キヤノン【7751】堅調な業績でもまだまだ収益性改善が必要な理由

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カエル先生の一言

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今回取り上げるのはキヤノン株式会社です。

キヤノン株式会社2022年12月期決算説明会
キヤノン統合報告書2023
キヤノン株式会社2023年経営方針説明会「キヤノン全体戦略」
キヤノン株式会社2023年経営方針説明会「プリンティンググループ」
キヤノン株式会社2023年経営方針説明会「イメージンググループ」
キヤノン株式会社2023年経営方針説明会「メディカルグループ」
キヤノン株式会社2023年経営方針説明会「インダストリアルグループ」
2023年12月期第3四半期連結決算概要(決算短信)
キヤノン株式会社2023年第3四半期決算説明会

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、キヤノン株式会社の「キヤノン株式会社2022年12月期決算説明会」「キヤノン統合報告書2023」、キヤノン株式会社2023年経営方針説明会の「キヤノン全体戦略」「プリンティンググループ」「イメージンググループ」「メディカルグループ」「インダストリアルグループ」の各スライド、「2023年12月期第3四半期連結決算概要(決算短信)」「キヤノン株式会社2023年第3四半期決算説明会」より引用しています。

キヤノンは、カメラやコピー機などでよく知られている企業ですね。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。

キヤノンの主要な事業セグメントは以下の4つです。

①プリンティング事業:オフィス向けの複合機やインクジェットプリンタ、カットシートプリンタなど印刷機器関連
②イメージング事業:ミラーレスカメラやネットワークカメラなどカメラ関連
③メディカル事業:CT装置や超音波診断装置などの医療機器
④インダストリアル事業:半導体露光装置など、半導体やディスプレイ向けの製造装置

もともとはカメラを製造する企業として成長してきましたが、そのカメラレンズで培ってきた技術を、プリンティング事業やメディカル事業、インダストリアル事業にも活用することで成長してきた企業です。

2022年12月期のそれぞれの事業セグメント別の売上構成は以下の通りです(2022年12月期決算説明会資料 p3参照)。

①プリンティング事業:56.1%
②イメージング事業:19.9%
③メディカル事業:12.7%
④インダストリアル事業:8.2%
※売上構成は、公開されている数字から妄想する決算氏が構成比率を算出

また、セグメント別の営業利益の額とカッコ内に示した利益率は以下の通りです。

①プリンティング事業:2120億円(9.4%)
②イメージング事業:1266億円(15.8%)
③メディカル事業:310億円(6.0%)
④インダストリアル事業:580億円(17.6%)

売上利益ともに、複合機やプリンタなどを扱うプリンティング事業が主力事業ですが、カメラを扱うイメージング事業や半導体露光装置などを扱う、インダストリアル事業も利益率が高く一定の規模を持っています。複合機やカメラ、半導体市場の影響を受けやすい企業ということですね。

主力のプリンティング事業と、イメージング事業についてもう少し詳しく事業内容を見ていきます。プリンティング事業の対象区分は以下の通りです(2022年12月期説明会資料 p8参照)。

(1)オフィス:法人向けの複合機
(2)プロシューマー:個人向けのインクジェットプリンタなど
(3)プロダクション:法人向けの大型プリンタ

売上の構成比は

(1)オフィス:39.5%
(2)プロシューマー:44.5%
(3)プロダクション:16.0%
※売上構成は、公開されている数字から妄想する決算氏が構成比率を算出

法人、個人向け共に、大きな規模のシェアを持っており、分散した構成となっています。複合機やプリンタのビジネスモデルは、本体ではなく、トナーなど消耗品の販売や保守・メンテナンスで利益を上げるモデルになっていて、継続的な収益が期待できる事業です。一方で、複合機やプリンタの利用頻度が減少すると、消耗品の販売も落ち込むため、デジタル化の悪影響を受けやすいです。

