メルカリ【4385】利益面が好調な理由と領域拡大が進む話

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カエル先生の一言

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今回取り上げるのは株式会社メルカリです。

FY2023.6 4Q Presentation Material(2023年6月期決算説明資料)
FY2024.6 1Q Presentation Material(2024年6月期第1四半期決算説明資料)
2024年6月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、株式会社メルカリの「FY2023.6 4Q Presentation Material(2023年6月期決算説明資料)」「FY2024.6 1Q Presentation Material(2024年6月期第1四半期決算説明資料)」「2024年6月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」より引用しています。

今回取り上げるのは、フリマアプリを運営していることでおなじみの株式会社メルカリです。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。

メルカリの事業セグメントは以下の3つです。

①Japan Region:国内事業
(1)Marketplace:国内のメルカリなど
(2)Fintech:メルペイ、クレカなど、金融事業
②US:メルカリのアメリカ事業
③その他:鹿島アントラーズ、インド開発拠点など

フリマアプリのメルカリを日本とアメリカで運営し、さらにメルペイやクレカ、仮想通貨関連の事業など金融事業も展開しており、サッカーチームの経営も行なっています。

2023年6月期での内部取引を除いたそれぞれの事業ごとの売上構成は以下の通りです(決済サービスはメルカリでの決済に利用される事が多いので、内部取引が大きいです)(2023年6月期決算説明資料p15参照)。

①Japan Region:70.6%
(1)Marketplace:58.8%
(2)Fintech:11.8%
②US:25.7%
③その他: 3.8%

国内事業が主力で、その中でも特にフリマアプリが大きな規模を持っている事が分かります。

内部取引を除いたセグメント利益の額は以下の通りです。

①Japan Region:344億円
(1)Marketplace:447億円
(2)Fintech:▲102億円
②US:▲88億円
③その他:▲5億円

利益面は国内メルカリが大きな利益を出していて、金融事業やUSは投資段階で大きな赤字となっています。国内のメルカリの動向と、金融やアメリカ事業へどれだけ赤字を許容した投資をするかに業績が左右される企業という事です。

近年の業績の推移を見ていくと、売上は右肩上がりで大きな成長を続けています。営業利益面もコロナ以前は赤字が継続していたものの、コロナ以後は改善を見せ、2021年6月期には一度黒字化し、2022年6月期は再び赤字となったものの、2023年6月期には170億円の黒字と大きな利益を出しています。

直近では利益面が好調です(2023年6月期決算説明資料 P17参照)。その最大の要因は、大きな利益を出していた国内のメルカリ事業の成長です。流通総額、売上・利益ともに大きな成長を続けていて、特に直近では利益面が大きく伸びています。

売上は19%増ですが、内部取引を除いた調整後営業利益は、前期比69%増の447億円となり、売上の伸び以上に利益の伸びが大きいです。利益率も31%→44%と非常に高収益化しています(2023年6月期決算説明資料 P20参照)。

ではどうしてこれだけ利益面が伸びたのかというと、事業の特性が影響しています。そもそもデジタル上のサービスなので、限界費用(編集部註:生産量を増加させたときに追加でかかる費用のこと)が非常に低く、売上の増加と共に利益率が伸びていきやすいサービスである点があげられます。「メルカリ」で取引している利用者が100人でも200人でもコストが大きく変わるわけではないので、売上が伸びれば利益率が高まっていきます。サービスが拡大する中で利益率を高めながら、利益が拡大していたという事です。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

そして、もう1つはネットワーク効果(編集部註:ある人がネットワークに加入することによって、その人の効用を増加させるだけでなく他の加入者の効用も増加させる効果)が働きやすいサービスだという事があります。

2022年のオンラインCtoCの市場は2.3兆円でしたが、これに対してメルカリの流通総額は9327億円と大きな規模を持っています。ちなみに、フリマアプリ市場に関しては、2021年の市場規模は1.2兆円でした。1年でここまで大きく市場が拡大、またメルカリがフリマアプリ市場では完全に一強状態であることが分かります。

フリマアプリでは、ユーザーは商品が多いサービスを選びますし、また出品者もユーザーが多いサービスを選ぶ傾向にあります。ユーザーが増加していくと、それがまたユーザーの増加要因になり、さらなる増加に繋がります。

つまり、突き抜けたサービスを持つ事業者がより強くなり、市場を独占していく事が可能となっていきます。以前はフリマアプリも乱立していましたが、メルカリが10周年と、サービスが始まってから大分時間が経ちました。競争が決着し、国内はメルカリの一強状態になっています。

