投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。あらためて考えると、どう違うのか今ひとつ説明しづらい「投機」と「投資」。この2つを隔てるものは何か、大手資産運用会社でファンドマネージャーを務める小松原周さんと一緒に考えてみましょう。[PR]
パチンコや競輪、競馬は、何にお金を投じているのか?
「投機」と「投資」の違いとは何でしょうか?
簡単な問いに聞こえるかもしれませんが、この問いに大多数の方は答えられないと思います。個人投資家向けセミナーや大学の講義で質問をしても、答えられる人はほとんどいません。
私は投資の社会的意義や、将来を予想して価値のギャップを見つけることの楽しさを説明したつもりでも、質問は毎回「どのようなルートで他人の知りえない情報を得ているのか」とか「何%上がったら利食えばよいのか」などばかりであり、日本では株式投資は未だに「投機」とみなされているのだな、と実感します。
前置きが長くなりましたが、正解は、投機とは「確率」にお金を投じること、投資とは「価値」にお金を投じることです。
パチンコや競輪、競馬などのギャンブルへお金を投じるのは、「確率」に対してお金を賭けている状態であり、一定の確率で勝ち、一定の確率で負けるようにできています。
パチンコ屋がなぜ経営を続けられるのかといえば、「お客さんの数×投入金額×確率」という方程式で、必ずお店の側が利益を上げられるようになっているからです。お客さんはパチンコをすればするほど、確実にパチンコ屋にお金を吸い取られることになります。他のギャンブルも同様です。
一方で、投資とは「価値」にお金を投じるものです。価値には絶対的なものはなく、需要と供給によって大きく変動します。需要が大きくなればなるほど、供給が小さくなればなるほど、価格の均衡点は高くなっていきます。
あなたがA社の株を買った後で、株価が上がったとします。上がった理由は、A社の株をより高い値段を支払ってでも欲しい人が出現したからであり、上昇した差額は、価値の差に気づいて投資をしたあなたが得た、経済的な付加価値となるのです。
よく株式投資をギャンブルだと思っている人がいますが、その人たちは考え方を改めなければなりません。ギャンブルは40%の人が勝ったとしたら、60%の人が負けている、いわゆる「ゼロサムゲーム」と呼ばれる確率の話でしかありません。
一方で投資とは、需要と供給によって新たに生まれる「価値のギャップ=富」を得るものであり、その実現益は当然GDP(国内総生産)にも計上されます。
A社が魅力のある製品を世に出し続けて、利益を右肩上がりに上昇させ続けたとします。するとよりA社の株を欲しがる人が増えていき、A社の株価も右肩上がりに上昇を続けます。この時、A社の株を買った人は、誰もが資産を増やしていることになります。右肩上がりにA社の株価が上昇している限り、どこで買って、どこで売っても、参加者は利益を得ることになるのです。
経済的な富とは、このような価値の上昇のことをいいます。リンゴを売って10円の利益を得ることと、株式価値が上昇して10円を得ることは、まったく同じことなのです。
日本において「お金儲けをしている人=何か悪いことをしている人」という、間違った概念が根強く残っているのも、このような投資と投機の区別がついていないことや、そもそもの価値が何であるのかを知らないことが原因といえるでしょう。
みなさんは、価値のギャップを見つけて資産を増やしていく投資家と、不公平な確率に依存して資産を減らしていく投機家のどちらになりたいですか? 答えは明白ですね。
リスクとリターンのバランス感覚
リスクとリターンという2つの概念は、投資家として必須の「感性」であり、また精度が高まれば究極の奥義ともなり得る大変重要なものです。
投資の世界に限らず、すべての物事に共通していることですが、何かしらのリターン(報酬)を得るためには、それなりのリスクを投じなければなりません。野菜を育てるには、土地や労働を費やさなくてはなりませんし、希望した学校に入学するには、時間と精神力を費やさなければなりません。
投資の世界においても、この法則はそのまま当てはまります。投資のリターンとは、株価などが上昇することで得られるものであることが容易に想像できるでしょう。では、投資のリスクとは一体何でしょうか?
