経済と環境の好循環 ~サーキュラーエコノミー~

これだけは知っておきたいESG投資のこと/ SMBC日興証券 サステナブル・ソリューション部岡田 丈

サーキュラーエコノミーという言葉を耳にしたことはありますか?

2030年までのSDGs(※)目標の達成に向け、グローバルで持続可能な社会づくりの取組が加速する中、注目されているキーワードの一つです。今回の記事では、このサーキュラーエコノミーについて説明するとともに、取組を推進する企業の事例を紹介します。

※SDGs(Sustainable Development Goals):国連サミットで採択された2030年までの達成を期限とする、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標

サーキュラーエコノミーって何?

サーキュラーエコノミーは日本語に訳すと「循環経済」。環境省は「従来の3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動」と定義しています。

3R は“廃棄物が出る”ことを前提に、再利用等を行うことで少しでも廃棄物の量を減らそうという取組です。一方で、サーキュラーエコノミーは“廃棄物を出さない”ことを前提に、製品の設計段階から将来的な資源の回収・再利用を見据えたデザインの設計をしています。また、廃棄物の量を減らすことだけでなく、新たに使用する資源をできるだけ抑えることを目的としています。

従来は、大量に生産し、大量に消費し、大量に廃棄する一方通行型の経済活動(リニアエコノミー)が行われてきました。しかし、このような活動は地球上の物質の循環を妨げるだけでなく、気候変動や資源の枯渇、生物の多様性の破壊等、さまざまな環境問題の原因となっています。世界の人口増加や資源・エネルギー、食糧の需要の増加に伴い、廃棄物の量も増え、環境に大きな負荷を与えていることが世界的に問題視されるようになりました。こうして、一方通行型のリニアエコノミーから、資源を持続可能な形で利用するサーキュラーエコノミーへの移行が求められるようになったのです。

リニアエコノミーとサーキュラーエコノミー 出所:環境省
※SMBC日興証券が出所を元に作成

次にサーキュラーエコノミーの考え方がどのように広がっていったかを見ていきましょう。

先行する欧州の「新サーキュラーエコノミー行動計画」

世界に先駆けてサーキュラーエコノミーの概念を提唱した欧州は、2015年に「サーキュラーエコノミーパッケージ」を打ち出し、廃棄物関連の規制やリサイクルを中心とした行動指針を定めました。その後2019年に発表した新成長戦略「欧州グリーンディール」では、資源循環を拡大させながら新たな市場や雇用の創出、競争力強化を図り、環境への取組を新しい産業政策として位置付けています。さらに、2020年には「新サーキュラーエコノミー行動計画」を策定し、製品の長期使用やリサイクルを容易とする設計を義務付け、売れ残った製品の廃棄を禁止する等、“廃棄物を出さない”ことに重点を置いた施策を展開しました。

国内市場規模は2050年に120兆円へ

日本においては、「1999年循環経済ビジョン」で1R(リサイクル)から3R(リデュース・リユース・リサイクル)への転換を掲げ、先進的に3Rの取組が進められてきました。その後策定された「循環経済ビジョン2020」で初めてサーキュラーエコノミーが明示され、「環境活動としての3R」から「経済活動としての循環経済」へと、環境と経済を両立させることを目指すようになります。2023年に打ち出された「成長志向型の資源自立経済戦略」では、サーキュラーエコノミーの国内市場規模は2050年までに120兆円まで拡大すると試算されています。この成長期にさまざまな技術革新を進めるため、政府はサーキュラーエコノミーへの積極的な研究開発・実証・設備投資の支援を行うとしています。

サーキュラーエコノミーの市場規模 出所:経済産業省
※SMBC日興証券が出所を元に作成

では、サーキュラーエコノミーの実現に向け、企業はどのような取組を行っているのか。積極的に取り組む国内企業の例について見ていきましょう。

日本企業におけるサーキュラーエコノミーの取組

①イオングループ
イオン 株式会社は、サステナビリティの重点分野の1つに「資源循環の促進」を定め、商品やサービスを通して、お客さまとともにサーキュラーエコノミーの実現に向けた取組を推進しています。特に、レジ袋や容器包装等に使用しているプラスチックと、まだ食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食品ロス・食品廃棄物の削減に向け、様々な活動に取組んでいます。