イメージング事業の対象区分は以下の通りです(2022年12月期説明会資料 p10参照)。

(1)カメラ:ミラーレスカメラなど
(2)ネットワークカメラ他:監視カメラなど

売上の構成比率は

(1)カメラ:63.4%
(2)ネットワークカメラ他:36.6%
※売上構成は、公開されている数字から妄想する決算氏が構成比率を算出

カメラの方が比率は高いですが、ネットワークカメラ他の対前年売上伸び率はカメラを上回っていて、ミラーレスカメラだけを主力としている企業ではないことが分かります。

続いて地域別の売上構成は以下の通りです(統合報告書2023 P12参照)。

日本:21.5%
米州:31.1%
欧州:25.6%
アジア・オセアニア:21.8%

各市場にまんべんなく事業を展開していて、海外比率が約8割を占めています。為替の変動が業績に与える影響が大きく、1円の変動が営業利益に与える影響は以下の通りです(2022年12月期説明会資料  p4参照)。

ドル:33億円(2022年営業利益比0.92%)
ユーロ:31億円(2022年営業利益比0.86%)
※()内は、2023年見通しの営業利益3,600億円で除して計算。執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ

ドルもユーロも大体1円、円安に動くと、1%ほど利益が変わります。円安が続く現状を考えると、好影響が期待されます。

事業内容が分かったところで、続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。売上の推移を見ていくとピークは複合機やカメラが好調だった2007年で、それ以降は増減ありつつも減少傾向となっています(統合報告書2023 p13参照)。成長が続いてきた企業ではないということです。

2017年から2022年までの業績の推移を見ても、2020年までは業績の悪化が続いています。2020年はコロナの影響も大きいですが、それ以前から業績は悪化傾向となっていました(2022年12月説明会資料 p17参照)。コロナ以前よりデジタル化の流れの中で、主力事業であるプリンティング事業は成長市場ではなくなっていましたし、スマホが普及する中で一般向けのカメラは売れにくくなっていました。

ですが、2021年以降は回復基調となっており、2022年には売上・利益ともに2018年や2019年のコロナ以前の水準を超えて好調になっていることが分かります。直近では業績が改善しています。その理由はキヤノンの取り組みにあります。キヤノンはグループ再編を掲げ、BtoCからBtoBへの事業ポートフォリオの転換を進めてきました。

例えばイメージング事業では、市場が拡大しているネットワークカメラ他が売上を伸ばしています。個人向けカメラはスマホに代替されていますが、法人向けのネットワークカメラへの開発投資を継続しているためです。また、収益性改善を積極的に進めていて各事業とも生産性の向上や、経費削減、原価低減に取り組んでいます。例えば、プリンティング事業やイメージング事業では生産効率化のために共通の工程で複数の製品を作るプラットフォーム開発という取り組みなどを進めています

その他にも生産体制の再構築を掲げ、高コスト化する海外生産から国内生産への回帰を進めようとしています(2023年経営方針説明会「キヤノン全体戦略」参照)。構造改革の成果により、収益性は改善傾向にありますが、取り組みはまだ十分とは言えないようです。

キヤノン2022年12月期決算説明会資料より

2022年の好業績は、大きく円安が進んだ為替の影響を受けたものでした。2022年の営業利益は為替の影響で、売上が3400億円押し上げられ営業利益は883億円プラスでした。

業績自体は2018年が、売上が3兆9519億円、営業利益が3430億円です。2022年は、売上が4兆314億円、営業利益が3534億円と、2018年を若干上回る水準になっていますが、2018年のドル円の年間平均レートは110.4円、2022年の年間平均レートが131.7円だった事を考えると、その大きな要因もやはり為替です。本業の収益性はまだコロナ前に回復した訳ではないことが分かります。今後も収益性改善の取り組みが進んでいくのか注目したいと思います。

また、主力事業は苦戦しているものの、全体の売上の12.7%ほどを占めていたメディカル事業は成長を続けています。2023年~2025年の見通しでもCAGR(年間平均成長率)は5%を見込んでおり、成長が続く見通しです(2023年経営方針説明会「メディカルグループ」p2参照)。事業規模から考えると、全体の業績に大きな影響を与えるわけではありませんが、メディカル事業の成長にも注目です。

ここまでのまとめ

・主な事業セグメントは、①プリンティング事業、②イメージング事業、③メディカル事業、④インダストリアル事業で、プリンティング事業が主力
・イメージング事業やインダストリアル事業も一定の売上利益規模
・売上利益構成比では海外が大きく為替の影響を受けやすい
・近年はデジタル化によって、主力のプリンティング事業が苦戦しており、収益性改善の取り組みを推進中
・取り組みの成果もあるが、大きくは円安の影響で業績は改善傾向
・成長が続くメディカル事業や、市場の成長が期待されるインダストリアル事業の動向に注目
・toB化の取り組みによる成長に期待

