ダイキン工業【6367】長期的な成長に備える投資を、どう見ていくのか?

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

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個人投資家向け会社説明会 説明資料(2023年12月22日)
2023年3月期決算説明資料
統合報告書2023
2024年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
2024年3月期第3四半期決算説明資料

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、ダイキン工業株式会社の「個人投資家向け会社説明会 説明資料」「2023年3月期決算説明資料」「統合報告書2023」「2024年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」「2024年3月期第3四半期決算説明会資料」より引用しています。

今回取り上げるのはエアコンでよく知られているダイキン工業株式会社(以降ダイキン)です。170ヶ国以上で事業展開しており、空調市場ではグローバルでもトップの企業です(個人投資家向け会社説明会資料 P14参照)。

事業内容と業績のポイント

それではまずは事業内容から見ていきましょう。
ダイキンの主な事業セグメントは以下の3つです(個人投資家向け会社説明会資料 P6参照)。

①空調:住宅用、業務用、暖房・給湯など
②化学:フッ素化合物などフッ素関連技術を中心に、半導体や自動車分野などへ提供
③その他:油圧機器・在宅医療機器・電子システムなど

空調事業を中心に、その技術開発力を活かして他分野へも事業を展開しています。

それぞれの事業セグメント事の売上高構成比率と(営業利益の構成比率)は以下の通りです(2023年3月期決算説明会資料 P4参照)。

①空調:91.2%(86.1%)
②化学:6.6%(12.0%)
③その他:2.2%(1.9%)
※売上と営業利益の構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ

売上高・営業利益ともに空調事業が主力で、ダイキンは空調の企業であることが分かります。

ダイキンは住宅用・商業用・産業用と多様なラインナップでエアコンを提供しています。また、それだけではなく住宅用では空気清浄機や給湯器、商業用では換気機器なども展開しており、室内の空気管理において複合的に事業を行っています(個人投資家説明会資料 P11参照)。そして、ダイキンがコア技術としているのは以下の3つです(個人投資家向け会社説明会資料 P12参照)。

①インバータ:モーターの回転数を制御する技術で省エネに貢献する技術
②ヒートポンプ:室外の空気から熱を取り出し、空気や水を温めたりするエアコンの基本原理で、エネルギー効率が高い方式
③冷媒制御:一台の室外機で複数の室内機を制御するマルチエアコンで、熱を運ぶ冷媒を必要な時に必要な量を必要な温度で届ける技術

どの技術もエネルギー効率に直結する技術です。環境配慮が重要な時代でもあり、エネルギー効率は電気代に直結しますのでエアコンを買う際の重要なポイントの1つです。

空調事業の市場別の売上構成は、以下の通りです(個人投資家向け会社説明会資料 P14参照)。

①日本:17%
②米州:35%
③中国:12%
④欧州・中近東・アフリカ:21%
⑤アジア・オセアニア:15%

米州が最も大きな規模ですが、分散した構成でグローバルに幅広く事業を展開していることが分かります。

為替の営業利益への影響も大きく、2023年度の見通しでは1円の円安でドル円は+22億円、ユーロ円は+9億円となります(2023年3月期決算説明資料 P22参照)。円安が続いていますから好調が期待できます。

ダイキンの空調のビジネスモデルは、垂直統合生産、市場最寄化生産です(統合報告書2023 P16参照)。

空調は地域ごとに異なるニーズを持っています(個人投資家向け会社説明会資料 P13参照)。例えば、欧州では環境やデザインへの高い意識があり、通年で気温が高く電気代も高くなりやすいアジアでは、冷房専用で電力消費を抑えられるインバータ機が求められます。米国ではダクト式の全館空調が主流です。それぞれのニーズに対応した製品をタイムリーに市場に投入することが重要なため、現地で垂直統合型の生産を行うことで対応し、それを可能にしています。

各地域で、事業拠点や生産拠点を持っており、生産拠点はグローバルで110ヵ所以上です。2023年3月末時点での従業員数が9万6377人に対して、日本の拠点は従業員数が1万3435人となっていることからも分かるように、各国に根差して事業を行っています(統合報告書2023 P65参照)。

また、空調市場の見通しは、2020年に34兆円だった市場が2025年には43兆円への成長が見込まれています。中国の成長率が最も高く、空調が十分に普及していない新興国は今後も台数増加による成長が見込まれます(個人投資家向け会社説明会資料 P10参照)。

北米では環境規制などの規制強化を追い風として、プレミアム商材で市場の変革をけん引したいとしています。成熟市場では環境規制などが進むため、高付加価値化による成長の余地があります(統合報告書2023 P31参照)。

とはいえ、大きな成長が期待できるのはやはり新興国です。もう少し長期的な空調機の市場ストック台数の市場見通しを見てみると、今後増加していくのは、中国やインドを筆頭とした新興国です。特にインドは2020年代後半以降大きな成長が見込まれています(統合報告書2023 P5参照)。

