和食ファミレス”真の客目線”改革

読んで分かる「カンブリア宮殿」/ テレビ東京(テレ東BIZ)

カエル先生の一言

この記事は2024年2月1日に「テレ東プラス」で公開された「ファミレスなのにファミレスっぽくない! お客の心を掴む㊙︎戦略:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。今回、「カンブリア宮殿」に登場されたのは、サガミホールディングスの鎌田敏行会長です。

サガミホールディングス 会長 鎌田 敏行(かまだ としゆき)

ファミレスをアップデート~専門店の味と超個別対応の接客

これまでの常識にとらわれず、今の客のニーズを掴む。ファミレス業界にあって、そんな時代に合わせた「アップデート戦略」で躍進しているチェーンがある。愛知・知立市の「和食麺処サガミ」知立店のお昼時の店内は順番待ちの客で一杯だった。

この時期、特に人気なのが、名古屋名物「味噌煮込みうどん」。チェーン全体で年間166万食を売る人気商品だ。その他にもトンカツをはじめ和食全般が幅広く楽しめる和食ファミレスだ。

〇アップデート戦略1~ファミレスなのに専門店レベルの味

それを象徴するのが客の2人に1人が頼むという看板商品の「そば」。「喉越しがいい」「そばが食べたい時はサガミにくる」と客に言わせるおいしさの秘密が、店の入り口にある石臼。全ての店に設置しており、店内で一からそばを挽く挽きたてにこだわっている。

「ゆっくり挽くことで熱を出さないので、香りが残っておいしいおそばになります」(そば担当・福川友美子)
店内で行う生地作りもこだわりが。そばなのに、コシを生み出すために20分以上、足で踏む。この「打ち立て」のそばを一つ一つ、注文が入ってから湯がくのだ。

サガミのそばは「挽きたて」「打ち立て」「湯がきたて」の「3たて製法」で、専門店並みの味にアップデートしているのだ。

そばに合わせる天ぷらも独自に進化させていた。その大きな特徴がエビ天の衣。よく見るとまるで淡い雪のようにフワっとしている。これを生み出すために、衣はエビに直接かけるのではなく、油に投げこむ。こうすることで、飛び跳ねた衣が空気を含みながらエビの上に乗っかるというわけだ。

「油に一回沈んで跳ね返った衣が、エビの上にフワッと乗ると、サクサクの食感になります」(天ぷら担当・植益恵子)
〇アップデート戦略2~熱烈ファンを生む超個別対応の接客

ファミレスといえばマニュアル通りに接客するイメージだが、サガミの接客は、それとは全く違う。

パート従業員・長濱英子が客を席に案内すると、常連客らしく注文は「いつもので」。客が注文したのは「モーニングセット」だが、メニューを覚えているのがすごいのではない。例えばトーストは「マーガリンとジャムを選べるが、この方たちはいつも両方です」。コーヒーは熱々が好みなので、わざわざ温め直す。ドレッシングも「和風とごま。それぞれ好みがあるので」。同じメニューでも、一人一人の好みに合わせてアレンジしている。

こうした個別対応の接客が熱烈なリピーターを生んでいる。

「お客様から言われてやるのではなくて、先にやることを心掛けています」(長濱)

過去最大の赤字からの復活~儲かる!「真の客目線」戦略とは?

サガミをアップデートさせたサガミホールディングス会長・鎌田敏行(74)は海外に数多くの飲食事業を立ち上げてきた伊藤忠商事の元商社マン。苦戦する経営を立て直すため2007年、サガミにやってきた。

当時のファミレス業界は低価格を売りにしたチェーンが勢いを増し、激しい価格競争を繰り広げていた。安さが売りではないサガミからは次々と客が離れ、売り上げは激減。そこでもう一度客を呼び戻そうと、「割引券」の大量配布に打って出た。料理の値段を下げないでどうにか窮地をしのごうとしたのだ。

しかし、そんなことをやり続けた結果、2010年には過去最大となる29億円の赤字に。厳しい逆風が吹き荒れる中で、2011年、鎌田は社長に就任した。

「成果が出ていないのは、やり方が間違っているわけです。従業員全員の発想を変えていかないといけない」(鎌田)
何が間違っているのか。鎌田は来る日も来る日も店に足を運び、問題点を徹底的に洗い出していく。すると「ある光景」を目にする。「カツ丼ざるそばセット」を注文した客がそのボリュームに困惑。そのまま観察していると、結局食べきれず半分近く残していた。

従業員に「量はもっと減らした方がいいんじゃないか」と言うと、「たくさん食べられるほうがお客様は喜ぶに決まっています」。その言葉に鎌田は愕然としたという。

「本当にお客様が望むことに対応できているかどうかを考えると、今までやってきたことは違う。だから考え方を変えなければならないですね、と」(鎌田)

