株式市場で「地方銀行」関連株が買われています。QUICKが選定する関連株の平均上昇率は7.2%と、東証株価指数(TOPIX、1.8%高)を上回りました(3月1日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!
金融正常化の確度が高まる
地方銀行関連株が上昇したきっかけは、日銀がマイナス金利を早期に解除するとの観測の高まりです。
日銀の高田創審議委員は2月29日に大津市で開いた金融経済懇談会の講演で、政府・日銀が掲げる2%の物価安定目標について「実現がようやく見通せる状況になってきた」と述べました。先行きの金融政策運営をめぐっては、「きわめて強い金融緩和からのギアシフト、マイナス金利の解除など出口への対応も含め検討が必要」との認識を示しました。
マイナス金利政策とは、民間銀行が中央銀行にお金を預ける当座預金の一部の金利をマイナスにする政策です。これにより、銀行に対しお金を企業や家計への貸し出しに回すよう促し、物価上昇や経済の活性化を目指します。一方、銀行が預金金利をマイナスにするのは難しく、貸出金利の低下で利ざやが縮小し、収益性が悪化するという副作用がありました。
マイナス金利が解除されれば、収益を多角化しているメガバンクに比べて利ざやに収益が大きく左右される地方銀行の収益改善につながりそうです。
業績上方修正【千葉興業銀行】
上昇率トップは、千葉県地盤の「 千葉興業銀行 」です。2月28日に2024年3月期の連結純利益が前期比7%増の69億円になりそうだと発表し、従来予想(同1%減の64億円)から上方修正しました。経費が当初計画を下回る見通しとなったほか、連結子会社のちば興銀カードサービスの株式譲渡で合意したことで繰り延べ税金資産を計上すること、同社からの配当金35億円の受け取りを予定していることなどが寄与します。
ラピダス効果に期待【北洋銀行】
上昇率2位は、北海道最大手地銀の「 北洋銀行 」です。次世代半導体の量産を目指すラピダスが北海道で、総額約5兆円を投資する見通しが追い風です。工場建設予定の千歳市は、新規雇用や関連企業進出への期待などから不動産需要が急増し、2023年9月公表の基準地価の上昇率は全国トップクラスを記録しました。北海道経済の活況は北洋銀行にとっても大きいとみられます。
地域経済に根差して成長をめざす動きが活発化
「 九州フィナンシャルグループ 」は熊本・鹿児島を地盤とする地域金融グループです。半導体受託生産で世界最大手の台湾企業「TSMC(台湾積体電路製造)」が熊本菊陽町に巨大工場を建設した影響で、基準地価が全国トップの上昇を記録しました。TSMCは熊本県に第2工場の建設を発表しており、熊本経済の活況はしばらく続くとみられ、熊本地盤の九州フィナンシャルグループに対する資金ニーズは高まりそうです。
「 西日本フィナンシャルホールディングス 」は福岡県に本店を置く地域金融グループで、TSMC 関連の融資需要は熊本隣県にも波及するとみられます。
「 筑波銀行 」は3月1日に、茨城県内5金融機関による「いばらき地域金融M&Aアライアンス」を発足させました。事業承継に関する課題を共有し、スムーズなM&A(合併・買収)を実現して地域の雇用維持や経済の持続的成長を目指します。
4月までの日銀会合でマイナス金利解除か
日銀は3月18~19日に金融政策決定会合を開催し、マイナス金利解除の是非を論議するとみられます。日銀の植田和男総裁は2月29日、ブラジル・サンパウロで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後の記者会見で、2%の物価安定目標に向けて「賃金と物価の好循環がうまく回り出しているか、確認していく作業を続ける」と述べました。3月中旬に集中回答日を迎える春季労使交渉については「確認作業の中で一つの大きなポイント」との見方を示しました。
地方銀行を巡っては、昨年11月に日銀が金利操作の再修正を議論すると伝わったことを背景に、長期金利が上昇した際も株価が上昇しました(『金利上昇に反応 「地方銀行」関連株が上昇』)。3月会合でマイナス金利解除に踏み切るかどうかは微妙ですが、4月会合で経済や物価情勢の見通しを示す「展望リポート」の公表とともにマイナス金利を解除する公算が大きいとみられています。