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。今回見るのは2023年12月期の第3四半期までの業績です。

売上高が3兆173億円(5.0%増)、営業利益が2594億円(1.3%増)、純利益が1839億円(15.6%増)となっていて、増収増益で業績は堅調です。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

とはいえ、第3四半期に関しては中国をはじめとする各地域の需要が軟化、競争激化に伴い計画未達だとしています。一方で円安やコストダウンの好影響があり、増益を達成したという状況です。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

第3四半期の営業利益の変動要因を見ると、数量減や経費の増加の悪影響がありつつも、為替が154億円プラスの影響、コスト削減が214億円の好影響があり、結果として12億円増益になりました。コスト削減の取り組みが成果を見せていますが、為替の影響がなければ増益を達成できなかったことが分かります。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

通期の営業利益の計画を見ても、466億円の増益を見込んでいますが、為替の好影響が544億円で、為替次第では減益が見込まれる状況です。収益性の改善の取り組みによる経費削減の影響も大きいですが、為替による好業績という状況は前期から変化ありません。引き続き収益性改善の取り組みを進める必要がありそうです。

続いて各事業についてもう少し詳しく見ていきます。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

第3四半期までの累計でのセグメント別の売上とカッコ内に示した利益の対前年比は、

①プリンティング事業:4.3%増(2.9%減)
②イメージング事業:12.7%増(35.9%増)
③メディカル事業:7.5%増(14.8%減)
④インダストリアル事業:7.7%減(21.0%減)

売上・利益ともに好調なのはイメージング事業で、それにより増収増益となったということですね。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

第3四半期累計では増収だったプリンティング事業ですが、第3四半期単体では現地通貨ベースの売上は1.9%減で、為替の影響に支えられている状況です。また中国経済の低迷で市況が想定より弱いことから、売上高、営業利益ともに下方修正しました。増収増益予想とはいえ好調とは言えない状況です。今後も当然デジタル化は進むため、プリンティング事業の業績を伸ばしていくことは難しい状況でしょう。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

大幅な増収増益で好調だったイメージング事業は、現地通貨ベースでも、2023年最新見通しの対前年比売上伸び率を6.1%増としています。特に伸びているのはネットワークカメラで、通期でも上方修正を行っており、toB化の取り組みが成果を見せています。イメージング事業は事業ポートフォリオの転換が上手くいっていて、比較的堅調な状況ですね。AI化や治安維持を考えても、監視カメラなど、ネットワークカメラの需要は今後も堅調と考えられます。このためイメージング事業は今後も期待できそうです。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

メディカル事業は第3四半期累計では増収ながらも減益でしたが(2023年12月期第3四半期決算短信 p3参照)、四半期ベースでは6四半期連続の増収となっています。年間では3年連続となる最高業績の更新を目指すとしていて、通期での好業績の見通しを立て成長が続いています。とはいえ、メディカル事業も下方修正しています。成長は続いていますが、想定よりは良好とは言えない状況のようです。来期以降の動向がどうなるのか注目ですね。

キヤノン2023年12月期第3四半期決算説明会資料より

第3四半期累計では、減収減益だったインダストリアル事業は、通期では増益の見込みですが、マクロ環境の変化もあり、当初の見通しから下方修正を行いました。減収の要因は主にFPD露光装置の販売の低迷とありますが、半導体露光装置の販売台数は昨年より増えています。2024年あたりからは、回復が見込まれているので来期以降の業績に注目です。

直近の業績は増収増益ではあるものの、toB化の取り組みが成果を見せているイメージング事業以外は苦戦が目立つ状況ですが、円安と構造改革などが功を奏し好業績に繋がっています。また意欲的な目標設定から下方修正したものの、前年との比較では売上は伸びています。今後は収益性の改善の取り組みの進捗、成長事業のメディカル事業や、現在は厳しい状況にありますが半導体は成長事業であるためインダストリアル事業にも注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」をフロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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