音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!
今回取り上げるのは自動車メーカーのマツダ株式会社です。
2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
マツダ統合報告書2023
マツダ株式会社2023年3月期決算説明会
マツダ株式会社2024年3月期第1四半期決算説明会(アナリスト向け)主な質疑応答
マツダ株式会社2024年3月期第1四半期決算説明会
2024年3月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
マツダ株式会社2024年3月期第2四半期決算説明会
マツダ株式会社 ホームページ
事業内容と業績のポイント
それではまずは事業内容から見ていきましょう。
事業セグメントは地域別で、①日本②北米③欧州④その他の4つです。
2023年3月期の売上構成は
②北米:42.8%
③欧州:16.6%
④その他:15.7%
※売上構成比率は執筆者の妄想する決算氏が、それぞれの「外部顧客への売上高」を合計で除して算出したデータ。
と、日本や欧州も一定の規模がありますが、北米を中心とした構成になっています(2023年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結) P15参照)。
続いてマツダの生産面を見ると
北米:19%
その他:14%
となっていて、国内生産が主力です(マツダ統合報告書2023 P14参照)。販売面では日本比率は15%ほどですから、国内で生産した自動車を海外で販売する輸出企業としての側面が強いことが分かります。
為替の変動の影響を大きく受けるため、円安が大きく進んだ2023年3月期では、営業利益面でドルが534億円、ユーロが302億円など、計1192億円の好影響がありました(2023年3月期決算説明会資料 P7参照)。
その他、営業外収益の面でも為替差益が2023年3月期で259.5億円となっています(2023年3月期決算短信 P7参照)。海外売上の規模が大きく、保有している外貨も多額ですから、円安による為替差益が大きいことが分かります。
2024年3月期の第1四半期の為替の影響は、対ドル、対ユーロでは円安効果があったとしていますが、メキシコペソとタイバーツに関しては現地生産をしている関係で減益要因となったとしています(2024年3月期第1四半期説明会アナリスト向け主な質疑応答 P1参照)。
トータルで見ると円安で業績を押し上げていますが、全市場で好影響を受けていたわけではないという事です。
2019年3月期~2023年3月期までの販売台数の推移を見ると、半導体部品供給不足や新型コロナウイルスなどの影響により減少が続きました。
中国市場の悪化が最も大きいですが、2019年度比では2023年度は米国以外の全市場で減少しています(ホームページ「主要業績の推移(5ヵ年)」参照)。具体的には、2019年比の2023年3月期の販売台数は、
①日本:23.3%減
②米国:4.9%増
③北米(米国を除く):20.9%減
④欧州:40.7%減
⑤中国:66.0%減
⑥その他:28.1%減
※増減率は、執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ。
といった状況で大半の市場で基本的に苦戦しています。ちなみに、日本の自動車メーカーは全体的に中国市場で苦戦しています。
2023年8月5日、報道機関は、中国が2023年1〜6月の自動車輸出で初めて日本を抜き世界首位となり、1〜3月に続いて日本を逆転したと報じました。中国では電気自動車メーカーとして大きな成長をしているBYD(※中華人民共和国の企業)の影響もあり、直近では日本を上回り自動車の最大の輸出国となっています。
中国、国内の需要の動向を見ても、NEV(新エネルギー車)の2023年上半期(1~6月)の累計販売台数は374万7000台、前年同期比44.1%増でした。自動車販売台数全体に占めるNEVの割合は28.3%と、大きく成長しています(JOGMEC 2023年9月13日発表「中国新エネルギー車(NEV)市場の現状と展望(2022~2023年)」金属企画部調査課井下浩良氏報告)。
中国は輸入車中心の市場から、自国の電気自動車メーカーを中心とする市場に変化を遂げています。それに加えて経済停滞も始まった状況にあり、総需要自体も減少しています。このため、海外メーカーにとっては苦しい状況になっています。
販売面で苦戦しているマツダですが、売上の推移を見ると2021年を底として、それ以降は増加傾向です(ホームページ「主要業績の推移(5ヵ年)」参照)。2023年の3月期には2019年3月期を上回る水準で、総販売台数は28.9%減でしたが、売上は7.4%増となっています。
②米国:61.4%増 台数4.9%増
③北米(米国を除く):0.9%増 台数20.9%減
④欧州:10.5%減 台数40.7%減
⑤その他:9.0%減 台数28.1%減
※増減率は、執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ。
売上と販売台数の増減率は上記の通りで、成長の要因は北米が大きく伸びたことです。また、その他の市場でも販売台数に対して、売上面は改善を見せています。これは販売単価が上がっていることを意味します。
台当たりの売上高の推移を見ると、右肩上がりで成長していて、2019年3月期の271.9万円から2023年3月期には361.2万円まで増加しています(2023年3月期決算説明会資料 P16参照)
残価率(新車のときの価格に対する残価の割合)も高水準となっていて、付加価値の高い自動車を販売できるようになっています(2023年3月期決算説明会資料 P18参照)。
結果として利益面に関しても2021年3月期を底として、それ以降は増加が続いています(ホームページ「主要業績の推移(5ヵ年)」参照)。2023年3月期の当期純利益に関しては、2019年3月期の倍以上の水準となっています。