従業員たちは古い価値観に囚われ、お客が本当に求めていることを分かっていない。そこでまず行ったのが客への「100万人アンケート」。大量に集まった客の本音は「女性や高齢者向けの量が少なめで品数の多いメニューが欲しい」「値段が高くてもおいしいウナギが食べたい」など、これまで社員が信じきっていたことと大きく違っていた。

これを受けて鎌田は思いきった改革に打って出る。

「今日までやってきたことは全部変える。そういう気持ちで仕事に取り組んでほしい」

当時、鎌田と共に改革に携わっていた経営企画部・吉本康之は「『サガミの常識は世間の非常識』と言われた。自分たちは正しいと思っていたのに、それを『非常識』と言われたのはショックでした」と言う。

鎌田が打ち出したのは「時代のニーズに合った真の客目線の徹底」。早速取り組んだのが大胆なメニュー改革だった。
看板商品のそばの質を上げる一方で、「たまにはリッチなメニューを食べたい」という声に応えて、「うなぎひつまぶし(上)と麺」(4620円)など素材にこだわった豪華な御膳や、「いろいろなものを少しずつ食べたい」という女性客の要望に合わせた、「味彩御膳」(1590円)のように小鉢をいくつも付けた華やかなセットなど、一からメニューを見直し、客一人一人の声を反映した料理を作りあげていく。

さらに、これまで高齢者が喜ぶと思い店の半分以上を座敷にしていたが、テーブル席に変更。意外にも高齢者から「足に負担がかからないから椅子の方が楽」と好評だった。

こうした改革の結果、鎌田が社長に就任した2年後には黒字化を達成。その後のコロナも乗り越え快進撃を続けている。

「一生懸命やるだけではダメ。とことんやらないとダメだと思ったので『やるならとことん』だと」(鎌田)

外国人客も大絶賛~老舗の食材で新ビジネス

サガミがファミレスの枠を超える新たな店作りに動いていた。プロジェクトを引っ張るのは入社30年目になるサガミフード・大谷悟だ。

大谷が訪れたのは愛知・岡崎市の約700年続く老舗の味噌蔵「まるや八丁味噌」。2年かけて熟成させた伝統の八丁味噌は、旨みが凝縮した濃厚なコクが特徴だ。
「春夏秋冬を2回以上繰り返して、完全に発酵が終了してから出荷します」(浅井信太郎社長)

桶から出したばかりの味噌を味わった大谷は「もっと塩辛いものかと思ったが、コクがあってチーズに似ているような感じがします」と言う。

別の日、大谷はメニューの試作のため厨房にいた。「京都の赤尾屋さんという老舗店から取り寄せた季節の漬物です」と言うのは約320年の歴史を持つ京都の漬物店の逸品。さらに佐賀で230年以上続く名店の「ざる豆腐」も。集めたのは、日本全国に点在するとびきりの老舗の食材ばかり。これらを使って大谷が目指すのは、2万円超えの超高級コース料理だ。

全国の老舗の食材ばかりを使った高級会席料理店。日本の食文化を支える老舗を守りたいという想いで立ち上げたプロジェクトだという。
その試食会に訪れたのは、アメリカ領事館のマシュー・センザーさんと愛知フランス協会のオリヴィエ・オルティズさん。訪日観光客をメインターゲットとしているのだ。

まずは前菜。このあとの流れを作るためにも大切な料理だが、大谷の自信作はお麩。

「京都の『半兵衛麩』さんのもので、緑色が『よもぎ麩』、白いものは『あわ麩』です」
これを先述の八丁味噌につけて頂く味噌田楽だ。

そしてメインは150年以上続く老舗のこんにゃくを入れたすき焼き。ここにとっておきの仕掛けがあった。持ってきたのは綿菓子で、「鍋の中に入れてください」と言うのだ。「素晴らしいとしか言えない。完璧です。この仕掛けには驚いた」(オルティズさん)と、手応えは上々だ。
大谷を中心に、今後も出店へ向けてさらなる検討を進めることになった。

「今アメリカでは大谷さんがスーパースターですけど、こちらの大谷さんが我々の中でヒーローです」(鎌田)

コストカット主義と決別~不採算店が驚きの大変貌

鎌田がサガミとは違う方法で再生したのが「味の民芸」。古くから関東を中心に50店舗を展開している「和食ファミレス」だ。看板商品は「手延べうどん」。長時間熟成させた生地を人の手で丁寧に伸ばして作り上げたこだわりのうどんだ。

