みなさんこんにちは! 公認会計士兼税理士の山田真哉です。
今回は、年収1000万円以下の個人事業主、副業している会社員、投資家、年金受給者向けに、新ルールにより今こそ「雑所得確定申告」に変えた方が良い理由について解説していきたいと思います。
お送りする内容は、以下の通りです。
・青色申告、白色申告との比較
・暗号資産、海外FXなら損益通算
雑所得での確定申告は、どんな人に向いてる?
忙しくて会計ソフトの入力ができない、お金よりも時間を優先したい、レシートや領収書を費用ごとに分けるのが面倒。毎年の確定申告がストレス、計算や整理整頓が苦手、会社に副業がバレたくない。また、暗号資産、仮想通貨や海外FXの税金でちょっとでも得したい。こういった方々は、雑所得(業務)という形で確定申告するのが有利です。
雑所得での申告の場合、事業所得での申告に比べて確定申告に向ける作業量が10分の1以下になります。売上先ごとに会社名と売上金額の合計額、必要経費の合計額を入力するだけでOKです。一方、事業所得での申告では会計ソフトで1件ずつ入力しなくてはいけませんが、青色申告65万円控除を使うと、節税できます。
つまり、雑所得(業務)で楽をとるか、事業所得の青色申告65万円控除を使って節税をとるか、の選択になります。青色申告で10万円控除や白色申告するくらいなら、雑所得(業務)のほうが良いというケースは多いと思います。
雑所得(業務)の確定申告がどれだけ楽なのか、実際にe-Taxでやってみたので、気になる方は僕の動画を見てください。
事業所得か雑所得を判断する新ルール
そもそも所得税は、給与所得、一時所得、譲渡所得など10種類あります。個人事業主や会社員の副業は事業所得もしくは雑所得という選択になります。
一応、事業所得の要件には、ちゃんと営利性・利益が出ていて、継続していて、何回も同じことをやっている反復性がある、といった要素があります。しかし、事業所得と雑所得の境目は、事業っぽいかそうではないかで判断するような、あいまいなものでした。
ですので、たくさん稼いでいるお医者さんでも、雑所得という方もいます。雑所得であれば帳簿がいらないので、ざっくり確定申告をできるし、雑所得の方が税務調査があまり来ないという噂もあったんです。実際はどうかわからないんですが……。
それが、ある理由で2022年10月からルールが変わりました。これまでのルールの他に、帳簿をきちんと作って保存していれば事業所得で、帳簿がなかったら雑所得、といった分け方になりました。
このようなルールができた理由は、以下のようなケースが起きたからです。
会社からの給与で500万円の所得があって、40万円の税金を納めている会社員がいたとします。この方が副業を始めて、赤字が100万円出ました。副業を事業所得として確定申告をすると、給与所得500万円から事業所得の赤字100万円を引いた400万円に対して税金がかかることになり、納税額が20万円に減ります。このような給与の利益と副業の損を合わせること(損益通算)によって、税金の額を下げるという、「副業節税」が流行り始めたんです。
国としては、この副業節税を避けるために帳簿をきちんとつけるという条件を加えた、という感じなんです。ただ、この新ルールが他のところに影響することになりました。
事業所得か雑所得は、帳簿の有無で判断する
個人事業主や、会社員の副業の税金は、事業所得(青色申告)、事業所得(白色申告)そして雑所得(業務)の3種類から選べます。
まず、事業所得の青色申告の場合、事前に税務署へ届け出を出す必要があります。さらに決算書を作成するため、帳簿が必要です。会計ソフトを使うことで帳簿を作ることができます。
青色申告の場合は10万円あるいは65万円控除という、納税額が減る仕組みだったり、専従者給与といって自分の家族に払った給料を経費にできるメリットがあります。
白色申告は事前の届け出は不要ですが、収支内訳書作成ために帳簿を作らないといけません。青色と違って、エクセルで合計額を足していく程度でも大丈夫です。ただ、日付と金額と内容を1つずつきちんと入力することは必要になってきます。
青色、白色ともに副業収入が300万円以下で事業所得にする場合、その事業所得が本業の1割以上の売上があることや、赤字がずっと続いたらダメなどのルールがあります。詳しくは過去の連載でやっていますので、よかったら参考にしてください。
かたや雑所得の場合、事前の届け出は不要で、年間売上1000万円以下の場合は帳簿がいりません。領収書やレシートの金額を合計してe-Taxに入力するだけです。決算書や収支内訳書を作る必要がないから、帳簿もいらない。会計ソフトを使わなくてもOKということになります。
そして、もっというと、年間の収入が300万円以下であれば、請求書・領収書の保存も不要です。
じゃあ「どうやって税務調査するのか」と思うかもしれませんが、通帳などを見てつじつまが合っているかを見られる調査になります。
ただし、300万円超の場合は請求書や領収書・レシートの保存は必要で、1000万円超の場合は帳簿も必要になります。
補足をしておくと、仮に事前に税務署へ青色申告届出書を出していたとしても、必ず青色申告する必要があるわけではありません。青色で申告しますと届け出を出していたとしても、白色や雑所得に変えてかまいません。控除額に差があるだけで、これら3つとも基本的には同じ税率です。税率自体は変わりませんので、自分が1番やりやすいものを選択すれば良いということになります。
雑所得申告で注意すること
それでは雑所得で申告する際の注意点を説明したいと思います。
