)。

事業内での売上構成は

(1)ACサーボモータ、コントローラ:59%
(2)インバータ:41%

と両製品とも規模が大きいです(インベスターズガイド 本編p7参照)。

両製品ともモータの制御を行います。ACサーボモータ・コントローラは、モータで動く機械の位置や速度の制御を行うので、工作機械や半導体製造装置など、高速で高精度が要求される分野で利用されます。具体的な利用用途としては、エレキ関連(半導体・液晶、電子部品など)が45%、機械関連(工作機械・金属加工・プレス・ロボットなど)が30%となっています。半導体市場の影響も受けやすいという事ですね。

そして安川電機は、ACサーボモータ・コントローラの分野では市場シェアが17%で、グローバルシェアNo.1の企業(同社資料より)です(インベスターズガイド事業編 p11参照)。

一方でインバータは、モータの回転速度を制御します。このため産業機器だけでなく、空調ファンをはじめとする生活関連の機器など、より幅広い分野で利用されています(インベスターズガイド 事業編p18~20参照)。

インバータのような回転速度を制御する装置の重要性が高まっています。インバータを利用しない場合、モータ速度が一定で稼働します。その結果、ファンで作られる風量をダンパ(開閉弁)で調整する必要が生じます。そうなると、使う電力消費量が格段に増加します。

ちなみに世界の電力消費の46%は、モータによるものです。つまりインバータを活用して電力消費を抑える事は、省エネ化が進む世界的な動向を見ても、重要性が増していくという事になります。

インバータは、様々な用途で使われます。このため、ビル空調、コンプレッサは15%、クレーン、ホイストが9%など、利用用途の構成も分散しています。なお、同社はグローバルの市場で5%の市場シェア(同社資料)を持ちます(インベスターズガイド 事業編p23参照)。

続いてロボット事業ですが、こちらは産業用を中心に工場の自動化に活用されています。その用途としては、自動車関連が40%、半導体・液晶関連が10%、家電やスマホなどが10%となっています。自動車企業や半導体市場の設備投資に影響を受けやすいという事ですね。そして産業用ロボットの市場シェアは10%(同社資料より)です(インベスターズガイド 事業編p34)。

今後大きな成長が期待できる「その他」分野についても見ていきましょう。

ここまで見てきた主力事業の製品の多くは、リチウムイオンバッテリーの製造工程に導入されています(インベスターズガイド 事業編p40参照)。

富士経済の見込みによると、EV化によってリチウムイオンバッテリーの市場は2040年には2021年比で1000倍となるとしており、EV浸透とともに成長が期待されています。

また、同社は同社製品を導入した顧客に対し、スマート工場化への取り組みを進めています。工場へ個別の製品を提供するだけでなく、工場全体の自動化、効率化を進めていくソリューション企業への成長を目指しています。製造業において工場の効率化は重要課題なので、この取り組みの進展にも注目です(インベスターガイド本編P13,31,32参照)。

続いて市場別の売上構成を見ていきます。

①日本:29%
②米州:21%
③欧州:15%
④中国:24%
⑤中国除くアジア:11%

日本市場が最も大きな市場ですが、グローバルで分散した構成です。海外比率が71%と海外を中心とした構成になっています(統合報告書「YASKAWAレポート」p33)。

つまり、グローバルでの設備投資の動向が重要な企業という事ですね。

安川電機の2023年度2Q決算補足説明資料より

また、海外比率が高いため業績に与える為替の影響も大きいです。為替が1%変化することで与える影響は、

米ドル:2.9億円(0.41%)
ユーロ:1.9億円(0.27%)
元:3.3億円(0.47%)
ウォン:1.7億円(0.24%)
※()内は2023年度営業利益比。変動額を2023年度通期見通しの「営業利益700億円で除して計算。執筆者の妄想する決算が算出したデータ。

となっています。額面で最も大きな影響のある元が2%変動すると、営業利益に1%ほどの影響が出る事になります。

安川電機についてざっくりと理解できたところで、近年の業績の推移について見ていきましょう。

2013年からの業績の推移を見ていくと、コロナ禍で設備投資の減速もあり一時的な業績悪化はありつつも、2021年度以降のここ2年ほどは好調な業績となっています。特に2022年度は売上、営業利益ともに過去最高を更新するほど好調です(インベスターズガイド 本編p8参照)。ではどうして近年は好調になっていたのか、見ていきましょう。

安川電機の2022年度通期決算補足説明資料より

まず利益面ですが、営業利益の変動要因を見ると、為替の影響が大きいです。154億円の増益のうち121億円が為替の影響となっています。円安が進む中では好調になりやすいことが分かります。

その他の好調の大きな要因は、経済回復による設備投資です。製造業全般で生産の高度化・自動化への投資が進んでいます。さらに部品供給のひっ迫も回復して、生産面も回復したとしています(2022年度本決算 決算補足説明資料p4参照)。

