生成AIの成長を後押しする先端技術「IOWN」

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高精細の動画やメタバース(仮想空間)の活用が進む中、データ量の加速度的な増加が見込まれています。なかでも生成AI(人工知能)を動かすには莫大な電力が必要です。そこで今回は、消費電力増加の課題を解決する新技術と関連企業についてご紹介します。

新時代の情報伝送技術「IOWN」

膨大な電力需要に対応するだけでなく、サステナブルな社会を実現するためにも新たな技術の普及が欠かせません。こうした消費電力増加の課題を「光」で解決しようとして、日本電信電話(NTT)が打ち出したのが「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network、アイオン)」です。IOWNはネットワークから半導体まで情報の伝送に光技術を活用する構想です。

世界に衝撃を与えた研究結果

世界の発電電力量は増加傾向にあり、生成AIが拍車をかける可能性があります。生成AIの大規模言語モデルの1回あたりの学習に必要な電力は、原子力発電所1基分の1時間分の発電量を上回るともいわれています。

NTTの島田明社長は昨年に開かれた「世界デジタルサミット2023」の講演の中で、「データ流通量は28年から36年にかけて現状の20倍以上に増えていく」と予測したそうです。

光技術が着目される理由の一つは光の特性にあります。伝送距離が伸びるほど熱となり失われるエネルギーが大きくなる電気に対して、光は伝送距離が伸びても熱として失われるエネルギーは少ないままであまり変わりません。IOWN構想では「光電融合」という技術が要になっています。NTTは電子回路に光回路を融合させる方法で、わずかなエネルギーでも高速で伝送することに成功しました。2019年に英国の科学誌「ネイチャーフォトニクス」で公開されたNTTの研究結果は世界に衝撃を与えたといわれています。

2020年には国際的なフォーラムが立ち上がり、ソニーグループトヨタ自動車 、三菱UFJフィナンシャル・グループ 、KDDIといった日本勢のほか、米国のインテルやマイクロソフトなど世界の名だたる企業が参画しています。

30年めどに本格実用化、遠隔医療などで強み発揮か

2023年には商用サービスが始まりました。吉本興業と連携しIOWNを用いて複数の会場をつないだお笑いライブを実現したほか、昨年末には仮想キャラクターと歌舞伎役者が共演する舞台が催されるなど技術が身近になってきました。

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)では第2弾のサービスが発表される見通しです。加えてパビリオンではIOWNを活用した映像のほか、触覚やにおいといった感覚をデータで伝送して体験できる技術も披露される予定で、NTTの最新技術を体感できるかもしれません。

NTTは6G導入を睨み2030年をめどにIOWNの消費電力を従来の100分の1に抑えつつ、伝送容量を125倍にアップさせることを目指しています。遠隔医療など、わずかな遅延も許されない精緻な作業・分野で活躍することが期待されています。