今でこそ多くの常連客からこよなく愛されている人気の店だが、かつては売上げが低迷し、赤字に陥っていた。
当時の状況をよく知る「味の民芸」町田成瀬店の店長・小山悦延は「間接照明はほぼ点いていなかったです」と言う。現場に押しつけられたのは徹底したコストの削減だった。そのため切れてしまった電球も取り替えず、味に直結する食材も次々と極力安いものに変更。あげくの果てには従業員の数も大幅削減し、現場は疲弊しきっていたという。

「歯がゆかったですね。本当に店として成り立っているのか、お客様を裏切っていないかと、自問自答していました」(小山)

そんな状態の「味の民芸」を、鎌田は迷うことなく買収する。

「一緒になればお互いプラスになることは間違いない。勝算がかなりあると私は踏んだんです」(鎌田)

その改革はサガミでのやり方とは大きく違っていた。それは、「部下を信じ、全てを任せること」。託されたのは当時、鎌田の右腕だったサガミホールディングス社長・大西尚真だ。

しかし、いざ店を訪れると、大西は大きな不安に襲われたという。

「赤字を出さない、損を出さないためにはどうするかということばかりで、料理の提供時間もかかっていたし、なかなか厳しいと思いました」(大西)

看板商品であるはずの「手延べうどん」も「正直、満足のいくうどんではなかった。なぜ看板商品のうどんが満足いくものではないのか。それが一番の疑問でした」。

再生への手がかりを探るため、大西はひたすら店舗を回り続けた。一筋の光が、現場で働く従業員たちの「店に対する思い」だった。

「もっと自分たちはおいしい料理を作りたいんです。でも今、現実的にできていない。それが悔しいです、という思いを皆さんが持っていた」(大西)

従業員の心は折れていない。その想いをくみ取った大西は2014年、再生に着手。真っ先に取り組んだのが「手延べうどん」の大改革だった。コストカット戦略でうどんの原料に使われていた安い小麦を、最高級品に変えることを民芸の幹部たちに提案した。

「それで本当にお客が増えるのか」「そんな余裕が今どこにあるのか」と、幹部たちは一斉に反発したが、それでも大西には確固たる決意があった。

「一番自信になるものは何か、差別化できるものは何かと考えて、手延べうどんにかけようと思いました」(大西)

反対を押し切り、最高のうどん作りに動く。原料はもちろん、製法を一から見直すこと半年。「手延べ」の良さである「ツルツル感」と「喉越し」を最大限まで引き出したうどんを作り上げた。他のメニューでもコストカット戦略を転換。その分、値段は高くなったが、それ以上にお客を満足させるこだわりの料理が、評判を呼んでいった。
それに引っ張られるように、現場の従業員にも「『ありがとう、おいしかった、また来るね』という声をかけてもらって、皆で頑張ろうという気持ちになった」と、変化が起きた。

この結果、改革からわずか1年で黒字化を達成。「味の民芸」は人気店として蘇った。

改革を支えた異国の格言~麵料理で世界一を目指す!

さまざまな改革を成し遂げてきた鎌田。その原動力となっているのが「ITEZA(イテザ)」という言葉。イスラエルに留学していた時に出会った格言で、意味は「もしあなたが望むなら、それはおとぎ話ではない」という意味だ。

スタジオで鎌田は次のように語った。

「非常に胸を打たれ、すごくパワーをもらいました。『業績を少し良くしたい』ではなく、『新生サガミをつくりたい』と思ったんです」

東京・吉祥寺にある行列の絶えないサガミグループが運営する「油そば」の専門店「ぶぶか」。現在も続く油そばブームの火付け役とされる、都内屈指の人気店だ。
ファミレスに比べ規模の小さなこの店をサガミが運営する理由はノウハウの蓄積にあるという。実はサガミはそばやうどん以外にも、きしめんやパスタなど、さまざまな麺料理の店を展開している。

将来的には「世界一の麺料理チェーン」を目指している。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

学生時代、イスラエルに住んだ。「ITEZA」という言葉に出会った。ヘブライ語の頭文字で意味は「もしあなたが望むならそれはおとぎ話ではない」今もなお重大な決断のときに自らに告げる。2011年、8年間黒字が一度だけという中、社長に。V字回復を宣言。イスラエルのことを思った。2000年もの間、「流浪の民」だった民族が国家を復活させたことを考えた。業務上の決断でどんな環境下でもできないはずはない。グループビジョンである「ナンバーワン ヌードルレストラン カンパニー」何としても具現化する。

鎌田敏行(かまだ・としゆき)
1949年、埼玉県生まれ。慶応義塾大学卒業後、伊藤忠商事入社。2007年、サガミチェーンに出向。2011年、代表取締役社長就任。2017年、代表取締役会長兼CEO就任。

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画像提供:テレビ東京