富士フイルムHD【4901】実は過去最高の業績が続いている理由

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カエル先生の一言

音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!

今回取り上げるのは富士フイルムホールディングス株式会社です。

統合報告書2023(和文)
2023年3月期決算説明会資料
富士フイルムグループ事業概要
中期経営計画VISION2023
富士フイルムホールディングス株式会社 ホームページ
2024年3月期 第2四半期決算説明会資料
2024年3月期 第2四半期決算短信〔米国基準〕(連結)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、富士フイルムホールディングス株式会社の「統合報告書2023(和文)」「2023年3月期決算説明会資料」「富士フイルムグループ事業概要」「中期経営計画VISION2023」「2024年3月期 第2四半期決算説明会資料」「2024年3月期 第2四半期決算短信〔米国基準〕(連結)」、ホームページより引用しています。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。

富士フイルムの事業セグメントは4つあります。

①ヘルスケア:医療関連
(1)メディカルシステム:CT(Computed Tomography の略。コンピュータ断層撮影)・MRI(Magnetic Resonance Imagingの略。磁気共鳴画像)、内視鏡、超音波診断装置など医療機器・医療IT
(2)バイオCDMO(Contract Development & Manufacturing Organizationの略):バイオ医薬品のプロセス開発・製造受託
(3)LSソリューション(ライフサイエンス。創薬支援分野での問題解決):培地・細胞・試薬や化粧品、サプリメントなど
②マテリアルズ:素材・材料関連
(1)電子材料:半導体用の各種材料
(2)ディスプレイ材料:ディスプレイ向けの各種材料
(3)他高機能材料:タッチパネル用のセンサーフィルムなど様々な材料
(4)グラフィックコミュニケーション:オフセット印刷用機材やデジタル印刷システム、インクジェット事業など
③ビジネスイノベーション:
(1)オフィスソリューション:複合機・プリンタ、その消耗品など
(2)ビジネスソリューション:DX関連などソリューションサービス
④イメージング:
(1)コンシューマーイメージング:インスタントカメラのINSTAX”チェキ”、プリント関連など
(2)プロフェッショナルイメージング:デジタルカメラやレンズなど

複合機やカメラだけではなく、医療系の事業や素材関連など、多様な事業を展開しています(統合報告書2023 P23参照)。

それぞれの事業ごとの2023年3月期の売上高構成は以下の通りです。

①ヘルスケア:32.5%
(1)メディカルシステム:21.8%
(2)バイオCDMO:6.8%
(3)LSソリューション:3.9%
②マテリアルズ:23.9%
(1)電子材料:6.3%
(2)ディスプレイ材料:2.5%
(3) 他高機能材料:3.1%
(4)グラフィックコミュニケーション:12.0%
③ビジネスイノベーション:29.3%
(1)オフィスソリューション:19.4%
(2)ビジネスソリューション:9.9%
④イメージング:14.3%
(1)コンシューマーイメージング:9.3%
(2)プロフェッショナルイメージング:5.0%

セグメント別営業利益の額は以下の通りです(2023年3月期決算説明会資料 P13参照)。

①ヘルスケア:1005億円
②マテリアルズ:677億円
③ビジネスイノベーション:695億円
④イメージング:729億円

売上高、営業利益ともに最も規模が大きいのはヘルスケア事業ですが、多角化された経営を行っている事が分かります。

元々は写真フィルム事業が本業の中心でしたが、デジタル化の進展により、2000年以降その市場が急速に縮小します。そのため、2000年代からは、ヘルスケアや高機能材料などの成長市場に、それまで培ってきた技術力等の経営資源を投じて、大きく事業ポートフォリオの転換を進めてきました(富士フイルムグループ事業概要資料 P6、7参照)。

2021年度~2023年度の3年間での投資計画を見ると、1.2兆円の投資を計画の内、1兆円を「新規/将来性」「重点」事業へ集中投資するとしていて、成長分野への積極的な投資を続けています(中期経営計画VISION2023 P9参照)。その投資は、M&Aにも向かっており、近年も国内外で多くのM&Aを行っています(ホームページ(M&A/設備投資)参照)。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

直近では、2023年10月に電子材料事業において、米国のEntegris社の半導体用プロセスケミカル事業を買収しています。買収なども積極的で、変化が大きい企業です。

