日本はなぜ「経済」で世界2位までいけたのか?

投資がもっと楽しくなる!日興フロッギー選書/ クロスメディア・パブリッシング角田 陽一郎

投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。今回は、「経済」を地理思考で見ることで、さまざまな形で投資に活かす教養としていきたいと思います。元TBSのプロデューサーで数多くのヒット番組を手掛け、地理・歴史関連の著作も多い角田陽一郎さんと見ていきましょう。[PR]

日本が経済で世界2位だった理由

ここでは、「日本はなぜGDPが世界で2番目だったのか?」ということを、「人口」という観点からの「地理思考」で検証してみようと思います。

私が子どもだった70年代から80年代頃、「世界における日本の経済力はアメリカに次いで2番目」と説明されていました。

日本はアメリカにくらべて国土も小さく、資源も少ない国ですので、私は日本の技術力が優れていて、とても真面目に働く勤勉な国民だからナンバー2に位置しているんだなぁと誇らしげに思っていました。

ところが、このイメージは、実は幻想なのです。

日本が世界で2番目だったのは、日本人が勤勉で、よく働いたからではありません。実は「人口が世界で2番目」だったから、「経済が世界で2番目」だったのです。

「え?」と感じたかもしれません。日本がGDPでドイツ(当時は西ドイツ)を抜いて世界第2位の地位に躍り出たのは、1968年のことでしたが、国連経済社会局『世界人口推計 2022年改訂版』より、この当時(1970年)の世界の人口を調べてみると、

1位 中国(8億2253万人)
2位 インド(5億5750万人)
3位 アメリカ(2億33万人)
4位 ロシア〈当時はソ連の一部〉(1億3009万人)
5位 インドネシア(1億1523万人)

と続き、日本は1億542万人で6位でした。

確かにこの当時、日本は世界で6番目に人口が多い国になっていましたが、まだ2番目ではありませんよね? その通りです。ただ普通に人の数を数えていたら2番目にはランキングされません。

実は、日本は「〈先進国の中で〉人口が2番目」だったのです。当時、人口1位の中国、2位のインド、4位のソ連、5位のインドネシアは先進国のくくりには入っていなかったので、それらの国をカウントしなければ、「1位」がアメリカ、「2位」が日本となるわけです。

人口の多さが豊かさにつながった日本

例えば、日本のとある企業が何かの新製品を発売したとします。その製品が一定のクオリティを保っていれば、順当に売れていくことが想像されます。

国民はある程度の年収を得ているわけだし、当時はインターネットがまだ存在していないとはいえ、テレビやラジオの影響力は絶大で、普及率が高ければ、商品の宣伝は瞬く間に広がっていったことでしょう。それは、発売直後の売れ行き、いわゆる「初速」がよいことも意味します。

そうなると、国内での売上が担保されて、その製品をつくる企業は発展し、体力をつけることができて、海外に製品を輸出することも可能になります。

でも、それができたのも、日本の人口が多かったからです。つまり、「国内市場が大きかった」=「何かをつくると買ってくれる人が多い」という構図があったから可能だったのです。

ちなみに、国連人口基金『世界人口白書2022』によれば、現在の日本の人口は世界で11番目の1億2560万人です。上位は常連の国々で、

1位 中国(14億4850万人)
2位 インド(14億660万人)
3位 アメリカ(3億3480万人)
4位 インドネシア(2億7910万人)
5位 パキスタン(2億2950万人)

となっており、2023年にはインドが中国を抜く(抜いた)といわれています。日本は近年ではメキシコ(10位/1億3160万人)にも抜かれてしまいました。なお、このことは、映画、音楽、テレビ、芸能界など、私が現在、主に活動しているエンタメコンテンツ産業において特に顕著に見られることです。

現在、世界で11番目の人口を持つ日本は1億2560万人の市場がありますから、映画も音楽もテレビも、国内の売上だけでひとまず十分にやっていけます。

しかし、これにはある落とし穴があります。

世界を目指そうという野心があっても、ビジネス的には国内の市場だけで売上が成り立ってしまうので、国内で受け入れられるコンテンツだけをつくるようになるのです。この問題は今や日本のエンタメ産業を直撃している問題です。

