パナソニックHD【6752】事業が伸び悩むも、純利益の好調が続き今後も好調が期待できる理由

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!

統合報告書2023
2022年度 決算概要2023年度 業績見通し(2023年5月10日)
⼀⽬でわかるパナソニックグループ2023年度 第3四半期(累計)【4-12⽉期】<IFRS・連結>
Panasonic Group事業会社戦略説明会2023(2023年5月18日)
2023年度第3四半期決算概要(2024年2月2日)
2024年3月期第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、パナソニックホールディングス株式会社の「統合報告書2023」「2022年度 決算概要2023年度 業績見通し(2023年5月10日)」「⼀⽬でわかるパナソニックグループ2023年度第3四半期(累計)」「Panasonic Group事業会社戦略説明会2023(2023年5月18日)」「2023年度第3四半期決算概要(2024年2月2日)」「2024年3月期第3四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」より引用しています。

今回取り上げるのは、旧松下電器として創業された企業で、家電などでよく知られているパナソニックホールディングス株式会社です(統合報告書2023 P58参照)。

事業内容と業績のポイント

パナソニックの事業は多岐にわたっています。今回は、業績に大きな影響がある要因を中心に概略を解説していきます。

パナソニックの主力の事業セグメントは、以下の6つです(統合報告書2023 P12~16参照)。

①くらし事業:冷蔵庫・ドラム式洗濯機・エアコンや照明などの家電などの事業。売上構成では、家電や空調、照明関連の事業の規模が大きい
② オートモーティブ:コックピットシステム、車載カメラ、ヘッドアップディスプレイなどの車載製品
③ コネクト:サプライチェーンマネージメントソフトウェア・ソリューション、航空機向けエンターテイメントシステム、電子部品実装システム、パソコン・プロジェクターなど
④インダストリー:産業用モータ、多層基板材料、コンデンサなど産業用の製品。売上構成では、コンデンサやリレーなどの電子デバイスが中心
⑤エナジー:車載用円筒形リチウムイオン電池、蓄電モジュール、乾電池など電池関連商品。主力は車載用円筒型リチウムイオン電池で、米国ではテスラと共同工場も運営
⑥その他:
(1)エンターテイメント&コミュニケーション:テレビ、デジタルカメラ、ワイヤレスイヤホンなど
(2)ハウジング:水回り商品、建材商品など

それぞれの事業ごとの売上高と(営業利益)の構成は以下の通りです(2022年度 決算概要2023年度 業績見通し P5参照)。

①くらし事業:42%(36%)
②オートモーティブ:15%(6%)
③コネクト:13%(7%)
④インダストリー:14%(23%)
⑤エナジー:12%(12%)
⑥その他:4%(17%)
※売上と営業利益の構成比率は執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ

分散した構成ですが、家電などを取り扱う①くらし事業が、売上・利益ともに主力で、売上面は景気の動向にも一定の影響を受けます。

また、オートモーティブ事業や車載用電池を主力とするエナジー事業も一定の規模を持つため、自動車市場、電気自動車(EV)化の進捗も影響を受けることが分かります。

続いて2023年4~12月の市場別の売上構成比率は以下の通りです(⼀⽬でわかるパナソニックグループ 参照)。

① 日本:39%
② 米州:25%
③ 欧州:12%
④ アジア:14%
⑤ 中国:10%

日本が約4割を占める主力市場で、それに次ぐ米州で1/4ほどとなっています。グローバルの影響を受けますが、特に日本や米国の景気動向やEV化の進捗に影響を受けます。

海外比率が6割ほどあるため円安は売上を押し上げます。一方で2023年3月期の営業利益の変動要因を見ると、為替の影響は+0億円となっています(2022年度 決算概要2023年度 業績見通し P9参照)。期によってはある程度の影響はありますが、利益面への影響は少なく、為替の影響をさほど想定しないでよさそうです。

続いてここ10年ほどの業績の推移を見ます。まず、売上高の推移ですが、増減がありながら推移しコロナ禍では悪化しました。2022年3月期からは回復を見せ始め、2023年3月期には円安が進んだこともあり好調です(統合報告書2023 P49参照)。

営業利益の推移は、こちらも増減しながらの推移しています。売上が好調だった2023年3月期に関しては、前期比で減益となっています(統合報告書2023 P49参照)。営業利益は成長しているとは言えない状況です。

同社も2023年3月期について「競争力強化は様々な外的要因に対応する卓越した変化対応力の獲得には至らなかった」としています(Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2023 P6参照)。

営業利益の変動要因を見ると、原料価格や物流費高騰の影響が▲2243億円、インフレによる人件費やエネルギーコスト増加による固定費増加の影響が▲350億円あったようです。これに対し、価格改定・合理化の効果+2246億円や経営体質改善による影響+152億円、実質売上の増加+402億円などでコスト増加による影響は打ち返せています(2022年度 決算概要2023年度 業績見通し P9参照)。

