JR西日本【9021】鉄道事業のコロナ禍を経ての変化と現在の回復状況

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

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JR西日本 ホームページ
JR西日本グループ 統合レポート2023
JR西日本グループ統合レポート2019
JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上 For IR small MT(2023年3月17日)
鉄道営業収入及びご利用状況実績「月次ご利用状況2023年3月期」
2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料(2023年5月1日)
2024年3月期第2四半期決算説明会資料
2024年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕連結
2024年3月期第3四半期決算説明会資料

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、西日本旅客鉄道株式会社の「JR西日本 ホームページ」「JR西日本グループ統合レポート2023」「JR西日本グループ統合レポート2019」「JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上 For IR small MT(2023年3月17日)」「鉄道営業収入及びご利用状況実績(月次ご利用状況2023年3月期)」「2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料(2023年5月1日)」「2024年3月期第2四半期決算説明会資料」「2024年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕連結」「2024年3月期第3四半期決算説明会資料」より引用しています。

今回取り上げるのは「JR西日本」として知られている西日本旅客鉄道株式会社です。

もちろん主力は運輸業で、近畿地方や中国地方、北陸などでも事業を展開しています(JR西日本ホームページ 個人投資家の皆様へ:企業グループの概要 参照)。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。
JR西日本の事業セグメントは以下の5つです(JR西日本グループ 統合レポート2023 P39参照)。

※なお、同社は、事業ポートフォリオ再構築を着実に推進するため、2024年3月期第1四半期連結会計期間より、鉄道カンパニー発足と合わせ、セグメント区分を変更しています。具体的には、従来「運輸業」「流通業」「不動産業」「その他」としていたセグメント区分を、「モビリティ業」「流通業」「不動産業」「旅行・地域ソリューション業」「その他」に変更しています。
①モビリティ業:鉄道やバス、その関連工事や清掃事業など
②流通業:駅構内のキヨスクやコンビニなどの店舗運営、ジェイアール京都伊勢丹などの百貨店、ビジネスホテルの運営など
③不動産業:ショッピングセンターや駅ビルの運営、マンション分譲、オフィスビル開発、ホテルの運営など
④旅行・地域ソリューション業:旅行代理店など
⑤その他:広告業、土木建築業やコンサルタント業

鉄道などのモビリティ関連のサービスを行う以外にも、商業施設やホテルの開発・運営、都市開発も行っています。多様な事業を展開していますが、基本的には駅を基点とした開発を行っています。駅の利用者数がそのまま他の事業の集客に連動しますので、運輸業の状況が重要な企業と言えます(JR西日本グループのDXを通じた企業変革・価値向上 For IR small MT P3参照)。

2023年3月期のセグメント別の営業収益の構成比率は以下の通りです。

※以下では、セグメント変更前の情報に基づいて解説しています。
①運輸業:53.8%(29.1%)
②流通業:12.1%(6.7%)
③不動産業:12.2%(43.6%)
④その他:21.9%(20.6%)
※2022年度のセグメントによる

営業収益の中心は運輸業ですが、利益面では不動産業が最も大きな規模を持っていることが分かります。

とはいえ、このような構成になっているのはコロナ禍が影響しています。

コロナ禍の影響がなかった2019年3月期時点での営業収益の構成比率は以下の通りです(JR西日本グループ統合レポート2019 P14参照)。

①運輸業:62.4%(68.3%)
②流通業:16.1%(3.1%)
③不動産業:9.7%(17.9%)
④その他:11.9%(10.7%)
※2022年度のセグメントによる

コロナ禍前は営業収益、営業利益ともに運輸業が6割以上を占めていました。コロナ禍で運輸業は悪影響を受けた一方で、不動産業は悪影響を受けにくかった業態ですから収益構造が大きく変化したということです。

続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

売上高の推移を見ていくと2021年3月期に悪化し、それ以降は回復傾向にあるものの、2023年3月期の段階でもコロナ禍前の水準には及んでいません。純利益の推移を見ても、2021年3月期には大きな赤字となりそれ以降は回復傾向にあるものの、2023年3月期の段階でもコロナ禍以前の水準には及んでいません。