この自動車の高付加価値化による収益性の改善は、マツダがこれまで長らく取り組んできた事です。というのも、従来マツダが主力としていた価格帯の商品は、米国市場では比較的安価な部類にありました。このため価格競争の側面が強く、収益性が悪化する状況が続いていました。そこから脱却するために、付加価値を付け正価販売への転換を進めていたという訳です。
一方で、この正価販売への取り組みはなかなか成果が上がらない状況が続きました。それがようやく成果を見せ始めたのが、販売台数が減少しながらも業績が改善し始めた2022年3月期です。
この時期にあったのが、新車における需給のひっ迫です。自動車業界全体として半導体不足やコロナ禍で十分な工場の稼働ができず、生産が減少した一方で、人との接触が少なくて済む自動車の需要は堅調でした。
結果として需給のひっ迫により、リベートを支払って販売する必要がなくなりました。こうした市場環境の変化による好影響、そしてマツダが独自で長らく取り組んできたブランド訴求や商品力強化、単価改善などによる販売の質的改善により、収益の向上に繋がっていきました。
ある程度需給が改善してきた2023年3月期に関しても、販売単価が上昇して、正価販売を行う体制が進んできた事が考えられます。ただし、これは需給がひっ迫した中での一時的な要因という可能性もあります。新車の供給が大きく改善した2024年3月期の販売単価面の改善が進むのか注目です。
収益性の改善が進んだ中で、2019年3月期と2023年3月期の具体的な営業利益の変動要因を見ると、台数減少の影響が1600億円ほどマイナスの影響があります。しかしそれを単価改善と販売費用の抑制効果、2550億円で打ち返している状況です(2023年3月期決算説明会資料 P17参照)。
それ以外にも固定費の削減を進めている事もあり、コスト面の改善によっても1697億円ほど業績を押し上げています(2023年3月期決算説明会資料 P17参照)。高付加価値化、正価販売以外にも、コスト面の改善もあり、収益性の改善の取り組みがうまくいっている事が分かります。
一方で、利益が増加していた2023年3月期に関しては、前期比でも収益性が改善していたのかというと、そうとも言い切れない状況です。
2023年3月期の営業利益の変動要因を見ていくと、単価の改善や販売費用の改善による好影響が1034億円あるものの、原価高や物流費の増加で1735億円のマイナスの影響が出ています。
それでも増益になっていたのは、円安による為替面の好影響が1192億円あったためです(2023年3月期決算説明会資料 P7参照)。原料高、物流コスト高の影響が円安の増益効果を上回っています。このように現状は為替の恩恵を大きく受けていますが、さらなる高付加価値化の取り組みが重要となるでしょう。
台当たりの売上向上のために、高付加価値のラージ商品群(CX-60など大型の4車種SUV車)の販売をさらに強化していくとしていますので、その販売に注目です(2023年3月期決算説明会資料 p23参照)。
ここまでのまとめ
・「国内生産・北米販売」を主力とした企業
・近年は半導体部品供給不足や新型コロナウイルスによる影響などにより販売台数は減少が続いていた
・業績面では2021年3月期を底として、近年の業績は好調
・円安の影響に加えて販売の質的改善や商品の高付加価値化などにより収益性が改善
・近年は新車の需給がひっ迫しており、新車供給が安定してきた2024年3月期の販売単価は注目
・2023年3月期に関しては原料高を、高付加価値化の取り組みだけでは打ち返せておらず、円安の影響によって増益になったため、さらなる高付加価値化の取り組みが重要
直近の業績
それでは続いて直近の業績を見ていきます。今回見るのは2024年3月期の第2四半期の業績です(決算短信を参照)。
売上高:2兆3173億円(41.1%増)、営業利益:1296.1億円(134.6%増)、経常利益:1792.3億円(62.4%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益:1081.3億円(25.9%増)となっていて、大幅な増収で利益面も好調です。ちなみに、営業利益に対して経常利益が大きいですが、その主要因は為替差益の影響420.1億円となっています(決算短信 P6参照)。
営業利益の変動要因を見ていくと、プラスの影響としては台数増加・構成の変化が1062億円、為替の影響が143億円、コスト改善の影響が120億円となっています。
一方でマイナスの影響は原材料や、物流費の増加が100億円、新商品の導入による広告費の増加や、品質費用の増加、賃上げなどの投資による固定費の増加が481億円あったとしています。
今期は、これまでは不振で減少が続いていた販売面が好調だった事で業績が伸びたという事ですね。
販売面を見ると、総販売台数は20%増と大きく伸びています。市場ごとの推移は以下の通りです。
北米:39%増
欧州:34%増
中国:8%減
その他:1%減
地域別の販売台数では、中国は減少していますが、北米や欧州を中心に好調です。具体的な販売単価は不明ですが、グローバルでの販売台数が+20%に対して、業績面での売上高が+41.1%となっており、販売面も高付加価値化の取り組みも堅調だと考えられます。
通期予想を見ると、売上は+25%、営業利益は+76%、経常利益は+37%、純利益は+19%と増収増益を見込んでいます。
営業利益の変動要因の予想は、販売台数の大幅な増加による好調が持続する見通しです。
為替の修正で798億円、出荷台数の上方修正で223億円など、営業利益では700億円ほどの上方修正も行っています。主要因は為替とはいえ、販売台数も上方修正をしており想定以上に好調だった事が分かります。
直近では、増収増益と好調で、その要因はこれまで減少が続いていた販売が増加に転じた事が大きいです。さらに、円安の好影響や成果を見せてきた高付加価値化の取り組みなどから、堅調な状況だと言えそうです。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。