その結果何が起きたかと言うと、広告費の減少です。前期は計216億円使っていた広告宣伝費が、175億円まで減少しています(2023年6月期決算説明資料 P62参照)。広告費を減らしても、ネットワーク効果が働きユーザーを獲得できますので、利益率が増加していきやすい段階に入ったという事です。

2023年6月期の第4四半期時点では、Fintechとの共同キャンペーンで投資が増加し、広告費率が増加したとしていますので、投資段階の金融事業を絡めた広告が増加する可能性はあります。しかしそれでも高利益率を維持していますし、基本的には今後も利益面の好調が期待できると考えられます(2023年6月期決算説明資料 P23参照)。

最近ではインフレによって消費への悪影響がありますが、その反面リユース市場の盛り上がりに繋がっていますので、悪影響は小さいでしょう(2023年6月期決算説明資料 P21参照)。また、消費の落ち込みが流通総額の減少につながったとしても、インフレでリユース商品に興味を持った新規ユーザーを確保しやすい時期ではあることが考えられ、将来的にはマイナスの影響はないのではないかと思われます。

さて、国内メルカリが一強状態となり、高収益化が進み投資余力も高まる中で、今後さらなる大きな成長の原動力としようとしているのが、投資段階で赤字が続くUS事業とFintechです(2023年6月期決算説明資料 P10参照)。この2つの事業の状況についても見ていきましょう。まずはUS事業についてです。

US事業はコロナ禍で2021年6月期には大きな成長を見せたものの、それ以降のユーザー数は横ばい傾向で、流通総額や売上は減少しています(2023年6月期決算説明資料 P30参照)。ユーザー数は横ばい傾向が続くものの、インフレの影響もあり購入の鈍化傾向が継続しています。

一方で利益面は赤字が継続しているものの、売上が減少した2023年6月期の赤字幅は縮小しています。伸び悩みが続く中で、USは投資の抑制を行っている事が考えられます。サービス自体は伸び悩んでいるため、投資の抑制により利益面での改善が進む可能性があります(2023年6月期決算説明資料 P31参照)。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

ちなみに、米国のリユース市場は大きな成長が見込まれています。2022年は740億円ドルの市場だったのが、2030年には1800億ドルまでの成長が見込まれているとしています。成長は停滞していますが、市場成長の中でサービスを拡大していけるかに注目ですね。また今後の取り組みとしては、リユースの利用が多いZ世代の取り込みを進めていくとしていますので、この取り組みが進捗するかにも注目です(2023年6月期決算説明資料 P42参照)。

続いてFintech事業ですが、内部取引を除くと大きな赤字が継続しているものの、売上はメルカリの内部取引分を除いても拡大が続いています(2023年6月期決算説明資料 P25参照)。投資段階のサービスの中でも金融事業の方は成長が続いています。

決済サービスも数年前は事業者が乱立し、競争が激化する中で淘汰が進みました。そんな中でメルペイはそこまで大きなシェアを取れているわけではありませんが、フリマアプリの「メルカリ」で商品を売った際の売上金の利用をしてもらえるという強みがあった事。また、そもそも「メルカリ」利用時の決済に利用してもらえれば、外部に支払う決済手数料を大きく削減できるというメリットがありました。

さらに「メルカリ」のサービス内に売上金をとどめておければ、次の「メルカリ」内での消費に繋がりやすいという事もあり、赤字でもサービスを維持する価値がありました(2023年6月期決算説明資料 P35参照)。メルカリの流通総額が成長する中で、金融事業も成長を続けています。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

そして、近年はクレカや仮想通貨系の資産運用サービス、定額払い、後払いなどサービスの領域を積極的に拡大しています。この領域拡大のしやすさというのも、メルカリの1つの強みだと考えられます。

流通総額が9000億円を超えるサービスに育ったことで、扱う資金の規模も大きくできるようになりました。またメルカリの取引によっても与信情報が得られますので、メルカリとの連携によって金融関連のサービスが拡大していく土壌ができています。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

さらに、金融事業が拡大する中で本人確認済みのユーザーも大きく伸び、1458万人となっています。これも事業領域の拡大に大きな強みとなります。金融系のサービスでユーザーを獲得する際の最大のネックは登録の手間です。「興味を持ったけれど、登録が手間だからやらない」というユーザーは少なくありません。他のサービスですでに本人確認が済んでいれば、その後のサービス利用時には手間を省くことができるので、事業領域拡大にも非常に有用です。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

直近では、スポットワーク事業への参入も発表しました。こういった労働系のサービスも本人確認が重要ですが、ユーザーからすると登録することが手間です。登録が必要な他社サービスと、登録の手間が不要なメルカリであれば、メルカリが選ばれるケースも多いでしょう。

