追い風が吹く「低PBR & キャッシュリッチ」の魅力

ここでしか聞けない!ファンドマネージャーの本音/ 春川 直史日興フロッギー編集部

脱デフレが鮮明になり、マーケットのムードが変わってきた日本株市場。「 日興ターゲット・ジャパン・ファンド 」は割安で財務体質が良い中小型株に投資するファンドです。今回は、ファンドマネージャーの春川直史(はるかわ なおふみ)氏にその運用の特徴や想いをお伺いしました。

日本株に対して「強気」と言い切れる2つの理由

ーー日経平均株価は既に上がってきているように思います。このタイミングでの日本株投資に対して、どのようにお考えですか?

私たちは、2つの理由から当面の日本株に対して強気に見ています。

1点目は、現状がデフレから脱却してインフレの良い回転に動きつつあるタイミングと認識しているからです。

2点目は、企業や経営者の株価に対する考え方・意識がドラスティックに変わり始めたからです。2023年3月に、東京証券取引所(以下、東証)が上場している企業に対しPBR1倍割れ株価の改善を要請しました。

こうした要請に対して、アイルランドのダブリンにいる当社の株式運用本部責任者は「資本主義の国でそのようなことがあるのか」と本当に驚いていました。全世界でも稀に見るこの施策は、株式市場にとっては純粋にプラス材料だと考えています。

過去9回の下落局面において、8回は市場を上回るパフォーマンスを達成

ーー本ファンドを一言で表すと、どういったファンドでしょうか?

株式投資でありながら大きな変動を避けて中長期での収益獲得を目指しているファンドです。というのも、我々は「日本の投資家に、日本株投資で長期の資産形成をしてほしい!」と考えているからです。

このご時世にあっても「日本株に投資するのはちょっと怖い」と思っている人は多いのではないでしょうか。私たちは、その時々のブームやテーマではなく、日本株で長期間の資産形成を達成していただきたいと思っているんです。

そのためには、リスクを抑え中長期で収益獲得を目指す運用をすることが大切だと考えています。

ーーファンドにはどういった銘柄を組み入れているのですか?

2つの条件ーー「PBRが割安」「キャッシュリッチ」の両方を満たす企業のみを組み入れています。結果として、トヨタ自動車のような大企業ではなく、時価総額のやや小ぶりな「中小型株」といわれる銘柄に多く投資しています。

当ファンドは20年以上にわたり「PBRが割安」「キャッシュリッチ」の企業のみに投資してきました。「キャッシュリッチ」ということは、株主還元余力も高いということになります。この結果、過去9回の下落局面において、8回は市場を上回るパフォーマンスを達成しています。

ーーなぜ、PBRが低い企業に着目するのでしょうか?

株価が割安だからです。我々が投資している企業は、あまり他の投資家が目を向けていないというか、ちょっと見放されている会社が多いです。だから非常に株価が安い。こうした銘柄はマーケットの下げに強い傾向があります。もともと投資家が保有していない銘柄ばかりなので、相場がクラッシュしたとしても株価が下がりにくいのです。

ーーキャッシュリッチ企業への投資の魅力は何ですか?

キャッシュリッチな企業は、財務が健全です。信用リスクが極度に高まる時……例えばリーマン・ショック当時、借入金が大きい会社は潰れてしまいました。そして、その頃は「お金を持っていること」自体が評価されました。自社株買いや、増配など「株価の下支え」となる施策が打てると投資家が連想したからです。

2008年のリーマン・ショックの時は、TOPIXが35%近く下落したのに対し、私たちのファンドは12%程度の下げにとどまりました。こうしたことからも、当ファンドは市場の下落時に非常に強いということがおわかりいただけると思います。

割安企業はなくならない

ーー東証による改善要請を受け、多くの企業がPBR1倍を回復してしまったら、投資対象企業が減ってしまうように思うのですが、いかがでしょうか?

現状は、そのような心配はしていません。本音をいうと各企業に対してPBR1倍以上は達成してほしいと願っています。でも、経営陣が非常に緊張感を持って経営しない限り、PBR1倍を継続することは難しいんです。他社がいい経営手法や製品を真似するし、継続して利益も上げていかないといけないからです。私の感覚では、PBR1倍を回復した企業が、その後2−3年維持できる確率は1割程度といった印象です。

とはいえ、PBR1倍割れ企業が上場企業の約5割を占めている現状は、やや異常だとも思っています。過去を振り返ると、この比率が一番低かったのは、2006年のサブプライムバブルの時期でした。マーケットが加熱していた当時でもPBR1倍割れの企業は約2割もあったんです。こうした歴史的背景からも、PBR1倍を回復する企業が増加することで、投資対象が減少する事態は想定していません。

ーー参考指数のTOPIXを大きくアウトパフォームしている要因は何でしょうか?

