海の脱炭素「ブルーカーボン」活発化

ニュースの裏事情/ 日本証券新聞

テレビや新聞で取り上げられたニュースの裏側を解説する本連載「ニュースの裏事情」。今回は、「海の脱炭素『ブルーカーボン』」に関するニュースの裏側について、ご紹介します。

「ブルーカーボン」に関する動きに新たな進展

1月22日、環境省が温室効果ガスの排出・吸収量の算定について、新たに海藻(うみも)と海草(うみくさ)の二酸化炭素(CO2)吸収量を反映するとのニュースが流れました。

このニュースの裏側には、温暖化対策の手法の1つとして注目されている「ブルーカーボン」に関する動きの進展があります。陸上生物が吸収・貯蔵する炭素を「グリーンカーボン」と呼ぶのに対し、「ブルーカーボン」は海洋生物が吸収・貯蔵する炭素を指します。主に藻場(もば。海藻・海草が茂る場所)や干潟などの塩性湿地、マングローブ林などが吸収源となり、これらをブルーカーボン生態系と呼びます。

ブルーカーボン生態系はグリーンカーボン生態系に比べて吸収速度・量とも優れていて、長期間の貯留も可能。国土を海に囲まれ、海藻・海草が生育する藻場に恵まれた日本はブルーカーボンの活用に有利な状況にあると期待されています。

かねてから日本はブルーカーボン生態系の排出・吸収量の算定・計上に向けた検討を進めていましたが、昨年4月に国連に提出した報告書では、マングローブ林による吸収量2300トンを計上しました。また今年4月までに国連に提出する報告書へ、環境省は世界で初めて海藻・海草を含む算定を盛り込むことを決定。2022年度は36万トンほどの見通しとのことです。

排出量取引を可能にする「ブルーカーボンクレジット」が活発化

最近ではブルーカーボンを数値化し、排出量取引を可能にする「ブルーカーボンクレジット」の組成や取引が活発化しています。ブルーカーボンクレジットの認証機関であるジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が創設した「Jブルークレジット」は、2022年度時点で「 商船三井 」や「 丸紅 」、「 東ソー 」など100社以上が購入し、国が管理する「J―クレジット」を優に超える価格がつくまでになっています。

商船三井はインドネシアにおけるマングローブの再生・保全事業への参画や藻由来のクレジット購入、直近ではダボス会議に日本の海運会社で唯一参加したことが取り上げられ、話題となりました。

J―POWER 」は自社の事業所近海で海藻を育成し、クレジット創出に注力しています。昨年11月には北九州市でJブルークレジットによるゼロ・カーボン会議を実現したことを発表しました。

このほか、「 鹿島 」は大型海藻類をいつでも大量培養できる技術を確立、「 日本製鉄 」は森から海へと供給される鉄分を人工的に生成する鉄鋼スラグ製品を開発し、藻場の再生・回復に取り組んでいます。「 NTTデータ 」は海草の一種であるアマモのCO2吸収量を測定する実証事業を実施。「 東亜建設工業 」は干潟・浅場の造成技術とノウハウを活用し、沿岸域の再生・親水のソリューションを提供しています。

ブルーカーボンクレジットで、これまで排出量と吸収量の相殺が正式に認められている吸収源は、マングローブ林と塩性湿地などに限られていました。今回の環境省の報告によって正式に海藻・海草が加わる可能性があり、市場のさらなる盛り上がりが期待されます。

(出典:日本証券新聞)