スポットワークのサービスの利用者である、若い世代のユーザーをメルカリは多く確保しているので、後発組の参入でも期待できると、個人的には考えています。スポットワーク事業への参入で、メルカリの外部で稼いだキャッシュがメルカリ内にとどまるという、新しいキャッシュの流れが生まれるのも面白そうです。

また、現在最も力を入れているのはクレカの「メルカード」です。発行後3ヵ月目の客単価が10~60%上昇していて、シナジー効果も見え始めています。

メルペイは決済サービスとしては大きなシェアを取れず、メルカリ外部での顧客データを十分に取れなかったと考えられます。クレカの拡大は、業績への好影響だけでなく、メルカリ外部での消費データの獲得にも大きく貢献することが考えられます。与信管理などその活用にも効果が期待されますので、どこまでクレカが拡大するか注目です(2023年6月期決算説明資料 P24参照)。

金融事業は売上も増加が続いています。またUS事業は伸び悩んでいるものの、投資余力が増える中でさらなる領域拡大の可能性があり、これからしばらくは金融事業の成長に注目ですね。

ここまでのまとめ
・メルカリは、日本とアメリカでフリマアプリを展開しており、さらに金融事業なども展開している企業
・現状はアメリカ事業と金融事業は投資段階で、国内メルカリだけが利益を出している状況
・国内のメルカリは、フリマアプリ市場で完全に1強状態となり、利益が増加しやすい時期に入っている
・国内フリマアプリの利益を金融事業やアメリカ事業に投資することが可能なため、投資は拡大しやすい時期
・アメリカは伸び悩む中で、投資は抑制傾向で、金融事業の成長が続くのかに注目

直近の業績

それでは続いて業績の推移を見ていきましょう。今回見ていくのは2024年6月期の第1四半期の業績です(決算短信を参照)。

売上高:442.7億円(11.2%増)、営業利益:47.2億円(81.5%増)、親会社の所有者に帰属する四半期利益:28.1億円(346.4%増)と、増収増益で、特に利益面の好調が続いています。

ではどうして好調だったのかもう少しく見ていきましょう。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

主力事業のセグメント別の売上高は、以下の通りです。

①Japan Region:318億円(16%増)
(1)Marketplace:252億円(10%増)
(2)Fintech:65億円(43%増)
②US:110億円(0.1%減)

売上の成長を支えていたのは国内事業で、特に金融事業が大きな成長を見せています。一方でUS事業は若干ですが売上は減少し、苦戦が続いています。

続いて営業利益面の推移は、以下の通りです。

①Japan Region:79億円→74億円
(1)Marketplace:90億円→101億円
(2)Fintech:▲11億円→▲27億円
②US:▲30億円→▲7億円

実は営業利益面は、Fintechの大幅な赤字拡大によって、国内事業全体では減益になっています。一方でUS事業の大幅な赤字縮小によって、全体としては大きな増益を達成していた事が分かります。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

US事業では、ユーザー数は横ばいも、インフレが長引く中で購入鈍化の状況が継続しています。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

結果として売上は減少傾向が続きますが、費用の見直しや投資の抑制を行い筋肉質の経営を行った事で利益面が改善したとしています。伸び悩みが続くものの、投資の抑制によって利益面は改善していたという事ですね。当然積極的な投資を再開すれば利益面が悪化すると考えられます。グループ全体の利益も、US事業の投資に左右されると考えられますので、どのような投資判断をするのかに注目です。

その他の2事業についても少し見ていきましょう。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

国内のメリカリは、アパレルの規模も大きいので、夏服の時期の第1四半期(7~9月)は季節性要因で伸びにくく、前四半期比では売上が減少していますが、前期比では成長が続いています。国内メルカリは堅調で、大きな利益を出していて、第2四半期】でも成長が継続するのか注目です。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

そして積極投資を行っているのはFintechになります。力を入れているのは、クレカの「メルカード」です。前四半期の第4四半期から新規事業の投資による赤字が拡大しています。第1四半期では新規事業の投資による赤字は前四半期比では減少していますが、これは「メルカード」がMaketplaceとの共同投資に変わった影響のようです。つまりトータルの投資は増加しています。

メルカリの2024年6月期1Q決算説明資料より

その積極投資の結果もあり、「メルカード」は200万枚を突破しています。USの投資を抑制している分金融への集中投資が進む可能性がありますので、どこまで投資を進め、サービスが拡大していくのかに注目ですね。

まとめ
・直近では増収で大幅増益と利益面が好調で、その要因は、堅調な国内メルカリと、伸び悩むUS事業の投資抑制によるもの
・Fintechでは、「メルカード」へ積極投資があり赤字が拡大
・現在力を入れている「メルカード」がどこまで伸びていくのかに注目
・今後のUSへの投資に注目
※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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