2023年プレイバック! インフレ定着が変える相場の風向き

カエル先生の株式相場プレイバック/ 日興フロッギー編集部平松 慶

マーケットの「温度感」がわかる連載「カエル先生のマーケットハイライト」。2023年も残りあとわずか! ということでさっそく今年の相場を振り返りましょう。新NISAで買う銘柄のヒントがあるかも!?

カエル先生の一言

紛争やインフレが続く中でも、大きく株価が上昇した日本株マーケット。その背景には①東証の企業価値向上への異例の提言、②米利上げの終焉、③円安・インフレの定着がありました。2024年の相場を見通すためにもまずはチェックしてみましょう。

円安・インフレ傾向が定着した1年

2023年11月30日の日経平均株価は3万3486円となり、昨年末に比べて7392円高でした。2023年の株式市場は、3月末の東証の企業価値向上に関する異例の提言をきっかけに、低PBR銘柄を中心に株価が上昇。円安の進行も追い風となり、企業業績は好調を維持しました。一方、米金利の上昇による景気への悪影響や、ウクライナ情勢、イスラエル・パレスチナ情勢などは相場の重しにもなりました。

それでは今回は、2023年の日本株を動かした3つの要因と今後の影響について見ていきましょう。

〈日本株を動かした3つの出来事〉
①東証の企業価値向上への異例の提言
②米利上げの終焉
③円安・インフレの定着

①東証の企業価値向上への異例の提言
東証は3月31日に上場企業に対し、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応などを要請しました。内容としては①資本コストや資本収益性の的確な把握、②改善に向けた計画の策定と投資家への開示、③計画に基づく経営の推進と投資者との対話の実施です。

これにより、特に低PBR銘柄などに対して、改善期待などから株価は上昇。日本株マーケット全体の追い風となりました。今後もこれまで以上に企業が主体的になって、資本効率の改善に取り組むことが考えられます。こうしたことから、好業績・低効率銘柄への改善期待は相場の下支え要因になることが想定されます。

カエル先生の一言

PBRとは株価純資産倍率のこと。「Price Book-value Ratio」の略で、株価が1株当たり純資産(BPS:Book-value Per Share)の何倍まで買われているかを見る投資尺度です。現在の株価が企業の資産価値(解散価値)に対して割高か割安かを判断する目安として利用されます。

②米利上げの終焉
ウクライナ情勢に端を発する商品価格の高騰や、好調な企業業績、底堅い雇用情勢などの影響を受け、目安となる2%を大きく超えたインフレが続いていた米国。それを抑制するために、米国では金融当局であるFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げによる金融引き締め策を続けています。

ただ、2023年10月のCPI(消費者物価指数・総合)は前年同月比+3.2%と、徐々に高かったインフレ率は落ち着きを取り戻し始めています。企業業績は好調なものの、一部で景気減速の兆候も見られ始めていることから、市場は「米利上げの終焉」を意識し始めています
足元では、利上げの打ち止めどころか、利下げが視野に入り始めたことで、株式市場の追い風になっています。今後の焦点は「景気減速」と「利下げ」のスピード勝負となりそうです。利下げによる景気浮揚効果よりも、これまでの利上げによる景気減速の影響が大きければ、企業業績の悪化が深いものとなり、株価も急落する恐れがあります。一方で、「後追い」にならないように、FRBが積極的に利下げなどに動けば、株価は上昇を続けるでしょう。今後も米金利と実体経済の状況に注視する必要がありそうです。

③円安・インフレの定着
米国とは対照的に、金融緩和策を継続していた日本銀行。多少の政策調整はあったものの、基本的な緩和姿勢は継続させてきました。そのため、内外金利差などから外国為替市場では円安が進行。ドル円は約33年ぶりの1ドル=151円台後半まで円安が進行しました。
また、円安による輸入物価の高騰に加え、賃上げムードの広がり、サービス・商品価格の値上げが拡大したことによりインフレが進行。2023年1月には消費者物価指数(生鮮食品除くベース)が前年同月比+4.2%となり、第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年9月(4.2%)以来、41年4ヵ月ぶりの水準になりました

円安が企業業績に大きな追い風

こうした状況は、我々が生活をする上では痛手となる一方で、業績へ追い風を受けている企業もあります。

円安に関しては、自動車を中心とした輸出関連企業の業績を押し上げています。たとえば「 トヨタ自動車 」は対ドル1円の円安で営業利益が450億円、対ユーロで同60億円押し上げられます。その結果、2023年4−9月期決算は前年同期比で為替影響だけで2600億円のプラス影響となりました(連結営業利益)。

自動車だけでなく、「 三菱重工 」といった機械業、「 日立製作所 」や「 ソニー 」「 三菱電機 」といった電気機器業なども円安が業績を大きく押し上げました。

「インフレ定着」が食品メーカーを潤す

乳製品大手の「 明治HD 」では、値上げによって営業利益304億円の押し上げ効果があり、原材料高による179億円のマイナス影響を大きく上回りました(2023年4−9月期)。そのほか、「 森永乳業 」など乳業大手のほか、「 カルビー 」や「 森永製菓 」などの菓子大手、「 日本ハム 」などでも価格改定によって業績が押し上げられました。

ブランド力のある企業に注目

米国で金利低下が進めば、為替の動向は予想しづらい展開になると考えられますが、企業や人々の中で賃上げや価格改定が当たり前のものになれば、インフレ傾向は続く可能性があります。今後も価格改定ができるブランド力や商品力のある企業などに注目していきたいですね。