実質売上も増加し、収益性改善の取り組みも進んでいて、事業自体は比較的堅調だったということになります。

2024年3月期では、景気の悪化や消費の低迷による影響が想定されますので、売上への一定の悪影響が考えられます。収益性改善の取り組みを進めて、堅調な利益面を維持できるかに注目です。

さて、事業自体は堅調だったものの営業利益は減少していました。これには戦略投資による固定費増加の▲650億円が影響しています。積極的な投資によって減益となったということです。

財務状況を見ても、近年は有利子負債を拡大させつつ投資を進めています(統合報告書2023 P50参照)。

同社の積極的な投資姿勢が分かります。ではどのような投資を進めているのか見ていきましょう。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

成長領域としてパナソニックが挙げているのが以下の3つです。

①車載電池
②サプライチェーンマネジメントソフトウェア
③空質空調

中でも、最もパナソニックが力を入れているのは車載電池です(Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2023 P12参照)。パナソニックの車載電池の強みは、高容量化やレアメタルの含有量を減らすことができるレアメタルレスの技術にあります。EVの課題として航続可能距離が存在しますが、車載電池の高容量化によって距離の延長が期待できます。また社会情勢が不安定化する中で、レアメタル確保の課題もより鮮明になっているため、レアメタルレスの技術でも強みがあります。

また、市場としては2017年からネバダ州でテスラとの共同工場を運営し、車載電池を提供していて、北米で強みを持っています(Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2023 P13、16)。そして、北米ではさらなる生産能力拡大を進め、カンザス州で新工場の建設に着手し、2024年度中の生産開始を予定しています(2022年度決算概要2023年度業績見通しP36参照)。

北米では法的な規制もあり、EV化がハイペースで進んでいくことが見込まれますが、パナソニックは2021年~2030年までに北米のEV市場の年間平均成長率は35%になると予想しています(Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2023 P11参照)。同社は車載電池に強みがあり、また市場も成長するので北米への投資を拡大しています。

北米だけでなく、EV化は世界的な流れですから、日本の住之江や門真にも開発拠点の新設を進めています(Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2023 P14参照)。

今後は市場の成長と共に車載電池関連の事業が成長していくかに注目です。

他にも積極的な投資を進めている領域として、空調事業があります。2023年7月に「パナソニックは2025年度までの4年間に過去最大の1700億円を空質空調事業に投資する。従来計画より700億円上積み」と報道されました。

新興国では、経済成長によって空調の設置台数増加が見込めます。また先進国でも、気候変動対策が進む中で、電力消費量の大きい空調から低消費電力の空調への置き換えが進むことが期待されます(Panasonic Group 事業会社戦略説明会 2023 P17、19参照)。

同社は、気候変動対策への動きが特に早い欧州への投資を進めています。空調を含む「家電×AI」など、低消費電力に繋がる取り組みにも力を入れています。こうした技術力を活かして成長できるかにも注目です。

2023年3月期は、積極的に投資を進めた事で営業利益は悪化し、今後もその影響が継続する事が考えられます。これらの成長事業で、積極投資を上回る成長ができるかに注目です。

続いて純利益の推移を見ていくと、2023年3月期の営業利益は前期比で減益と苦戦しましたが、純利益は増益となっています(統合報告書2023 P49参照)。その背景には、積極投資を進める北米の車載電池が関連しています。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

アメリカで「IRA法」という、過度なインフレ抑制やエネルギー政策を推進するための法案が成立しました。これにより、EV向け電池等の販売に対する税控除が行われることになりました。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

FEOC(懸念される外国の事業体)に該当すると、IRA法の対象としての資格が喪失しますが、同社はネバダ州で2017年から事業を行っている実績があります。IRAの実施直後からネバダ工場が対象となり、アドバンテージがあるとしています。現在建設中のカンザス工場も生産・販売開始後IRA法の対象となる見込みです。

その結果、2023年3月期の第4四半期には法人税還付を受けて、400億円のプラスの影響がありました(2022年度 決算概要2023年度 業績見通し P2参照)。2024年3月期は直接給付による好影響を見込んでいて、純利益の好調が続くことが期待できます。

積極投資で営業利益は減益でしたが、純利益ベースで考えるとその投資はプラスの影響が大きかったということです。

そして、このIRA法案は期間が2023年~2032年までの10年間となっていて、この好影響がしばらく続くことが期待されます。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

生産能力からIRA補助金の影響を単純計算すると、すでに対象となっているネバダ工場が年間約13億ドル、建設中で2025年3月期中の生産開始を予定するカンザス工場は、年間10億ドルとなるようです。

カンザス工場の稼働が始まる2025年3月期や、通期に渡っての稼働が期待できる2026年3月期以降はIRA補助金の効果で、好調となる事が見込めます。補助金という要因ではありますが、これから10年近く純利益面での好調が期待できます。