セグメント別の業績を見ていくと、特に好調だったのはロボット事業です。モーションコントロール事業では、原燃料高に加えて中国が続けていたゼロコロナ政策の影響を受けて減益になりました。ロボット事業では、EV化の加速やリチウムイオン電池関連の需要拡大をとらえて好調でした(2022年度通期決算補足説明資料p5参照)。

ただ、今後も好調が期待できるかというと、疑問が残る部分もあります。なぜなら、同社の製品は、受注から納品までに一定の時間が必要であるためです。

そこで先行指標となるのが受注高です。

2022年度の第4四半期時点での受注高は、前期比で17%減、前四半期比で19%減の1266億円と、減少しています(2022年度通期決算補足説明資料p28,29参照)。

半導体市場の動向が同社の業績に与える影響は大きく、現状では半導体市場は低調です。加えて、安川電機の市場規模が大きい中国の景気も減速傾向にあります。こうした中、先行指標となる受注高が減少していて、好調が続くかどうか疑問が残ります。

とはいえ、時代の流れとしても自動化は進んでいきます。またインフレによる賃金上昇、労働力不足の状況に鑑みても、自動化の需要は高まっていくと考えられますから、中期的には市場環境は悪くないでしょう。

ここまでのまとめ

・主な事業セグメントは、①モーションコントロール事業、②ロボット事業、③システムエンジニアリング事業で、モーションコントロール事業とロボット事業が主力
・モーションコントロール事業は、(1)ACサーボモータ、コントローラ、(2)インバータの2つに大別される
・それぞれの分野で、グローバル市場で一定のシェアを占める
-ACサーボモータ、コントロール:17%でトップ
-インバータ:5%
-産業用のロボット:10%
・安川電機の主力商品は、EV化の導入加速で市場が2040年に約1000倍になると見込まれるリチウムイオンバッテリーの製造工程にも多く導入されている
・市場別の売上構成では、海外比率は71%
・自動車や半導体市場の影響を一定程度受ける
・為替が業績に与える影響が大きく、円安が進む過程では好調になりやすい
・2022年度は、売上、営業利益とも過去最高を更新。背景は円安とコロナ禍での悪化から、生産面・販売共に回復してきたことにある
・今後は、工場全体の自動化、最適化に注力
・先行指標は受注高
・半導体市場、中国の景気低迷の背景に受注高が伸び悩む
・自動化の進展による成長に期待する

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきます。

今回見ていくのは2024年2月期の第2四半期までの業績です(決算短信を参照)。

売上高:2889.8億円(9.7%増)、営業利益:330.6億円(5.8%増)、四半期利益:242.3億円(2.2%増)となっており、引き続き好調です。

安川電機の2023年度2Q決算補足説明資料より

生産の正常化と受注残の着実な消化、さらに円安の継続、そして価格転嫁による収益性の改善が進んだことなどが好調の要因としています。

では業績の通り好調なのか、というとそうとも言えません。

安川電機の2023年度2Q決算補足説明資料より

営業利益の変動要因を見ると、昨年度に一時的に発生した退職年金制度の変更や遊休不動産の売却などに伴うその他の収益がなくなった影響を受けています(決算短信を参照)。増益額が18億円に対して為替の影響が21億円となっており、為替面の好影響がなければ、コスト増加を受けて減益だったことが分かります。

安川電機の2023年度2Q決算補足説明資料より

さらに、受注高の推移を見ると、減少傾向が続いています。

安川電機の2023年度2Q決算補足説明資料より

地域別の売上を見ると、各市場とも成長しています。そんな中、低成長にとどまるのが中国です。中国の景気減速や半導体市場の落ち込みを受け、受注に苦戦する状況が続いています。

半導体設備装置の需要回復は2024年以降と見込まれていますから、受注面の苦戦が継続する可能性が高そうです。

安川電機の2023年度2Q決算補足説明資料より

通期予想を見てみると、純利益はマイナスに転じるものの、それ以外は増収増益の見通しを立てています。受注残の消化と価格改定による影響が大きいとしています。

安川電機の2023年度2Q決算補足説明資料より

営業利益の変動要因の見通しを見ると、増益額17億円に対して、為替の影響が38億円となっています。為替面の好影響がなければ、通期でも減益傾向が続くという事ですね。

前期までの好調な受注と、継続する円安を背景に好業績が続く可能性はあります。ただし、受注面で苦戦していますので、受注高の推移に注目です。

という事で、安川電機の直近の業績では増収増益が続いているものの、受注高は減少が続き、為替の好影響がなければ減益という状況です

半導体製造設備市場の回復は2024年以降の見通しですし、中国市場の景気低迷が見込まれています。このため受注面の回復には時間がかかりそうです。

一方で、同社の分析によると営業利益における「付加価値」増が、4月に発表した前回計画の+12億円から大幅に増額になっています。同社は価格転嫁や顧客への付加価値アップで粗利の改善を進めています。このような景気や為替など外的要因でなく、企業努力による収益改善の姿勢にも注目したいです(2022年度通期決算補足説明資料P18参照)。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」をフロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
安川電機