投資の世界では、リスクとは「振れ幅」のことをいいます。たとえば、あなたがA社の株へ投資したとしましょう。この場合のリスクとは、A社の株価が日々上がったり下がったりする変動幅の大きさを指します。専門用語では、このことをボラティリティーと呼び、数学の確率を表す単位であるσ(シグマ)という記号で表現したりもします。
たとえばA社の株価が過去3年間で、平均的に上下20%の幅を振り子のように動いていたとします。この場合、ボラティリティーは20%という言い方をします。あなたはA社の株式に1年前に投資をして、買った値段から15%上昇したところで売ったとしましょう。
15%の株価の上昇を取れたので、一見すると勝ったようにも見えるのですが、リスクとリターンの観点から見ると、この投資による成果は、決していいとはいえません。なぜなら、A社の株価は本来、上下に20%の変動幅を持っている株式であるため、15%の変化とは、あくまでもこの振れ幅の範囲内のものでしかないといえるからです。
15%の値幅を取ったのだから勝ちは勝ちと思われるかもしれませんが、あなたは平均20%のリスクを取っていたことを忘れてはいけません。もしかしたら、振り子が逆に振れて20%負けていたかもしれないのです。
このようなことを繰り返していると、結果的にどうなるでしょうか。そう、あなたの資産は確実に目減りしていきます。
投資の世界では、リスクとリターンは完全に表裏一体の存在です。リスクという振れ幅の中からしか、リターンは生まれません。リターンには影のようにリスクがついてくるといってもいいかもしれません。
巷でよくある「ノーリスクで5%の配当がもらえる」などの旨い話は、投資の世界では決して存在しません。ノーリスクで得られる超過収益は、理論的には必ずゼロになります。振れ幅のないところから得られるものは、何もないのです。
投資で勝てるかどうかは、背負うリスクに対してどれだけ大きなリターンを得られるかにかかっています。「振り子のように動くのならば、株価が下にいった時に買って、上にいった時に売ればよい」と思うかもしれませんが、困ったことに投資とは、それほど簡単ではありません。銘柄や環境によって、リスクとリターンの大きさは一定ではなく、常に変わっていくものなのです。
株価の変化を生む、会社の新たな変化
おおよそ株価の大きな変化は、過去とは違う変化を迎えた時に起こります。
ある日、A社の開発した新製品が高く評価され、たくさんの受注を得る見込みが出てきたため、株価は会社の業績アップの期待を織り込み10%上昇したとします。このようにリターンが大きくなれば、当然、リスクも従来の20%に比べて大きくなります。
その後、A社の新製品に対して、競合他社がよりよい製品の開発に成功してしまったら、リスクが増していた分、株価の下落幅も以前より大きくなります。一方で、A社の新製品に特別な競合もなく、長期的に受注を得られる見込みが立ってくれば、リスクは株価が上昇したまま自然と小さくなっていきます。
これがリスクに対して、多くのリターンを得るということです。会社の新たな変化によって、リスクを取っていた投資家は超過収益が得られるのです。
このケースではA社の新製品について述べましたが、会社を取り巻く環境には実に多くの要素があります。投資家は投資している資産に予期せぬ変化が起きた時、それがどのようにリスクとリターンのバランスを変化させるのかを判断しなくてはなりません。優秀な投資家は、このバランス感覚に優れています。
繰り返しになりますが、リスクとリターンのバランス感覚は、極めれば究極の奥義にもなるとても大切なものです。投資をしている限り失敗はつきものですが、失敗した時の投資案件を「リスクとリターンがどのように変化したのか」という観点から必ず考えるようにしましょう。
このようにして失敗から学び、経験値を積み上げていくことで、投資家として成長できるようになります。