「黒潮」を通じて日本のマーケットを魅力的にしたい

ここでしか聞けない!ファンドマネージャーの本音/ 部奈 和洋日興フロッギー編集部

脱デフレが鮮明になり、マーケットのムードが変わってきた日本株市場。そんな中に「長期で大きく変化する企業」に投資をするファンド「三井住友DS日本バリュー株ファンド 愛称:黒潮」があります。ファンドマネージャーである部奈和洋(べな かずひろ)氏にその運用の特徴や想いをお伺いしました。

三井住友DS日本バリュー株ファンド 」(愛称:黒潮)は、各種投資指標により割安と判断される銘柄を重視し、中長期的な観点から個別企業のファンダメンタルズ分析により投資銘柄を選定するものです。TOPIX(東証株価指数)をベンチマークとし、中長期的にこれを上回る投資成果を目指しています。

日本企業の利益は過去最高水準にある

――昨今、報道される様々なニュースを通じて、漠然と日本の先行きに対して不安を抱くようになったという方も少なくないと思うのですが、日本株ってどうなのでしょう……?

なんでもそうだと思うのですが、近すぎると悪い部分ばかり目に付いてしまいがちですよね。株に関しても同じことが言えます。外国株の「本当のところ」って見えないんですよね、”隣の芝生”なので。現地に行ったら「実は」ってことがいっぱいあると思います。

実際のところ、日本企業は過去最高の利益を出せています。それこそ、よく「バブル期」なんて言われますが、日本経済が一番強かったとされる1990年代の利益よりも、今のほうが金額ベースでずっと上回っているんですよ。なので、日本に対して、さほど悲観的な印象を持つことはないと考えています。

――部奈さんから見て、日本企業の魅力・面白さはどういったところにありますか?

そうですね、いま日本企業が変化を見せ始めていて、その変化に注目して運用を行っています。変化を間近で感じられることが面白さですね。

――コロナ禍で働き方改革であったり、さまざまな変化があったと思うのですが、こうしたことも日本企業が変わるきっかけのひとつになったのでしょうか。

ひとつのきっかけと思います。実際、コロナ禍で「今後継続的に事業を運営するにはどうしたら良いのか」と改めて考え直した企業も多いと感じています。

コロナに限らず、何かがあると見直すきっかけになりますよね。変化って努力を伴う大変なものだと思っていて、きっかけがなければ「楽だから」とそのまま放置してしまいがちです。そういった意味で、今回のコロナ禍はこれまで見過ごされてきた「無駄」や「手間」を改善する機会になったのではないかなと思います。

リスクをどう捉えるかでファンドの見方が変わる

――インデックスファンドに比べ、アクティブファンドはリスクが高いのでは? とイメージを抱く方も多いと思うのですが、実際どうなのでしょうか。

すごく難しいところで、リスクをどう捉えているかで変わってくると思います。いわゆるパッシブ、つまりインデックスファンドであっても、当然リスクはあります。たとえば、ボラティリティ(価格変動)をリスクと捉えるのであれば、インデックスだろうとアクティブだろうと、それ相応のリスクがありますよね。

私どものようにアクティブファンドを運用する立場からすると、ベンチマーク(指標)に対してどうであったか、という点で競っています。黒潮に関しても例外ではなく、インデックスからどれだけ離れているかをリスクとして計測しています。

一言でアクティブファンドと言っても、ベンチマークと全く異なる動きをするものもあれば、逆にほとんど乖離がないものもあります。たとえば、ある方がS&P500のようなインデックスファンドを持っているとします。そのファンドにリスクを感じていないのであれば、似たような価格変動があるアクティブファンドも購入の検討対象になりますよね。なので、さまざまなパターンの中から自分の気に入ったものを選んでいただくのが良いと思います。

また、黒潮はTOPIX(配当込み)をベンチマークとしていますが、その際、どれだけボラティリティ(価格変動)の差があるのかを「トラッキングエラー」として算出しています。差があればあるほど、結果のリターンが変わりやすく、リスクも高くなります。現状、黒潮はTOPIXに対して少しリスクを取ることにより、TOPIXを上回るリターンを出せています。つまり、黒潮はリスク・リターンの効率が良いと言えます。

