「OHGISHIMA2050」 京浜工業地帯が生まれ変わる

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多くの工場が集まり日本の高度経済成長を支えた京浜工業地帯。その京浜工業地帯が今、変わろうとしています。今回は、再開発構想「OHGISHIMA2050」を主導するJFEホールディングスを中心に関連企業をご紹介します。

シンボルだった高炉の休止を決断

2023年9月、「 JFEホールディングス(JFE) 」が神奈川県川崎市にある東日本製鉄所京浜地区の高炉を休止したというニュースが流れました。高炉は鉄を生産するための設備ですが、100年あまりの歴史のある地区のシンボルでもあったため、テレビのニュースでも報道されました。JFEの先行きを案じるような出来事でしたが、休止の背景には次の成長ステージを見据えた秘策があったのです。

鋼材需要の低下、脱炭素対応など課題は待ったなし

高炉を休止した理由は、国内の人口減から鋼材需要の低下が予想されること。また、西日本など他の地域の高炉に比べて競争力が低いことなどでした。京浜地区の高炉を休止することで、JFEは25年3月期までに450億円の固定費削減効果が期待できると試算しています。加えて、鉄鋼業は二酸化炭素(CO2)の排出量が他の産業より相対的に多いため、脱炭素への取り組みが喫緊の課題です。今回の再開発構想がこうした鉄鋼業界を取り巻く課題の解決にもつながるかもしれません。

次の成長ステージを見据えた攻守の秘策

こういった状況を前に、JFEは「OHGISHIMA2050(ニーゼロゴーゼロ)」を打ち出しました。「OHGISHIMA2050」は、京浜工業地帯扇島を再開発対象の主要部として、有効活用することを骨格とした土地利用構想です。

具体的には、約220ヘクタールある敷地のうち、まず約70ヘクタールを28年度までに、カーボンニュートラルエネルギーゾーン(水素発電や再エネ発電など)や、港湾物流ゾーンなどの先導エリアとして整備。残り約150ヘクタールは50年度までに商業関連や宿泊施設、次世代産業の開発拠点などに転用。

まさに、コスト削減で守りを固めるだけでなく、京浜工業地帯の再開発を通じ、JFEの次の新たな成長ステージを見据えた攻めの構想といえそうです。

施設のテナント料収入を得られればJFEの収益の安定につながることが期待されます。こうした継続的な収入のほか、目先は24年12月に「 ニトリホールディングス 」へ一部土地(約21ヘクタール)を売却して約450億円の売却益を得ることになっており、一時的な収益押し上げ効果も見込まれています。

2022年には「 ENEOSホールディングス 」など扇島地区に立地する9社で「扇島町内会」を発足させ、同地区の土地利用について連携することを明らかにしており、プロジェクトが着々と進んでいます。 

土地利用でカーボンニュートラルとイノベーション創出

OHGISHIMA2050」では、次世代インフラとして「カーボニュートラルエネルギー」の他、「モビリティ・システム」も掲げています。具体的には、ドローンや空飛ぶクルマの実装です。一方、近隣の羽田空港は航空機の利用だけで過密状態にあり、スペースの確保が難しい中、「 日本航空 」や「 ANAホールディングス 」は空飛ぶクルマの事業化を目指しています。

1世紀にわたりJFEの本業の中心的存在だった京浜地区は、JFEの次の成長ステージを支えるとともに、カーボンニュートラルとイノベーションを実現する先進的都市へ変貌しようとしています。