ポッキーみたいな投資信託を作りたかった

ここでしか聞けない!ファンドマネージャーの本音/ 藤野 英人日興フロッギー編集部

いま日本で話題になっている投資信託のひとつに、投資家との距離の近いことで知られる「 ひふみプラス 」があります。最高投資責任者の藤野英人氏にファンドに対する想いや、新NISAに対する向き合い方についてお伺いしました。

いま、日本のよさが見直されている

――少子高齢化や円安など、いろいろ不安になるニュースが多い中、日本の現状をどのように捉えていらっしゃいますか。

確かに日本は数多くの課題を抱えているけれど、世界の先進国の中で見ると一番よくなっていると感じています。もちろん、いろんな比較の仕方があるのですが、たとえば中国であれば習近平氏の独裁体制が強くなっています。もともと情報規制がある程度厳しかった国が、もっと厳しい状況になっている。そのため、とても緊迫した状態になっていて、経済もその影響を色濃く受けています。

はたまた、ヨーロッパを見るとどうでしょう。インフレが激しく、景気が非常に悪くなっています。貧富の差も拡大していて、社会停滞がつづき、国民の不満も高い状態になっています。

こう考えると、日本もそうですが、自分の国以外はよく見えてしまうものなんですね。

――なるほど。アメリカ経済は比較的よいイメージを持っているのですが、いかがでしょうか。

アメリカ経済は好調ですが、その反面、貧富の格差がものすごく拡大していますし、オピオイドといった麻薬性鎮痛剤が一部地域で蔓延していて、非常に治安が悪くなっているところもあるようです。その点、日本は夜遅くに女性が一人で出歩いてもそれほど危険はないですよね。なので、日本は世界の中でかなり治安がよい国と見られています。貧富の差もそれほど大きくなく、浮浪者が町にあふれかえっていることもない。やる気になって頑張れば成功するチャンスが残されている。こうした点からも日本のよさが、近年見直されつつあるんですね。

バフェット氏が来日した意味を考える

――いま日本で円安の状態が続いていることについて、どう思われますか。

円安のポジティブな部分、ネガティブな部分、それぞれあると思いますが、最近はポジティブなところがかなり出てきています。これまで日本の国内工場はコスト削減のために海外へ進出していたのですが、今は円安のおかげで日本の優秀な人が安く雇える、土地が安い、物が安いということもあって日本で物を作ろうといった流れが強くなっている。また、米中の貿易対立が強くなって「経済安全保障」という言葉も登場しているように「中国と取引をするのをなるべく避けよう」といった動きが世界的に広がりつつあります。こうしたことから、結果的にさまざまな人や技術が日本にやってくるようになって、特に地方における雇用が増えつつあります。

――日本に注目する海外企業が増えているのですね。

そうですね。それから、これまで日本では古い体質を引きずっている企業、いわゆるJTC(Japan Traditional Company)が多かったのですが、そうした企業の体質も相対的にだいぶよくなりつつあります。こうした流れを受けて、なんだか日本がいい国らしいと今年の3月にアメリカ最大の投資家といわれているウォーレン・バフェットさんが来日しました。そしてバフェットさんが驚いたわけです、日本すごいぞと。同じく、アメリカの有名投資家であるチャーリー・マンガーさんも今の日本を見て、「日本やれるぞ」「頑張っているじゃないか」と。

いまお話ししたような変化は、突然起きたわけではありません。メディアも含め多くの人が気づかないうちに、ここ10年ほどの間に日本が少しずつ変わっていった結果です。2022年から2024年にかけては、特に大きく変化したように感じています。

10年後、日経平均は10万円超えも

もちろん、これから先どうなるかは誰にもわかりませんが、私は10年後に日経平均株価が10万円を超すと考えています。それも、そんなに強気な予想だとは思っていません。なぜなら、実は日経平均は10年間でもう3倍になっているのです。10年ほど前に1万円くらいだったのが、3万円を超えてきています。そしてこの10年っていうのは必ずしもよかった10年間ではなくて、デフレの時期とも重なっているんですね。

だから、インフレの時代に向かうと言われている中で、ここから日経平均が3倍になる可能性は十分にあると考えています。

――インフレにはよい面もある一方で、家計にとっては苦しい状態がつづくような気がするのですが、どうなのでしょうか。

このまま物価の上昇が続けば、収入が少ない人やお給料が上がらない人にとってはつらい状況になると思います。これまでは給料が変わらなくてもお金の価値が上がっていったことから、どちらかというと節約をする人が得をしたんですね。ただ、これからはそうではなくなってくる。節約はもちろん大事だけれど、物の価値に比例してお金の価値が上がることはあまり期待できないでしょう。