世界の映画事情でいえば、大作が年々増加傾向にあり、制作費は高騰しています。その一方で、日本での制作費は低下の一途をたどっていて、世界との格差が年々開いています。

日本が「世界で2番目」から陥落した3つの理由

2010年、日本のGDPは初めて中国に抜かれ、世界第2位の座を42年ぶりに明け渡しました。その理由は3つあります。

1つ目は、人口超大国の中国が、先進国並みの技術力を身につけてきたことです。国全体では、沿岸部と内陸部の格差はまだまだ大きく、また、それ以上に14億というあまりにも膨大な人口なので、国全体を先進国だと捉えるのにはちょっと無理があります。

ところが、上海をはじめ、深センや杭州などはまさに先進国の都市そのものです。中国の都市部の人口を見てみると、人口が100万人を超える都市は276カ所にもおよびます※(日本は12カ所)。

※ 出典:中国都市総合発展指標2021

さらに、1000万人を超える超大都市は17カ所を数え、中国日報網の予測によると、2030年までに中国の都市部(人口500万人以上)の常住人口は、現在の7億8000万人から9億人に達するといいます。

つまり、現在の中国は、少なくともおよそ8億人の市場を持った先進国なのです。国力の順番が変更されるのは当然のことでしょう。この観点で考えると、トップはなんと中国、2番目がアメリカ、3番目は日本、4番目はドイツとなります。

2つ目は、ドイツは「単独の1つの国」ではないことです。もちろん、ドイツという8390万人の独立国は確かに存在していますが、同時に、ドイツは約4億4千万人という日本の約4倍の人口を抱えるEU(27カ国で構成)という統一市場のメンバーでもあります。

つまり、簡単に言うと、(各国言語への適応などは必要ですが)「ドイツは自国の製品を4倍の市場で売ることができる」のです。そうなると、実質的な順位はさらに入れ替わることになります。これまで述べてきたことから考えると、トップは中国、2番目はドイツ(=EU)、3番目はアメリカ、そして4番目が日本となります。こうして見てみると、ランキングは何を基準にするかでガラッと変わることがよくわかりますね。

そして3つ目は、日本の人口が減ってきていることが挙げられます。

日本以外の国でも人口の減少は見られますが、日本においてはものすごく深刻な事態となっています。なぜなら、これまでの日本は、「資源がない」「経済的・政治的な共同体がない」といったウィークポイントを、「国内の人口が多い」というアドバンテージで、いや、むしろその1点だけで克服してきたからです。そのアドバンテージが、人口減少によって今や失われつつあるのです。

これは、「人口が増加する」ということを「成長する」こととイコールで繋いで国力を増強し続けてきた日本の成長神話が初めて効かなくなるという、まさに未曾有の危機でもあります。

圧倒的な唯一の強みを失いつつある日本の未来とは

この事実を、日本人はまず謙虚に受け入れるべきだと私は思います。太平洋戦争に敗れた敗戦国・日本が高度経済成長を経て発展し、世界で2番目だと思えるくらいの国家でいられた理由が、「ただ人口が多かったから」というシンプルな事実。ここに立ち返った上で、では、その優位性が崩れてしまった21世紀の今、日本人が進むべき未来はどちらの方角にあるのか?

もしかしたら、順位付け自体が無意味なことなのかもしれません。

今の日本の人口減も実は私たち日本人の意識自体と、国や地方の分業化と効率重視のシステム自体をつくり変える本当の契機なのではないでしょうか? 「世界一幸せな国」と称されるブータンや、イギリスやアメリカのライフスタイル業界で流行の兆しを見せている「ヒュッゲ」という言葉を生み出したデンマークのように(ヒュッゲとはデンマーク語で「居心地がいい時間や空間」)、「経済力」ではなく、「人間の幸福度」で自国を眺めることができるような、新たな価値観への転換が私たち日本人には求められているのかもしれません。

そのように俯瞰で考えることができるのは、「地理思考」で世の中を捉え直すことができる人なのです。

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