もう少し詳しくセグメント別での2019年3月期→2023年3月期の業績の変化を見てみます(JR西日本ホームページ 財務・業績情報 営業収益 参照)。

まず、営業収益の変化は以下の通りです。

①運輸業:9539億円→7503億円(▲21.3%)
②流通業:2455億円→1694億円(▲31.0%)
⑥不動産業:1485億円→1700億円(+14.5%)
⑦その他:1813億円→3056億円(+68.6%)
※()内の増減率は、執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ。
※2023年度のセグメントによる

営業利益の変化は以下の通りです(JR西日本ホームページ 財務・業績情報 営業利益 参照)。

①運輸業:1362億円→244億円(▲82.1%)
②流通業:61億円→56億円(▲8.2%)
③不動産業:356億円→367億円(+3.1%)
④その他:212億円→172億円(▲18.9%)
※()内の増減率は、執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ。
※2023年度のセグメントによる

営業収益、営業利益ともに運輸業は悪化していて、特に利益面の悪化が大きいです。収益源の変化からも分かる通り、運輸業が最もコロナ禍の悪影響を受けていて、その業績の回復がどれだけ進むかが重要ということです(JR西日本ホームページ 財務・業績情報 営業利益 参照)。

ちなみに2019年3月期時点での運輸収入をもう少し詳しく見ると、新幹線が52.3%を占めていました。新幹線の回復が特に重要です(JR西日本グループ統合レポート2019 P14参照)。

その重要な運輸業2023年3月期の状況について、運輸収入の月次動向を2019年と比較します。2019年には消費増税がありましたから、その影響があった10月には比較的回復を見せているものの、そういった特殊要因を除くとコロナ禍前の水準に戻った月はありません(鉄道営業収入及びご利用状況実績 月次ご利用状況2023年3月期 参照)。とはいえ、運輸収入は回復傾向ですから2024年3月期はさらに業績回復が進むことが期待されます

鉄道はその維持コストも大きな事業ですし、社会インフラでもあるため、コロナ禍で利用者が減ったからといって運行する本数を簡単には減らせません。事業のコストがほとんど変わらないため、利用者が減少すると利益は大きく悪化します。逆に乗車人数が増えたからといって運行コストが増加するわけではないので、損益分岐点を超えた後は利益が伸びやすく、9割以上の回復が続く中で、利益面は大きな回復が期待できます

では、コロナ禍前を上回るような好調が期待できるのかというと、そうではありません。2026年3月までの想定を見ると、山陽新幹線は90%程度、近畿圏の鉄道は92%程度まで回復した後は、横ばいで推移し、コロナ禍前の水準には戻らない想定を立てています(2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料 P29参照)。

インバウンドの拡大による好影響も期待されますが、ビジネス需要が大きい新幹線では、テレワーク化やオンラインでのミーティングがコロナ禍で大きく普及したことにより、今後もその影響が少なからず続くことなども織り込んでいると見られます。

さらに、コスト面に関しても、構造的なコスト削減は取り組むものの、エネルギーコストの上昇など外部要因によるコスト増加やデジタル関連コストの増加などで、増加していく見通しを立てています(2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料 P22参照)。

もう少し長期的に考えても、人口減少が進む中で不採算路線の増加も見込まれます。コロナ禍前は利益の6割以上を稼いでいた運輸業の成長が難しい状況ですから、鉄道事業は成長が難しい状況に入ったと考えられます。

一方で、今後の拡大を目指しているのが不動産やまちづくりなどのライフデザイン業です。営業利益に占める比率としては、コロナ禍前の20%弱程度を2032年までには40%まで拡大するとしています(JR西日本グループ統合レポート2023 P18参照)。

実際に不動産業の売上は2023年3月期時点ですでにコロナ禍前を上回っていましたし、今後もさらなる成長を見込んでいます(2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料 P31参照)。

今後の投資に関しても、鉄道は維持コストが大きな事業ですから、そこへの投資が最も大きいですが、成長投資としては2025年までの3600億円の内2100億円が不動産・まちづくりへの投資と大半を占めています(2023年3月期決算・中期経営計画2025に関する説明会資料 P36参照)。都市開発やまちづくりに注力することで拡大を目指しています。

開業が近い稼働中のプロジェクトでは、2024年に大阪駅の近辺で、地上39階・地下3階建てのJRタワー大阪、地上23階、地下1階建てのイノゲート大阪や、広島駅ビルや三ノ宮駅ビルなどがあります(2024年3月期第2四半期決算説明会資料 P41、42参照)。積極的な投資を行っており、こういった新施設による成長が期待できますので、不動産業に注目です。

