プロ投資家が考える「分散投資」の本当の意味

投資がもっと楽しくなる!日興フロッギー選書/ 小松原 周片山 晃(ペンネーム:五月)クロスメディア・パブリッシング

投資や資産形成をもっと楽しくするためにピッタリの書籍を、著者の方とともにご紹介する本連載。「分散投資」という言葉は投資に興味がある人なら誰でも知っていますが、見落とされがちなその本当の意味を、大手資産運用会社でファンドマネージャーを務める小松原周さんと一緒に考えてみましょう。[PR]

ポートフォリオ構築で意識するのは「価値観の分散」

プロの投資家の多くは、複雑な数学の理論などを駆使して、全体のリスク調整を行ったり、予期せぬリスクを取っていないかを日々チェックしたりしています。しかし、本音をいうと、私はこうした一般的なポートフォリオ理論の教科書に載っているようなリスク管理をあまり重要視していません。

なぜなら、リスクとリターンは完全に表裏一体なので、リスクを小さくすると、ポートフォリオ全体のリターンも相応に小さくなってしまうからです。しかし、いかに自信があるとはいえ、投資先を数銘柄に絞ってしまうと、今度は分散効果が低下してしまい、リスクが大きくなり過ぎてしまいます。

最適なポートフォリオとは、リスクをできるだけ小さくして、リターンをできるだけ大きくすることですが、結局はポートフォリオに組み入れる一つひとつの銘柄の「認識ギャップ」の大きさで勝敗が決まります。分散効果を意識し過ぎて、相関係数の小さな銘柄を入れることにこだわると、本末転倒となってしまいます。これはプロがよく陥るミスです。

私がファンドマネージャーとして、ポートフォリオを構築する時に一番意識していることは、このような数学的な分散ではなく、「価値観の分散」です。企業を細かく見ていくと、「何を最も重要視しているか」という価値観の部分は、会社によってさまざまな違いがあります。

このような価値観の議論には、「これが正解」というものがありません。営業系の会社だと、継続的な利益成長のために最も重要なことは「社員の成長」という価値観を持っていたりしますし、一方で、健康飲料を製造販売する会社では、創業者の開発した製品と精神を受け継ぐことを組織の使命としているところもあります。

こうした会社の根底に流れている価値観の分散を意識して、私はポートフォリオを構築しています。仮に相場に調整局面が来た時でも、お互いのキャラクターが異なることで、自然と業績もさまざまな変化を示すため、ポートフォリオは分散効果を発揮して下がりにくくなります。そして好景気の上昇相場では、いずれも優秀な会社になるので、予想以上の成長を示して、期待を超えた成果を上げてくれることが多くなります。

勝てない多くのプロのファンドマネージャーは、「セクターニュートラル」といって、TOPIXなどのベンチマークと同じ業種ウエイトになるように、ポートフォリオを組成することがよくあります。下げ相場が来た場合、セクターのウエイトが相場全体と同じであれば、自分のポートフォリオも同じように下がるだけで済むという、極めて後ろ向きな運用手法といえます。リスクを抑え過ぎてしまって、リターンを高める機会を逸失しています。

以上のような分散効果のメリットとデメリットを考えつつ、バランスのよいポートフォリオの作成を心掛けましょう。意図的に分散効果を得る必要はなく、あくまでも自分で自信のある銘柄への長期投資を意識しつつ、キャラクターの異なる多様性を持ったポートフォリオが構築できると、安心して見ていられるようになるはずです。

自分に合ったポートフォリオを組む

ポートフォリオを組むメリットは、複数の銘柄を持つことで、リスクを自分のライフステージに合ったものへと調整できることにあります。20代で資産の少ない若者は、失うものが少ない分、リスクを大きく取って高いリターンを狙えるでしょう。一方で、現役を引退して主たる収入がなく、貯蓄をゆっくり食いつぶしていく世代は、リスクの許容度が小さく、ローリスク・ローリターンの安定性を求める人が多いと思います。

