きみのお金は誰のため

今日からお金賢者になれる「1分書評」/ 日興フロッギー編集部

身近なお金と経済の見方が180度変わる一冊です。知識を学べる上、小説としても楽しめるお得感のある本。学生だけでなく社会人だって必読!

投資以前のお金の本質とは? ラストは必涙の経済教養小説

登場人物は「年収の高い仕事につきたい」中学生と、「投資を学びたい」20代の銀行員。「お金の錬金術師」の異名を持つ謎の大富豪(ボス)のもとを訪ねるも「お金自体には価値はない」「お金で解決できる問題はない」「みんなで貯めても意味がない」と次々に一刀両断されてしまいます。「道徳の話?」と思いきや見事なロジックとたとえ話の応酬が続く。ページをめくるたび「そうか、そういうことだったのか」と深くうなずけ、経済社会の”実際”が見えてきます。

また「お金」だけではなく「働くこと」の根源的な意味を問う一冊でもあります。昨今の「AIが人間の仕事を奪う」論に対する、「経済は無駄な仕事を減らしてきたから発展した」という言葉にはうなります。その昔、鍬(くわ)や鋤(すき)に代わってトラクターが生まれ、人々の仕事は激減しました。けれど、手の空いた人たちが別の仕事に取り組み、新しい業界が生まれてきたという流れは、確かに! と。

これまでネガティブに見えたものに別の側面から光を当てる。本書はいわゆる”アハ体験”の宝庫です。所得格差の広がりに警鐘を鳴らす人が多いけれど、実は「暮らしの格差は狭まっている」とも。かつてテレビは一部のお金持ちしか持てない時代がありました。ところが今は誰でも持っている。誰もがスマホを使い、誰でもネット通販でモノを買って運んでもらえる時代です。付け加えると、現代の金持ちはスマホやネット通販で「みんなを等しく便利にした」サービスを作った人たち、という流れにも目からウロコでした。

著者曰く、執筆の背景は偏ったマネーリテラシーへの危機感からだったそうです。新NISAや老後資金の増やし方等への興味を持つのは良いとして「増やす、儲ける」ことばかりに焦点が当たりすぎでは? と。お金自体を財布から財布に移動するだけでは、誰かのお金が増えれば誰かのお金が減ってしまう。けれど、お金にはイス取りゲーム以上の価値と創造性があるんだよ、と。謎の大富豪「ボス」の造形も魅力的で、小説としても楽しめます。同じ著者の『お金の向こうに人がいる』と併せて読むとさらに理解が深まりそう。