ここまでのまとめ

・JR西日本は、鉄道関連の事業を行う他にも、駅を基点に開発を行う多様な事業を行っている
・駅を基点にした事業による集客は運輸関連の事業に連動する
・運輸関連の事業はコロナ禍で大きく悪化。2023年3月期時点は回復の途上
・コロナ禍での行動変容もあり、今後に関してもコロナ禍前の水準に回復する見通しは立てていない
・成長事業として不動産業に注力。運輸業の回復と不動産業の成長に注目

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。

※以下では、セグメント変更後の情報に基づいて解説しています。

今回見ていくのは2024年3月期の第3四半期までの業績です(決算短信を参照)。

売上高:1兆1943億円(+22.5%)
営業利益:1724億円(+146.4%)
経常利益:1610億円(+169.1%)
親会社株主に属する四半期純利益:1098億円(+25.8%)

となっています。増収で営業利益や経常利益は大幅増益と大きな業績回復が進みます。

もう少し詳しく業績を見ていきます。

JR西日本の2024年3月期3Q決算説明会資料より

セグメント別の営業収益の前期比は以下の通りです。

①モビリティ業:+21.8%
②流通業:+22.1%
③不動産業:+13.8%
④旅行・地域ソリューション業:+42.5%
⑤その他:+2.0%

駅を中心に開発を行っていますから、モビリティ業の回復、人流の回復に伴い、流通業や旅行・地域ソリューション業の業績も伸び、不動産業も成長が続いている事が分かります。続いてセグメント別の営業利益の前期比は以下の通りです。

①モビリティ業:1161億円(+258.7%)
②流通業:113億円(+239.8%)
③不動産業:346億円(+33.4%)
④旅行・地域ソリューション業:79億円(+65.0%)
⑤ その他:13億円(▲50.0%)

営業利益面も「その他」を除き、全事業が好調で、主力のモビリティ業が大きく伸びたことで、大幅増益となっています。

大きく業績が回復したモビリティ業と成長事業の不動産業についてもう少し詳しく見ていきましょう。

JR西日本の2024年3月期3Q決算説明会資料より

モビリティ業では運輸収入が前期比では増加を続け、コロナ禍以前と比べても、山陽新幹線の定期外収入や近畿圏の定期外収入は第3四半期(3Q)にはコロナ禍以前の100%の水準まで回復しています。

JR西日本の2024年3月期3Q決算説明会資料より

そして、レジャー・観光需要の回復を中心に、新幹線と近畿圏の基礎的な需要が想定以上だったということで、期初の8070億円→8320億円まで上方修正しています。市場全体としてもインバウンドに関してはコロナ禍前を上回るまで回復しているということもあり、インバウンドの収入も145億円ほど上方修正し想定以上だったことが分かります。

JR西日本の2024年3月期3Q決算説明会資料より

ちなみに、駅を基点として開発を行っていますので、駅の利用者増加は他の事業にも好影響をもたらします。人流が想定以上に増加する中で、全事業とも上方修正を行っており、順調な回復を見せていることが分かります。

JR西日本の2024年3月期3Q決算説明会資料より

また、モビリティ業では運賃の改定も進めていますので、その好影響もあり今後も業績の回復が続くと考えられます。

JR西日本の2024年3月期3Q決算説明会資料より

とはいえ、近畿圏の基礎的な利用や定期収入は第3四半期でも9割ほどとなっており、十分な回復には至っていません。そして今後は山陽新幹線や近畿圏の収入も減少を見込んでいます。テレワーク化やオンラインミーティングの普及など社会的な要因の変化があり、運輸収入全体ではコロナ禍前の水準までの回復は難しいようです。

JR西日本の2024年3月期3Q決算説明会資料より

続いて不動産業は、ショッピングセンターや不動産賃貸・販売は過去最高益を達成し、ホテル業も宿泊収入がコロナ禍前を超えるなど好調です。事業規模も拡大しています。モビリティ業の今後の見通しでは、コロナ禍前の水準までは戻らない想定を立てていますので、この不動産業の成長や、モビリティ業である鉄道事業の活性化と構造改革がどこまで進むかに注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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