インド市場を一大拠点化し、住宅用・業務用でライバルを引き離して圧倒的なトップを目指して投資を進めていくとしており、2023年8月からは新工場の稼働も始まっています。2025年度の売上目標は1750億円ほどで、まだまだ小規模な見通しですから、ここ数年で業績に大きな影響を及ぼすほどの成長は見込まれていません(個人投資家向け会社説明会 P25参照)。長期的には大きな市場の拡大が見込まれるインド市場で、しっかりシェアを確保できるかに注目です。空調が十分に普及していない国は他にもあるので、そういった市場では経済成長と共に台数増加による長期的な市場の拡大が見込まれます。

一方で、直近では2024年3月期ではインフレも進む中で経済停滞や消費低迷の懸念があります。エアコンは建物に付けられるので、建設需要にも左右されます。景気低迷に加えて金利上昇もあり、建設市場では停滞が見られる市場が少なくないので、その悪影響がどの程度出てくるかも注目です。

ダイキンの事業全体について、2001年からの長期的な業績の推移を見ると、リーマン・ショックやコロナ禍などによって悪化する時期は見られるものの、業績は拡大傾向が続きます(個人投資家向け会社説明会資料 P17参照)。

2001年3月期と2023年3月期の比較は以下の通りです(統合報告書2023 P9参照)。

売上高:5724億円→3兆9816億円
営業利益:448億円→3770億円

大きく成長していて、2023年3月期には売上高・営業利益ともに過去最高を更新し、直近でも成長が続いています

特に近年の成長速度は著しいです。これは積極的に海外企業のM&Aを行っていることが影響しています。今後もM&Aに積極的な姿勢を見せていますので、どのような企業のM&Aを行っていくかにも注目です(個人投資家向け会社説明会 P8参照)。

続いて好調だった2023年3月期の業績についてもう少し詳しく見ていきます。営業利益の変動要因が、原料費や物流費高騰影響で▲1550億円、固定費の増加で▲780億円と、インフレが進む中でコスト高騰の影響を受けています。一方で売値の影響が+1720億円やコストダウンの影響が+480億円となっていて、コスト高騰の影響の大半をプライシングやコスト削減で打ち返しています。さらに、拡販による影響が+577億円、為替の影響も+340億円ほどあり過去最高益を達成しています(2023年3月期決算説明資料 P7参照)。

ここまでのまとめ

・ダイキンは空調事業に強みを持ち、グローバルでもトップの企業
・空調市場は成長を続け、今後も新興市場では空調の普及による台数増加、成熟市場では環境規制などが進む中で、高付加価値製品の成長が見込まれて、市場の成長が期待される
・2023年3月期はインフレが進む中で資材費や物流費の高騰による影響は受けたものの、プライシングや拡販、円安の好影響もあり売上・利益ともに過去最高を達成
・今後も市場成長や円安の継続で好調が期待されるが、積極投資によるコスト増加、消費低迷や景気低迷、建設需要減少などの影響で販売面の伸び悩みが懸念される

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。今回見るのは2024年3月期の第3四半期までの業績です。

売上高:3兆2637億円(+9.3%)
営業利益:3065億円(+0.9%)
経常利益:2821億円(▲5.7%)
純利益:1939億円(▲7.2%)

となっており、増収で営業利益は増益ながらも、経常利益や純利益は減益となっています(決算短信より)。

ダイキン工業の2024年3月期3Q決算説明資料より

売上や営業利益では過去最高を更新と成長が続いているものの、為替の影響を除くと営業利益は前期比で97%です。利益面は一定の悪化が見られます。売上面に関しては売値の改定を進めたことで増収になっているものの、欧州のヒートポンプ暖房需要の回復遅れや、米国での住宅投資減少などがあり、各地域で需要が低迷。建設需要も悪化する中で販売面には悪影響が出ていたことが分かります。

ダイキン工業の2024年3月期3Q決算説明資料より

セグメント別の業績の前期比を見ていくと、空調事業では売上は増加しているものの営業利益が前期比で99%となっており悪化が見られます。それをプライシングで好調だった化学事業やその他事業の増益で補い、全体の営業利益は増益となっています。

ダイキン工業の2024年3月期3Q決算説明資料より

空調事業の営業利益の変動要因を見ていくと、売値の影響が+479億円、コストダウンの影響が+366億円、為替の影響が+89億円などがありましたが、原材料費や物流費高騰の影響が▲188億円、苦戦する販売面の影響が▲309億円、固定費増加の影響が▲475億円あり、減益です。

ダイキン工業の2024年3月期3Q決算説明資料より

固定費増加の影響が最も大きな要因となっていましたが、それには今期も投資を拡大していたことが影響しています。設備投資は前期比で661億円増やし、減価償却費は187億円増加していて固定費増加に繋がっています。さらに研究開発費も169億円増加。積極投資によって計356億円のコスト増加となっています。

空調事業では不動産市況が悪化し住宅向けなどの販売が苦戦する中で、コスト増加や投資拡大の影響を十分に打ち返せていなかった事が分かります。通期計画でも減価償却費が前期比で450億円の増加、研究開発費は300億円の増加を見込んでいます。長期的には市場の成長が期待できるため投資を緩めることはないと考えられます。このため利益は一定の圧迫が続く可能性が高そうです。

通期予想では増収増益を見込んでいて(2024年3月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結) P1参照)、化学事業の好調が続くか、空調事業では販売面の回復が進んでいくかに注目です。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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