実際に最適なポートフォリオを構築しようとする時には、外国株式や他の債券、不動産、先物などの資産への投資を考えたほうが、よいものができます。なぜなら、そのほうが日本株のみに投資した場合よりも大きな分散効果が得られますし、私が重視する「価値観の分散」も、異文化にある資産クラスのほうが必然的に高くなる傾向があるからです。そして何よりも大切なのは、海外には優秀な会社がたくさんあるということです。

自国の株式市場に大きくウエイトを取ってしまうことを「自国バイアス(ホームカントリーバイアス)」と呼びますが、どの国でもこのような傾向が観察されています。スペイン人はスペイン市場に、オーストラリア人はオーストラリア市場に、米国人は米国市場に、といったように、多くの投資家が自国の上場企業を中心に投資をしてしまいます。

もちろん、投資というのは身近なことから投資アイデアを得ることが多いですし、投資をすることは自国の会社を応援することにもなるため、悪いことではありません。

しかし世界には、特に米国企業の中には、圧倒的に優秀な経営陣によって継続的に高い成長を遂げているエクセレントカンパニーが多くあり、日本の上場企業では決して到達できない高みに登り詰めるような会社が出現する確率が非常に高くなっています。

金融市場に国境はありませんので、自分の資産が大きくなるにつれて、リスク&リターンの観点から、より魅力的なものを世界中から集めるような視点を持つことも大切です。

「円建てですべての資産を持つこと」の意味

「海外の企業を買うと、為替のリスクも伴うので余計にリスクが増すのではないか?」と思われる方もいるかもしれませんが、逆にいうと、円建てですべての資産を持っているということは、日本政府の政策にフルベットしていることを意味します。

過去数十年を振り返っても、日本円で日本の資産のみに投資していた人と、資産の一部をドル建てで米国株へ投資している人を比べれば、投資成果は雲泥の差となりました。グローバル化した金融の世界で、日本人であるからといって円建てですべての資産を持つことのほうが、リスクは高いといえます。

今後、日本が中長期的に欧米中よりも高い経済成長を示す可能性はどれくらいあるでしょうか? その考えに基づいて、あなたの資産の理想の配分をイメージしてみてください。

株だけに投資をすると、世界的な不景気が到来した時には大きく時価が目減りしてしまいます。そのリスクを避けたいと思うなら、株との相関係数が小さい国債などにも投資しておけば、さらにリスクを小さくすることも可能です。

一方で、為替や国債、資源は、マクロ経済を映す鏡のようなものであり、「認識ギャップ」は存在しません。「この国は他の国よりも強くなっていきそうだな」という相対感をもとに、勝ち組のレールに乗り、リスク分散の効果を得ることが目的と考えると、スッキリ理解できるはずです。

世界中の資産への分散投資を行っている大手の機関投資家のパフォーマンスを分析した結果、パフォーマンスの9割以上は、「どの国の、どの資産に、どれくらい投資をしたのか」という、資産配分の効果(アロケーション効果)だけで決まっていることが証明されています。

みなさんの場合は、自分の将来の出費や理想の資産形成に合わせてリスクとリターンを調整するのが目標なので、無理に世界中の金融資産に分散投資をする必要はありません。しかし、日本株のみから得る果実は、世界の金融市場から見ると、非常に小さなものでしかないということは頭の片隅に置いておきましょう。給与が上がらない要因は、日本経済が弱体化していることと密接に関係があるのですから、日本株のみに投資をするというのは、効率のよくない勝負をしていることと同義です。

以上のことを踏まえて、自分に合ったポートフォリオを構築していきましょう。最初から完璧を目指すのではなく、トライ&エラーを繰り返しながら、ゆっくりと投資判断をしていくことをおすすめします。

最初は誰もが1年生ですが、失敗を繰り返しながらも諦めずに学び続けると、やがて自分のポートフォリオと投資哲学が一致し始めてきているという感覚を得るようになります。それこそが、あなたが大投資家への道を歩み始めたというサインといえるでしょう。

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