日経平均株価の採用銘柄、どこまで知ってる?

あなたの知らない「インデックスの世界」/ おせちーず須山 奈津希

「『単純平均』と『加重平均』って何が違うの?」を読む

日経平均株価が225銘柄で構成されていることを前回までに書きました。では、その225社の顔触れをご存知でしょうか?

実は225社の多くはBtoB企業です。BtoBはBusiness to Businessの略で「企業間取引」を意味します。対個人取引を意味するBusiness to Consumer(BtoC)よりなじみが薄い企業が多く採用されています。普段の生活の中ではあまり知ることのない企業が日経平均株価においてどのような存在感を持っているのか見ていきましょう。

この記事では、日経平均株価採用企業をいくつかの切り口からクイズ形式で考察してみます。ちょっぴり日経平均株価に詳しくなれると思います。

問1 日経平均株価採用企業で時価総額が一番大きな企業は?

答え: トヨタ自動車

時価総額は株価×発行済株式数で算出する値です。株式市場における当該銘柄の規模を表す数字です。そしてこちらが日経平均株価採用企業時価総額ランキングトップ10です。トヨタ自動車はとびぬけて時価総額が大きいことがわかります。

問2 日経平均株価採用企業で時価総額が一番小さな企業は?

答え: 大平洋金属

こちらは時価総額ランキング下位です。トヨタ自動車の時価総額は40兆円以上ですが、大平洋金属は約228億円です。トヨタ自動車は大平洋金属の約1840倍の時価総額にあたることがわかります。

同じ株価指数でも、時価総額が大きく異なる銘柄が採用されているのが、業種間のバランスを図り、単純平均で指数を算出する日経平均株価の特徴です。
さて、こちらの10社でなじみがある企業はどれぐらいありますか? 造船やセメント、金属などはなかなか一般消費者が普段の生活で購入することが少ないと思います。

問3 日経平均株価採用企業のウエイト上位10銘柄で日経平均株価全体のどれぐらいを占める?

答え:約40%

日経平均株価は225銘柄で構成されています。しかし225銘柄が日経平均株価に占める割合は均等ではありません。日経平均株価は株価の「単純平均」で算出する指数ですから、株価が高い銘柄が指数に占める割合が高くなります

なお、指数に占める割合のことを「ウエイト」と言います。よく使われる言葉ですので知っておくといいでしょう。

こちらが、日経平均株価のウエイト上位10銘柄です。「構成比」を合計すると約40%です。たった10銘柄で日経平均株価の40%を占めているということです。日経平均株価が33,000円なら、13,200円ぐらいをこちらの10銘柄で占めていることになります。
特に「 ファーストリテイリング 」と「 東京エレクトロン 」はウエイトが大きいです。日経平均株価が33,000円程度だとすれば、この2銘柄だけで約6,000円を占めています。

裏を返すと、日経平均株価は一部のウエイトが大きい銘柄に値を左右されやすい株価指数だということです。

こちらは、2023年年初来からのファーストリテイリングと日経平均株価の推移です。よく似た動きになっていますね。やや大げさに言えば、「ファーストリテイリング」が日経平均株価を大きく左右していることを裏付ける結果です。
一方、一番ウエイトが小さい銘柄は「 三菱自動車工業 」で、そのウエイトは0.01%以下です。

問4 一番最近に日経平均株価の仲間入りをしたものは?(※執筆時点)

答え: メルカリレーザーテックニトリHD

日経平均株価採用銘柄は年に2回定期見直しされます。毎年4月の第1営業日と10月の第1営業日です。見直しに先立って一定の事前告知期間をもって公表されます。定期見直しによる入れ替え銘柄数は上限が3銘柄です。定期見直しでは除外銘柄のセクターと採用銘柄のセクターが異なる場合があります。

定期見直しとは別に「臨時見直し」が実施されることがあります。例えば日経平均採用企業同士が合併するとか、プライム市場以外の市場に属することが決まった場合です。このような場合は、同一セクターから新たな銘柄が採用されます。

日経平均株価の算出ルールは実は頻繁に変更されており、銘柄入れ替えの上限が3銘柄になったのは2021年10月1日からです。以降の銘柄入れ替えの履歴をご覧ください。実は3銘柄が入れ替えられた例はそう多くありません。
直近に銘柄が変わったのは2023年10月2日です。上限である3銘柄が入れ替えられ、メルカリ、レーザーテック、ニトリHDが新たに採用されました。採用、除外銘柄のセクターは以下の通りです。

<採用>
メルカリ(消費)とレーザーテック(技術)、ニトリHD(消費)
<除外>
日本板硝子 」(素材)、「 三井E&S 」(資本財その他)、「 松井証券 」(金融)

なお、銘柄入れ替えに伴い、日経平均株価に連動する投資信託やETFなどの資金も銘柄入れ替えを行います。ですから、除外銘柄は売られますし、採用銘柄は買われます
よって、特に機関投資家は日経平均株価採用銘柄の見直しに非常に注目しています。

採用銘柄の中身まで知っておく「3つのメリット」

日経平均株価を構成する銘柄の顔触れを知っておくことのアドバンテージがいくつかあります。

一つは、日経平均株価を「動かす」ことに大きく寄与する銘柄、寄与しない銘柄を把握できることです。「今日は日経平均株価が大きく下げているなぁ」と感じた時の多くの場合は、ファーストリテイリングや東京エレクトロンの株価が下がっていることが多いということを容易に想像できるようになります。

二つ目は、銘柄見直しが確実な「需給」を産むことです。銘柄見直しの結果に基づき、日経平均株価に連動する投資信託やETFなどの資金も銘柄入れ替えを行います。つまり除外銘柄が売られ、採用銘柄が買われます。日経平均株価に連動する資金は巨大ですから、銘柄見直しが対象銘柄の株価に与える影響が小さくありません。

定期見直しの入れ替えは、見直し日の4週間前ぐらいに発表されることが多いです。アナリストはその発表以前から見直し対象になる銘柄を予想し、機関投資家はその予想に基づいてそれらの銘柄を事前に売買することがままあります。これは、実際に見直しの対象になれば確実な需給に伴い売買が発生します。その結果として現れると想定される株価上昇や株価下落を先取りしておこう、という意図によるものです。

三つ目は、「日経平均株価は大きく上昇しているのに、自分が持っている銘柄は大して上がっていない」といった場合、その理由を追求することに役立ちます。日経平均株価は225銘柄で構成されますから、採用されていない銘柄の株価は一切反映されません。もし、自分が持っている銘柄が日経平均株価の変化と異なるなら、自分が持っている銘柄が日経平均株価に採用されているかどうかを確認したほうがいいでしょう。

ところで筆者は、某大学で非常勤講師をしており、その授業の中で学生に日経平均株価採用企業に馴染みを持ってもらう試みを行っています。次回の記事ではその試みについてご紹介しようと思います。