プラスチックの削減に関する取組としては、従来、使い捨てされていた洗剤・シャンプー等の日用消耗品や食品等の容器や商品パッケージを、ステンレスやガラス等耐久性の高いものに切り替えています。繰り返し利用できる容器にすることで使い捨てプラスチックの削減を可能にする商品提供システム(Loop)を展開し、日本国内の日用品・食品メーカー各社と協力しながら、これまでの“使い捨て”から“繰り返し”使うライフスタイルへのシフトを推進しています。

Loop小売店モデル 仕組み 出所:イオン

また、食品廃棄物の削減に関する取組としては、店舗で発生した食品廃棄物をたい肥化・飼料化し地域で活用する食品リサイクルループを構築しています。イオン農場を運営するイオンアグリ創造株式会社が地域の食品リサイクル事業者との協業を進め、施設の見学や食品リサイクルループの紹介等、未来を担う子どもたちへの環境教育活動にも積極的に取組んでいます。

イオン完結型食品リサイクルループ 出所:イオン

同じイオングループで、ショッピングモールの開発・運営を手掛けるのが イオンモール 株式会社です。同社は運営する施設から発生する全てのものを資源として循環させ、有効活用することを推進。具体的には、建設における資源循環システムの構築に取組んでいて、施設の新築・解体時は建材のリユースを最大化し、使用建材にはリサイクル不可能なものや新たな建材資源を使用しないという方針です。こうして建設分野のSDGs実現に向け、サプライチェーン全体での資源循環に向けた取組を推進しています。

建設における資源循環システム構築の概念図 出所:イオンモール

②良品計画
「無印良品」ブランドを展開する株式会社 良品計画 も廃棄物削減・資源循環に力をいれている企業の一つです。同社は、ブランドの創生以来、「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」の3つのものづくりの視点の下、環境に配慮した素材の選択や、すべての工程における無駄の省略、過剰な包装の削減を推進しています。具体的には、プラスチック製のレジ袋は廃止し、陳列用フックは再生紙等の代替素材へ切替え、紙ハンガーや紙フックは回収しリサイクル、また、本来なら捨ててしまう生産過程から出る端切れや余り糸は、原料として再生し、再生コットン、再生ウール入りの商品へとよみがえらせるといった再生素材の活用にも取組んでいます。

再生ウール 出所:良品計画

その他にも、使用されなくなった無印良品の衣料品や、製造・流通の過程で販売できなくなった商品を、藍色に染め直し、新しい商品として販売するリサイクル・リユースプロジェクト「ReMUJI」を実施する等、様々な形でサーキュラーエコノミーの実現に向けた取組を推進しています。

ReMUJI 出所:良品計画

お買い物のときは「いつまで使うか」を意識してみよう!

サーキュラーエコノミーへの移行は、環境への負荷の低減に貢献するだけでなく、資源循環に取組む企業の事業活動の持続可能性を高め、中長期的な競争力の源泉となりうるものです。そのような企業に対し投資という形で事業の推進力となる資金を供給することは、企業の更なる成長へとつながります。また、ひいてはその利益が投資家等に還元されるといった「経済と環境の好循環」が確立されるのです。

皆さんも、お買い物をする前に「なぜ自分はこの商品を買うのか」「何年使うのか」など意識したり、使わなくなったものをリサイクルショップに持ち込む、壊れた靴やバッグは修理して使うなど、個人でできるサーキュラーエコノミーを実践し、地球にやさしい生活をしてみませんか?

この連載では、環境問題などSDGsに纏わる最新動向を、毎回、ESGに取り組む企業の事例を取り上げながらご紹介しています。

前回の記事「食品飲料メーカーの脱炭素化への挑戦」はこちら