日経平均の銘柄、どうやって見直される?

あなたの知らない「インデックスの世界」/ おせちーず須山 奈津希

「大学生といっしょに日経平均株価採用銘柄を眺めてみた」を読む

日経平均株価の採用銘柄には「定期見直し」があります。定期見直しが実施されるのは4月と10月のそれぞれ第1営業日です。そこで今回は4月に行われる定期見直しについて見ていきたいと思います。

定期見直し結果を予想するアナリストたちがいる

見直しの結果は、見直しの約1ヵ月前に発表されるのが通例です。見直される銘柄の上限は3銘柄と決まっています。各証券会社などには定期見直しで採用される銘柄、除外される銘柄を予想するアナリストがいます。ずいぶん昔のことですが、実は筆者もアナリストを職業としていたことがあり、定期見直しの予想を担当したことがあります。

アナリストは3つのステップを踏んで予想する

この連載の1回目でご紹介した「225銘柄を選ぶ4ステップ」。採用銘柄の見直しでは、このステップを改めて整理することで、銘柄の採用・除外が決められます。
④はそれまでの結果に基づいて人間が判断しますので、アナリストは予想ができません。「定期見直し」を予想するアナリストが実施するのは①〜③です。それぞれ改めて簡単にご紹介します。

①市場流動性の計測
アナリストは、東証プライム市場に上場する全銘柄の5年分の売買代金と高値、安値のデータを用いて計算します。予想するアナリストが所属する企業はたいてい、これらのデータベースを常に持っており、データ抽出、計算プログラムを持っていることが多いです。
②高流動性銘柄の採用と低流動性銘柄の除外
①の結果をランキングし、現在の採用銘柄が何位になるかを算出します。現在の採用銘柄が451位以下になるようであれば、除外の候補になります。また、高流動性銘柄群のうち上位75銘柄に含まれる未採用銘柄は採用しますので、上位75位までに未採用銘柄が無いかも合わせて確認します。
③セクターバランスによる採用・除外
日経業種分類の36業種を、6つのセクターに集約し、このセクター間で「高流動性銘柄群」に属する構成銘柄数がバランスするように採用・除外の予想をします。
i)450銘柄のうち各セクターに属する銘柄数の2分の1を、そのセクターの「妥当銘柄数」にします。
ii)妥当銘柄数と実際の採用銘柄数を比較して、採用銘柄数が妥当数より多いセクターからは除外、少ないセクターには追加採用されると予想します。

筆者が予想していた時は①〜③を一通り実施してから、予想が妥当かを他のアナリストとミーティングして決めていました。当時は、見直し銘柄数に上限がなかったので、最終的な結論を出すまでになかなかな議論となっていた記憶があります。

「定期見直し」を予想するのは、巨大なお金が動くから

銘柄入れ替えは巨大な資金を動かします。背景に日経平均株価に連動する投資信託やETFがたくさんあるからです。

一つ、例を見てみましょう。日興アセットマネジメントが運用する「 上場インデックスファンド225 」の時価総額は約4兆7,000億円です(2024/2/7現在)。他の日経平均株価連動ETFや投資信託を全部かき集めたら数十兆円はあるでしょう。さらに、「定期見直し」で採用・除外となる銘柄の中には、もちろん個別に保有している投資家もいます。アクティブ型の投資信託やETFが保有している場合もあるでしょう。

こういった投資信託やETFが、定期見直し時に採用銘柄を買い、除外銘柄を売るのです。当然その売買の対象となる銘柄は、株価の変化が大きくなります。特に、除外銘柄は株価の下落になることが多いですから、個別株のホルダーやアクティブ型の投資信託であれば、プライスの下落リスクを軽減したいと考えます。採用銘柄は巨大な資金の買いによるプライスの上昇を期待できますから、事前に保有しておいてプラスのリターンを獲得したいと考えるわけです。ですから、日経平均株価定期見直しに注目する投資家は非常に多いですし、その予想に注目する人もたくさんいるのです。

定期見直しで株価はどんな動きをするのか?

2023年10月の定期見直しで採用された「 メルカリ 」を例に、日経平均株価採用銘柄定期見直しで起きることを確認しましょう。

メルカリが日経平均株価に採用されると発表されたのは2023年9月4日の引け後でした。翌営業日は、日経平均株価連動資金の買いを期待した投資家が多かったようで、前日の終値より高く寄り付き、出来高が大きく増えています。実際に日経平均株価連動資金が買うのは9月の最終営業日の引けです。メルカリの例では2023年9月29日でした。この日の出来高も大きくなっていますね。
株価を動かす要素は必ずしもインデックスの採用・除外だけではありません。これだけで値動きを全部説明できる要素にはなりませんが、「定期見直し」に伴って投資家がどのように動くかをなんとなく理解いただけたでしょうか。

2024年4月の定期見直し

2024年4月の見直しについては、2024年3月4日の引け後に以下のように発表されました。
採用された3銘柄は、「 ディスコ 」と「 ソシオネクスト 」は市場流動性の観点から、「 ZOZO 」はセクター間の銘柄過不足調整だそうです。一方、市場流動性の観点で3銘柄が除外されます。今回は定期見直しの入れ替えが上限の3銘柄となりました。

さて、先ほど示した通り、採用される銘柄は日経平均株価連動資金が「買う」対象になり、除外される銘柄は「売る」対象になります。銘柄入れ替えの翌営業日の反応を採用と除外、1銘柄ずつで確認しましょう。

まずはZOZOです。発表の翌日、寄付から株価は大きく上昇しました。出来高も増えていますね。日経平均株価に採用されたことを投資家が好感したようです。
除外は「 宝HD 」で確認しましょう。こちらは、特に後場から大きく売られました。
連動資金の売買は2024年3月29日の引けで実施されますが、発表された翌日から見直し対象銘柄の株価は大きく動くことがあるとご理解いただけたと思います。メルカリの例で示したように、採用も除外も銘柄入れ替え発表の時点で近い将来の特定の日に連動資金の売買があることがわかっているからこそ、実際の売買よりも先に動く投資家が存在するということです。

以上、日経平均株価採用銘柄の変化に伴う、株価の動きの例をご紹介しました。2024年4月の見直しの次の定期見直しは2024年10月です。9月上旬に銘柄入れ替えが発表されますので、ぜひチェックしてみてくださいね。

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