2015年のガバナンスコードの策定と、本年のPBR1倍割れ改善要請が大きなポイントですね。この2つのタイミングでパフォーマンスは大きく飛躍しました。

直近の事例として昨年末時点で組み入れ銘柄トップだった大日本印刷(7912)を紹介します。印刷だけでなくハイテク分野(有機EL、リチウムイオン電池)でも世界ダントツのシェアの会社です。しかし、創業家出身の社長は今までこうしたことをあまりアピールしてきませんでした。

その社長が2023年、決算説明会に初めて登壇し「PBR0.6倍であったが、1倍を目指す」と宣言したのです。その後、株価は大きく花開き、当ファンドのパフォーマンスに貢献しました。

株式市場って「変化」がやっぱり注目されるんです。大企業で良いニュースが発表されても、もともと高く評価されているので、株価は上がりにくいです。でも、全然評価されていなかった企業が劇的に変わったことがわかると、株価は上昇、本当に大きなリターンにつながります。

経営者マインドを持つ中堅社員が活躍している企業に注目

ーー決算や株価などのデータではない点で重視していることを教えてください。

事業に競争力があるか、経営陣が株主の方に向いているかといった点です。それに加え、私自身は「30−40代の社員が経営者マインドを持っているか」という点にも着目しています。私は企業訪問の際に、オフィスや工場見学をお願いしています。そうした際に、中堅社員が「自分達が会社の代表なんだ」という意識を持って説明する企業や、中堅社員がリーダーシップを持って働いている会社は強いですし、業績にも直結しているように感じます。

衣類につけるホックなどを製造するモリト(9837)は、担当の社員さんが何でも回答してくれて、30−40代の社員がイキイキと業務に取り組んでいたのが印象的な企業の一つです。

ーー企業のリサーチはどのようになさっているのでしょうか?

ファンドマネージャー4名で、年間約900社に取材しています。このうち3名は、18年ぐらいずっと一緒にやっています。長くやっていると企業への見方が硬直化するリスクがあります。だから常にお互い異なる意見をぶつけ合いながら深く判断しています。私は、ファンドマネージャーとして一番大事なことは、自分の考えが常に正しいかどうかを常に検証していくことだと思っています。

日常を見る目が変わる 日本株での資産形成

ーーどういった方に、本ファンドをおすすめしたいですか?

5年以上の中長期で資産形成を考えている方におすすめしたいです。

我々はなるべくリスクを抑えながら長期的に資産を増やしていく方針ですので、皆さんも少し勇気を持って臨んでほしいですね。

今はその企業の良さが皆さんに伝わっていない会社でも、今後注目されるようになれば、非常に大きな投資リターンが期待できると考えます。

また、中小型企業を応援するような気持ちで投資していただけるとありがたいなと。ファンドを通じた投資で株価が上がれば、時価総額が上がります。そうしたことで資金調達が有利になり、積極的に投資を行ったり、買収を仕掛けたり、優秀な人材が採用しやすくなったりと好循環が生まれると考えているからです。

ーーインデックスファンドが人気ですが、アクティブファンドの魅力はどこにあるとお考えですか?

大型株でしたら、市場に連動するインデックスファンドで十分かもしれません。かと言って、個人の方が中小型の企業を調べるのは大変だと思います。だからアクティブファンドを通じての投資を考えていただきたいです。

ーー米国株市場に連動するインデックスファンドが人気です。当ファンドを合わせ持つ意味はありますか?

例えばS&P500に連動するインデックスファンドと我々のファンドは相関が低く、ポートフォリオの分散の観点では非常に相性が良いと思います。米国のIT企業の株価が大きく調整する時は我々のファンドが非常に好調だったりするからです。

ーーこれから投資を始める方へのメッセージをお願いします。

今までの話と重複しますが、ぜひ日本株で中長期な資産形成をしていただきたいと思います。日本株投資は、身近な企業に対して「応援」できる点が魅力です。また、投資をすることで世の中の仕組みへの理解が深まり、毎日の生活が違って見えるようになると思います。