続いて、国内・海外別の売上高構成(2022年度)を見ていきましょう(統合報告書2023 P24参照)。

日本:35.9%
アジア他:26.0%
欧州:15.1%
米州:23.0%

日本の規模が最も大きいですが、それでも国内は1/3ほどで、主力市場は海外であり、地域も分散した構成になっています。

海外事業が主力のため、為替の影響も大きく、1円変動した際の影響としては、ドル円で売上が50億円、営業利益が6億円、ユーロ円で売上が15億円、営業利益が8億円となっています。利益面ではユーロの影響の方が大きくなります(2023年3月期決算説明会資料 P42参照)。2024年3月期も第2四半期までは円安が継続しており、ドル円も円安ですが、ユーロ円はさらに大きく円安に振れていますので、利益面では好影響が続いていると考えられます。

業績の推移については、売上と営業利益の推移を見ていくと、コロナ禍では2021年3月期に、一度は悪化したものの、それ以降は大きく伸び、2022、2023年3月期にはコロナ前を上回る水準となっています(ホームページ(決算業績概要)参照)。

そして2023年3月期は、売上、営業利益、純利益全ての段階で過去最高を更新しています。特に売上に関しては2008年3月期以来の過去最高を更新と、久々の更新をしています(2023年3月期決算説明会資料 P4参照)。

好調の要因は、大きく円安が進んだ為替の影響です。2023年3月期は、前期比で売上が3332億円、営業利益で434億円、純利益では82億円増加しています。その内、為替の影響は売上が2273億円、営業利益で406億円、純利益では226億円で、純利益に関しては為替の好影響がなければ減益という状況です。一方で、為替の影響を除いても売上と営業利益では増収増益であることから、事業自体が好調だった事が分かります。成長事業への継続した積極投資で、事業自体成長しているようです(2023年3月期決算説明会資料 P12参照)。

営業利益の変動要因については、マテリアルズ事業を中心に原材料費高騰の影響を受けていて、170億円ほど利益にマイナスの影響を与えています。特にアルミの高騰が51億円、燃料等の高騰も111億円と大きなマイナスの影響があり、原材料相場の影響も受けました。アルミや原油などは高値圏で推移していますので、この悪影響は継続する可能性がありそうです(2023年3月期決算説明会資料 P35参照)。

また、為替の影響を除いたセグメント別の営業利益の推移は以下の通りです(2023年3月期決算説明会資料 P13参照)。

①ヘルスケア:19.3%減
②マテリアルズ:26.6%減
③ビジネスイノベーション:36.5%増
④イメージング:59.5%増

好不調がはっきりと分かれた状況です。

まず、ヘルスケア事業では、内視鏡や医療IT、超音波診断の販売の好調や、バイオ医薬品の開発受託も堅調だった一方で、バイオ医薬品製造用培地ではコロナ関連需要が一巡した影響があったとしています。近年はコロナによる特需が業績を後押ししていた状況でしたから、その反動による業績悪化は今後も続きそうです。コロナの反動を他の事業でどうカバーできるかが重要になっていると考えられます(2023年3月期決算説明会資料 P14参照)。

マテリアルズ事業は、原材料費の高騰の影響を大きく受けています。それに加えディスプレイ材料は、コロナ禍で好調だったモニター・タブレットの反動で、大きく売上を落としています。さらに、電子材料では2023年は半導体市場が不調ですから、その悪影響も受けているでしょう。原材料高も続いていますし、ディスプレイ材料の苦戦はこの後も予想され、マテリアルズ事業は厳しい状況が続きそうです(2023年3月期決算説明会資料 P15参照)。

ビジネスイノベーションは、複合機やBPO事業などが伸びて好調です。オフィス出社回帰の中で複合機も好調ですが、複合機関連は本体ではなく、紙やトナー等の消耗品を売るのが重要なビジネスです。デジタル化が進む中では消耗品の販売は伸び悩むことが考えられますから、コロナ禍からの回復が一定程度あったとしても成長は難しいでしょう。一方で、日本国内ではデジタル化の取り組みは十分ではないため、ビジネスソリューション事業でその需要をとらえて成長していけるかどうかが重要と見られます(2023年3月期決算説明会資料 P16参照)。

最後に好調なイメージングでは、インスタントカメラやデジタルカメラの売れ行きが好調で、大きく成長しています(2023年3月期決算説明会資料 P17参照)。インスタントカメラも近年は改めてブームが来ましたし、カメラ市場も実は好調です。カメラ映像機器工業会(CIPA)によると、2022年のデジタルカメラの世界出荷額が前年比39%増の6812億円だったとしています。趣味層を中心に特に高級ミラーレスカメラが売れているようです。写真を撮るという機能自体はスマートフォンに代替されましたが、嗜好品として成長を遂げているという事ですね。市場が好調ですから、イメージング事業も期待できそうです。