とはいえ政策による好影響は今後どう動くか分かりません。アメリカ大統領選が近づいています。政権交代によって、アメリカの環境政策が転換することもあり得ます。また海外企業に対する規制の強化で、FEOC(懸念される外国の事業体)への該当企業拡大などが起きる可能性もあります。

ここまでのまとめ

・パナソニックは多様な事業を展開。家電関連の事業や車載やEV関連の事業の規模が大きい
・消費動向やEV化の進捗に一定の影響を受ける
・2023年3月期の営業利益は前期比で減益。2024年3月期も景気減速の影響も考えられる
・収益性改善の取り組みが進み、事業自体は比較的堅調。車載電池などへの積極投資が減益に影響
・今後はコスト増を上回る、成長領域の伸展に注目
・米国の車載電池の事業ではIRA法案による好影響があり純利益は好調
・新工場が稼働する2025年3月期、通期に渡って稼働が期待できる2026年3月期以降はさらなる好調が期待される

直近の業績

それでは続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の第3四半期までの業績です。

売上高:6兆3003億円(+1.2%)
営業利益:3203億円(+36.7%)
純利益:3992億円(+145.1%)

前期は苦戦していた営業利益も増益で、増収増益と好調です(決算短信より)。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

IRA補助金の影響が好調の要因で、営業利益で+220億円、純利益で+284億円です。通期見通しでは営業利益で+850億円、純利益で+1100億円を見込みますので、さらに通期の業績は期待されます。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

続いてIRA関連の影響を除いた業績の前期比は以下の通りです。

売上高:+2%
営業利益:+25%
純利益:+48%
※執筆者の妄想する決算氏が算出したデータ

増収増益となっていて堅調な状況です。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

営業利益の変動要因ですが、実質売上減の影響が▲74億円、原材料費高騰の影響が▲10億円やインフレによる人件費やエネルギーコストの増加▲110億円、戦略投資による影響が▲100億円など、積極投資やインフレによるコスト増加の影響が続いています。

一方で経営体質改善の好影響が+35億円、価格改定が+230億円、合理化が+58億円などの取り組みでマイナスの影響を打ち返せていて、収益性改善の取り組みが奏功しています。

さらに、物流費高騰の改善が+34億円、為替の影響が+43億円、前期あった中国の一過性要因減少の影響が+144億円など、市況の変化や一過性要因の影響もありました。

収益性改善の取り組みや市況の変化があって好調でした。為替の影響で売上は伸びていますが、実質売上は減少していて販売面は悪化しています。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

セグメント別の売上高の推移を見ると、空調などのくらし事業やコンデンサなどのインダストリー事業、車載電池が減収となっています。

くらし事業では、空質空調で欧州の環境悪化による需要減、家電は東南アジアや中国で減収になりました。

インダストリー事業では、市況低迷や半導体市況悪化を受けて減収となっています。

車載電池では、経済が好調な北米は好調な一方で、国内工場が減産、減販となった影響を受けています。

2024年3月期は、国によって景気動向に差が出ていて、景気が悪化した国を中心に販売面が悪化したことが分かります。現在の景気動向を考えると、まだしばらく販売面で一定の悪化は考えられますので、今後の景気動向にも注目です。とはいえ、主力市場の1つである北米経済は堅調ですから、比較的景気悪化の影響は少なく済むと考えられます。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

販売面は一定の悪化がありますが、利益面は収益性改善の取り組みによって堅調でした。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

不振だった国内の車載事業では、下期も需要減が見込まれます。そんな中、生産ラインを別の用途向けや活用していくなど対応を進めるとしています。

パナソニックホールディングス2023年度3Q決算説明資料より

連結業績ですが、通期予想でもIRAの影響を除いても増収増益を見込んでいます。

北米経済は堅調ですし、収益性改善の取り組みを通じて堅調な利益面を維持していけると考えられます。

景気悪化など、市況悪化の影響を受けて販売面には一定の悪影響はあります。しかし収益性改善の取り組みも進んでいますし、IRA法案関連の好影響も大きいです。

今後もIRA関連の好影響と、収益性改善の取り組みによって利益面の好調が期待されます。

※この連載は、ウェブサイト「note」で連載されている「妄想する決算」を日興フロッギー版として、一部を再編集して掲載しています。
※「日興フロッギー版」では、解説のポイントがわかりやすいようにマーカーを付けています。
※「日興フロッギー版」では、解説に使用したデータの参照元を記載しています。
※「日興フロッギー版」では、画像による説明は決算発表会資料に集約し、それ以外は、データの参照元を明記しています。
※「日興フロッギー版」では、用語解説を追加しています。
※「日興フロッギー版」では、「事業内容と業績のポイント」について「まとめ」を追記しています。
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