そうした中ででは何が大事になのかと考えると、これからは投資がすごく重要な役割を果たすようになってくる。インフレ時代に向かう中で、これまでのように我慢して節約する作戦はあまり意味がないんですね。

――来年、2024年から新NISAが始まることも、投資にチャレンジする姿勢を後押ししてくれそうですよね。

そうですね。ここから日経平均10万円時代に向かっていく中で、新NISAがスタートする。これはとてもいいことで、この先のインフレ時代に対抗するための武器を僕たちは国からもらったといってもいいのではないかと思っています。

ただ、この武器の使い方は人それぞれになるので、国は使い方までを教えることはできないんですね。使い方がわからないから、みんな右往左往してしまっているのが現状です。なので、新NISAという武器を使ってどうやってインフレ時代と戦っていくのか、そこを考える必要があると思っています。

ポッキーみたいな投資信託を作りたかった

――ファンドを立ち上げた背景やきっかけについてうかがえますか?

ひふみ投信を作ったのは2008年ですが、当時よい投資信託がないなと思ったのがきっかけですね。ここでいう、よい投資信託とはなにかという問いに対して、僕はよく「ポッキーみたいな投資信託を作りたかった」と答えています。多くの人に親しまれているのはもちろん、日本に5年以上住んでいる人であればポッキーを知らない人なんていないんじゃないかと思うほど、知名度も抜群ですよね。そして、どこでも買うことができる。

あともうひとつ、ポッキーという言葉の中に製品の要素が含まれていないですよね。もし投資信託を売るやり方でポッキーを売るとすれば、「チョコレートのかかった棒状のクッキー」というような名前で商品を売ることになると思うんです。現に投資信託の販売市場を見ても、ある意味代わり映えがしない名前ばかりが並んでいる、それが日本の投資信託なんです。僕らが目指したファンドはそうじゃない、親しみを持てる名前で、気軽な価格でどこでも買えて、一定のパフォーマンスが期待できる。そうした想いを込めて「ひふみ」という商品を作りました。

――ありがとうございます。月1で月次運用報告会「ひふみアカデミー」を開催していたり、YouTubeで積極的な配信を行っていたりと、対話をとても大事にされているイメージがあるのですが、お客様と接する中で気づいた、お客様に共通する特徴のようなものはありますか?

そうですね、一概には言えませんが比較的好奇心が強くて何事にも前向きな人が多いなと感じます。わくわくしたい、もっと学びたい、そんな人たちが多いですね。そうした方々の元気やエネルギーは僕らにとってもすごくよい刺激になっていますし、人との繋がりや出会いはこれからも大切にしていきたいと思っています。

新NISAは「小さく、ゆっくり、長く」

――来年から始まる新NISAに対して投資を検討している方や、商品選びで悩んでいる方も多いと思うのですが、そうした方に向けメッセージをいただけますか。

先にもお話ししたように新NISAはとても魅力的な制度なので、ぜひ検討してみてくださいといいたいところなのですが、もうひとつ大事なことがあります。それは来年から始まるけれど、新NISA自体はずっと続く制度なので、制度の開始と同時にやらなければいけないものではないということです。

業界としてはスタートダッシュが大事ですと、早く口座を開設してくださいと、そういった声をよく聞くと思うのですが、投資はコツコツと長期的に続けるものなので焦って始める必要はないんですよね。もちろん、口座の開設自体はしておいても問題ありませんが、投資を始めるタイミングは自分の判断で決めていただければなと。

それから、新NISAで初めて投資デビューをされる方も多いと思います。その人たちに伝えたいメッセージとして、いきなりドンとやらない、「小さく、ゆっくり、長く」といった3つの原則に従って投資を始めてほしいというのがあります。ここで言う小さくとは、具体的には「手に汗をかかない程度の金額」です。手に汗をかくような金額であれば、それはちょっと身の丈に合っていない。自分のお金に対する意識に合わないことはしないことが大切です。

――小さく、ゆっくり、長く。これらを念頭に置いた上で、自身の身の丈に合った金額から始めるのが大切ということですね。

そうですね。新NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」といった2つの投資枠があるので、「つみたて投資枠」のところで月々1万とか2万とか、そのぐらいの金額から始めるとよいのではと思います。

そうした中でひふみの商品に投資するメリットとして、投資した金額の大小にかかわらず、投資のイメージや投資の面白さを学べるレポートやセミナーがあるので、そういったものに関心があればぜひ前向きに検討していただければ幸いです。