まず、税務署から「雑所得ではなく事業所得じゃないの?」と指摘されるのではと心配になるかもしれませんね。ですが、新ルールでは帳簿の有無が重要視されている結果として、「今回は帳簿が作れなかったので雑所得に変えた」というのはアリだと思います。
そもそも帳簿が作れない=事業とはいえないという考え方をしているので、こういうロジックが成り立つんです。
もっといえば、事業所得に変えても税金の額は変わらないケースがほとんどだと思います。むしろ事業所得に変えた方が控除や専従者給与が使える分、税金が安くなる。税務署がわざわざ指摘してくる可能性はかなり低いと思います。
つづいて、経費の範囲が変わるのかという点です。経費は、職業×直接性×収益性で判断します。雑所得では、より直接性が高いほうが良いでしょう。ただ、この直接性の判断は、調査官の心証や考え方によってだいぶ変わってきます。なんとなく雑所得だったらより仕事につながるもの、青色だったらそれが若干ゆるい、くらいの認識でいいと思います。
そして、青色申告と比べてどれだけ節税できないのかという点ですが、所得が低ければ影響は少ないです。
収入600万円の個人事業主が申告するケース
個人事業主で収入600万円、経費200万円(青色10万円控除を含む)ケースで見てみましょう。この時の税金は所得税20万円、住民税31万円で計51万円です。雑所得にして青色申告10万円がなくなると、税金は所得税21万円、住民税32万円で53万円になります。
つまり年間2万円税金が増えます。この2万円の税金と帳簿を作る手間のどっちをとりますか? という話です。
ただし、青色65万円控除が使えるのであれば、圧倒的に節税はできると思います。仮に65万円控除で所得税・住民税をあわせた税率が20%の場合は、雑所得で申告した時より13万円も得になります。
確定申告を税理士に丸投げする場合も注意が必要です。相場としては20〜30万円なのですが、そんななか3~5万円で確定申告をやりますよという場合は、注意したほうがいいです。それは、税理士が雑所得で確定申告をしている場合があるからです。帳簿を作らなくていい確定申告ですので、格安でできます。ただ、それだったら自分でやったほうがいいんじゃないかと思います。
どうせ税理士に頼むのであれば、青色申告65万円控除を使えるような確定申告をやってもらって、節税につなげてください。税理士に確定申告を依頼されてる方は、青色申告65万円控除が適用されているかどうか、確認したほうがいいと思います。
雑所得確定申告のメリット
雑所得申告には作業量が減る以外にもメリットがあります。
雑所得には雑所得(公的年金)と雑所得(業務)、そして雑所得(その他)があります。その他というのは、暗号資産、仮想通貨、海外FXの収益です。
これらとは別に先物取引に係る雑所得というのがあります。これは国内のFXや先物取引の収益で、分離課税(他の雑所得とは別計算で20.315%の税金がかかる)となっています。
雑所得と似た言葉で「雑収入」というのがありますが、これは事業所得のなかの収入の話で、雑所得とは関係ありません。
ポイントは雑所得内の公的年金、業務とその他に関しては損益通算ができるということです。さきほどは本業と副業を損益通算で税金を安くするというのがありましたが、じつは雑所得にも損益通算ができる仕組みがあります。
仮に本業とは別に500万円の副業所得がある方が、暗号資産やビットコインの取引で100万円損してしまったとします。
副業を事業所得(青色申告または白色申告)にしていた場合、副業所得500万円に対して所得税や住民税がかかります。しかし、雑所得(業務)にしていれば、雑所得(その他)であるビットコインの損100万円を引くことができます。結果、400万円の所得に対して課税されることになり、税金は減ります。
そう、雑所得内で損益通算することによって、雑所得の節税ができちゃってるんです。これは現時点では合法の仕組みです。
もちろん、普段は事業所得で申告しているのに、ビットコインで赤字が出たときだけ雑所得にするのは、租税回避行為と捉えられかねないです。ですが、ずっと雑所得(業務)で申告しているのであれば、問題ないと思います。
年金をもらっている方も、暗号資産や海外FXの赤字を損益通算することができます。年金をもらうからビットコインを買おう、というのもアリのような気がします。
副業してもバレにくいというのも雑所得(業務)のメリットです。
副業が会社にバレないように、確定申告の時に副業の住民税について「自分で納付するにマルをしましょう」というのはよく知られていると思います。でも、お住まいの自治体によっては会社にバレるような住民税通知書を送ってくる可能性があるわけです。そんな時、たとえ会社に見られてしまっても、雑所得は公的年金と業務、その他を合算した数字が載っているので、住民税通知書を見ただけでは副業しているのか判断がつきません。だから、副業がすぐバレることはありません。
最後に雑所得のデメリットについてお話しします。青色申告のような節税ができないというデメリット以外では、信用度が低いことです。融資を受けてビジネスをしたい時に、これまでの確定申告が雑所得だけだと「この人本気で事業やっているわけじゃないんだな」とみなされる可能性はかなり高いと思います。
ただ、最初は雑所得で、規模が大きくなってから事業所得に切り替えるのも全然アリだと思います。
というわけで、雑所得と事業所得の話をさせていただきました。皆さんが有利なほうを選択していただければと思います。
今後ともごひいきに。ば~い、ば~い!