成長したい企業を応援できるバリュー株の面白さ

――黒潮はバリュー株に着目して運用しているファンドですが、グロース株と比較して見極めが難しそうなイメージがあります。どのように見定め、運用しているのでしょうか。

自分の話なのですが、僕って極めてマイペースで人が何を思っていようがあまり気にならないんですね。そういった性格がバリュー株と合っていると感じます。

グロース株は、早くから注目されている企業に投資して、それこそ「流行に乗る」というイメージがあると思いますが、バリュー株は異なります。企業訪問をする前は、その企業のおおよその価値を見定めていて、何かしらプラスの要素があるのかなと捉えていることもあります。しかし実際に話を聞いてみると「なんだ! この会社こんなに頑張ってるのか!」みたいな気付きがあるんですよ。そこがバリュー株を選定する際の面白さと思います。企業訪問をして実際にお話を伺うと「いま変わらないと20年後、30年後ダメになる(だからいまが頑張り時なんだ)」といった熱い思いを抱えている企業さんが本当にたくさんいらっしゃるんですね。

そういった話を聞くと、こちらも胸が熱くなって、投資しようという決断に繋がりますね。一緒にやらせてください。頑張ってやってください、応援します! といった気持ちですね。

グロースとバリューについてもう少し話をします。米国株を含む投資信託には、アップルやマイクロソフトに投資している商品を多く目にすると思いますが、そうした商品は銘柄がグロース寄りになっています。グロースとバリューはある意味反対方向、もちろん丸きり反対ではないけれど違う動きをしやすい傾向にあります。すでにグロース株ファンドを保有している方は、あわせてバリュー株ファンドを保有すると、リスク分散に効果的に働くと思います。

――ありがとうございます。銘柄選定時は相手の、企業の想いや熱意に共感して併走していくようなイメージでしょうか……?

そうですね。投資をさせていただいているので、こちらからも「こういったことはできないですか?」とアドバイスなどをすることもあります。お役に立てることがあれば協力していきたい、応援したいといった気持ちですね。

「日本企業を魅力的にする」そのお手伝いをしたい

――黒潮は歴史のあるファンドだと思うのですが、これから先どのようなファンドに成長してほしいと考えていますか。

黒潮に携わるチームの一員という観点から申し上げると、「日本のマーケットを魅力的にしたい」という思いがあります。日本株を通じて日本の会社にかかわっている以上、日本企業を魅力的にしたい。それこそが日本経済の底上げにつながるんじゃないか、と考えています。そのお手伝いができればなと。

――年間でどのくらいの企業さんとお話されているのでしょうか。

私の場合、年間で大体400社程度ですね。でもこれは少ない方です。僕は実際に足を運ぶスタイルを大事にしているので、この数になっています。オンラインを活用したほうが数は増やせるのかもしれません。しかし、その場の雰囲気であったり、従業員の方の働きぶりなど、直接目で見ないとわからないこともあるのかなと。

たとえば、コスト削減を声高らかに掲げているにも関わらず、実際に訪問すると面会するまでに何度も異なる受付を済ませなければならなかった、なんてケースもありました。ひとつひとつは些細なことでも、どういった考え方で事業を運営しているのかが垣間見えるきっかけにもなりますよね。

ファンドマネージャーとして結果を出すことがやりがいに繋がっている

――最後に部奈さんのことについて少しお聞きします。普段ファンドマネージャーとして、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

ファンドマネージャーは、多岐にわたって様々なことをしています。一番イメージしやすいのは企業分析だと思います。また、投資する際には市場にあまり影響を出さないようにどうやって買い進めるか、などトレーダーさんと話したりもします。また、お客さん関係でなにか相談を受ければ、営業関係部署との打ち合わせ調整なんかもしますね。

それから分析・報告もファンドマネージャーの仕事のひとつです。ただ買えばいいわけではなく、なにをどのぐらい買うべきなのか、似たような銘柄であればどちらを優先すべきなのか。こうした点までアナリストは言ってくれないので、僕たちがやっていますね。

――個人投資家とファンドマネージャーの違いは、カバーしている範囲の広さになるのでしょうか。

個人投資家との違いで言えば、企業に直接アクセスできるのがファンドマネージャーの強みと感じています。個人投資家の方が社長さんと話したいと思っても、実際難しいですよね。ファンドマネージャーは仕事上、たくさんの企業の社長さんと直接話をする機会があるので、得られるものも多いと思います。

――部奈さんが考える、ファンドマネージャーのやりがいとはなんですか。

やはり結果です。陸上競技などと同じように、結果が目に見えてわかるものなので、自分がしたことが良い結果として表れると本当にうれしく感じますね。

――ありがとうございます。最後に、黒潮への投資を検討している方に対してメッセージがあれば伺えますか。

変化を後押ししていきたい、というファンドの思いに共感できる方に届いてほしいです。結果はすぐには出るものではありません。中長期的にじっくり待つイメージを持ちながら、企業がどう変化していくのかを一緒に応援してみませんか? と。もしご興味があれば、実際にその会社が作っているものや、提供しているサービスなどに目を向けてみるのも楽しいと思います。