ここまでのまとめ

・分散した市場で多様な事業を展開
・①ヘルスケア事業②マテリアルズ事業は、為替の影響を除くと不調。コロナの反動や原燃料市況の悪化という要因もあり、その悪影響はしばらく継続すると見られる
・好調な③ビジネスイノベーション事業と④イメージング事業の成長と、円安の影響で不調な事業を補って成長できるかどうか注目
・成長事業への大きな投資を続け、事業ポートフォリオも変化
・近年は円安の後押しもあり過去最高の業績
・事業自体は好不調がはっきりと分かれ始めており、好調が見込まれる事業で不調な事業の業績を補えるかが重要

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきます。今回見ていくのは2024年3月期の第2四半期までの業績です(決算短信を参照)。

売上高:1兆3885億円(2.9%増)、営業利益:1255.5億円(3.9%増)、純利益:1135.6億円(19.3%増)と増収増益と好調が続きます。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

そしてこの業績は、営業利益、純利益共に第2四半期時点での過去最高を更新と、好調だった事が分かります。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

これはドル円が7円安、ユーロ円では14円安と大きく円安の進んだ為替の影響が大きいです。営業利益47億円の増益、純利益184億円の増益のうち、為替の影響は営業利益で87億円、純利益では62億円となっています。営業利益では為替の影響がなければ減益だったという事ですね。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

続いてセグメント別の利益の額と、為替の影響を除いた前期比の増減は以下の通りです。

①ヘルスケア:418億円(9.0%減)
②マテリアルズ:186億円(58.5%減)
③ビジネスイノベーション:330億円(8.6%増)
④イメージング:494億円(69.1%増)

特に苦戦しているのが②マテリアルズで、④イメージングは絶好調です。そして、絶好調の④イメージング事業は最も大きな利益を稼ぐ事業となっており、富士フイルムの事業は改めてカメラ関連が中心になってきている事が分かります。

それぞれの事業についてもう少し詳しく見ていきましょう。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

ヘルスケアに関しては、前期にあったコロナワクチンのキャンセルフィーの反動と、コロナワクチン用培地に使用する原材料の一部評価減を行った影響があるようで、コロナ関連の反動が出ています。さらに、バイオベンチャーの資金調達難を背景に遺伝子治療薬等も受託が軟調となった影響も出ているとしています。このため大きな業績改善は見込み難い状況だと考えられます。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

最も大幅な減益となったマテリアルズ事業では、半導体市況の軟化の影響や、業務用PC需要の低迷、欧米を中心とした印刷物需要の減少の影響を受けています。半導体市場も2023年度は軟調が続く事が見込まれていますし、原燃料高も続いていますので、業績の改善は難しそうです。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

好調だったビジネスイノベーション事業は、オフィスソリューションは減収になったものの、国内自治体向けの売り上げ増加や、DX関連ソリューションの販売が増加した事で好調だったとしています。国内ではDXが十分ではないところが多いですし、今後もDX投資が続くと考えられる自治体の売上も伸びています、成長が続く事が期待されます。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

そして、最も好調なイメージングはカメラの販売が好調なようです。カメラ映像機器工業会(CIPA)によると、デジタルカメラの2023年上期の出荷額が前期比12.6%増の3137億円になったとしていて、良好な市場環境が継続しています。直近の成長要因としては中国で行動制限の解除以降の外出需要の回復による影響も大きいようです。経済に不透明感が見え始めた中国市場の動向は今後の業績に影響があると思われますので、注目です。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

こうした状況のもと、同社は通期の見通しを修正しています。為替の影響を除いたセグメント別利益では、①ヘルスケアが20億円、②マテリアルズが95億円、③ビジネスイノベーションが5億円の下方修正を行っています。一方で④イメージングだけは50億円の上方修正を行っています。

絶好調のイメージング以外は想定以上の業績悪化となっているという事ですね。イメージングの好調がしっかり続くかどうかが重要になっていますので、注目です。

富士フイルムホールディングスの2024年2Q決算説明会資料より

とはいえ、円安の後押しもあり通期の見通しでは増収増益で、全ての段階で過去最高を見込んでいます。為替の見通しもドル円が138円で、ユーロ円が149円と保守的な見通しです。事業自体は想定より苦戦しているものもあり、特にマテリアルズは苦しい状況ですが、為替面からの上方修正の可能性は十分にありそうです。

全般をまとめますと、円安の影響で通期の業績も過去最高の見込み、為替の見通しも保守的ですので、為替面からの上方修正の可能性は十分ありそうです。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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