音楽教室も大人気!「島村楽器」

読んで分かる「カンブリア宮殿」/ テレビ東京(テレ東BIZ)

カエル先生の一言

この記事は2024年4月18日に「テレ東プラス」で公開された「楽器販売だけじゃない! ”島村楽器”のトータルサポート戦略:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。今回、「カンブリア宮殿」に登場されたのは、島村楽器の廣瀬利明社長です。

島村楽器 社長 廣瀬 利明(ひろせ としあき)

オリジナル楽器も開発~音楽教室も人気の島村楽器

コロナ禍を機に楽器を楽しむ大人が増えているという。調査によると、コロナの自粛期間中に楽器を始めた人のうち約4割がまったくの未経験者。そして楽器を始めた人の8割以上が、「せっかく始めたのだから今後も続けたい」と答えた(「カシオ」調べ)。
千葉市美浜区の「イオンモール幕張新都心」に店を構える島村楽器はさまざまな楽器を取り扱う総合楽器店。ピアノはもちろん、ギターの品ぞろえはアコースティックからエレキまで200本以上。「フェンダー」や「ギブソン」といった一流ブランドの数十万円もする高級品から、初心者にも手に取りやすい2万円を切るモデルまである。

島村楽器は若者だけでなく、子どもや高齢者も楽器と出会う機会を作るため、商業施設に出店。売り上げ日本一の総合楽器店だ。
さらに島村楽器は自社のオリジナル楽器まで作っている。「ヒストリー」というギターはプロも認める品質で、歌手のあいみょんさんが紅白初出場のときに使ったという。以前、オリジナル楽器を買ったという女性客は「ネックも握りやすかったし、そんなに大きすぎなくて抱え込む感じもちょうどよかった。一番初めの楽器としては良かったと思います」と言う。

他にもエレキギターやサックス、ベースなど、さまざまなオリジナル楽器をそろえている。

島村楽器の大きな特徴は、ほとんどの店で音楽教室を併設していること。教室の数は「ヤマハ」や「カワイ」より少ないが、生徒の増加率は島村が上回っている。

島村の教室が選ばれる理由の一つにマンツーマンのレッスンがある。インストラクターは島村楽器が雇用する社員だ。
一般的な音楽教室では講師はフリーで、来る曜日や時間が決まっている。レッスンを受けるには、生徒がその時間に合わせないといけない。一方、島村のインストラクターは社員なので、休日以外は店にいる。だから、生徒は予約が空いていれば、都合のいい時間に予約できる。

東京・江戸川区小岩のライブハウスでは、島村楽器の社員による演奏会が開かれていた。

「社員の前で話す機会は年間何十回あるけど、全然緊張しない。演奏のときはいつも緊張します」と言うのは、サックスを吹いていた島村楽器社長・廣瀬利明(48)だ。
廣瀬が楽器を始めたのは島村楽器に入ってからだという。

「楽しいですね、自分の知らなかった世界が知れる」(廣瀬)

社長就任は2013年。少子高齢化の中、抱いたのは危機感だった。

「楽器を演奏する人はどんどん減っていくと思う。テレビゲームみたいに買ってすぐ楽しめないことが、楽器を買ったけどやめてしまう人が多い一番の理由です」(廣瀬)

初心者から上級者まで~楽器愛好者を全面サポート

島村楽器の調査によると、ギターを買った人の8割が1年以内にやめてしまっているという。そこで廣瀬が掲げた戦略が「楽器プレーヤーのトータルサポート」。楽器を始める人を増やし、いかにして長く続けてもらうかだ。

〇島村楽器のトータルサポート戦略1~初心者を挫折させない

千葉に住む神成しのぶさんは半年前からギターに挑戦中。これまでも何度か挑戦したが、そのたびに挫折したという。ところが今回は半年間続いている。理由は、島村楽器が展開しているオンラインの動画サービス「ギターセンパイ」(月額990円~)だ。600曲を超える収録曲を、5つのステップを踏んで練習できる。

神成さんがこの半年、練習したのはあいみょんさんの「マリーゴールド」。まずはステップ1として、弦を1本だけ押さえるところからスタート。ステップが上がっていくと、押さえる弦が増えていく。ステップを踏むごとに弾けている感じが強くなる、という仕組み。半年間練習して最後のステップに到達した。

「純粋に楽しいです。初心者からすると、それっぽく弾けているのが一番うれしいかもしれない」(神成さん)

島村楽器ではギター編に続き、ピアノバージョンを開発中。

「入口の入りやすいところから作りたいなと」(廣瀬)

〇島村楽器のトータルサポート戦略2~仲間とセッション。

曲が弾けるようになったら誰かと演奏したくなる。ある週末、さいたま市の島村楽器大宮店に楽器を持った人たちが集まってきた。初めて会う人同士で行うのは、島村楽器が運営する「オトナカマ」というサークル活動だ(参加費1回550円)。

店舗ごとに毎回課題曲を決め、やりたい人が参加する。機材は店舗スタッフが用意。足りないパートはスタッフが担当してくれる。

集まる人たちの年齢や性別、演奏レベルはマチマチ。それでもセッションする楽しさが味わえる。

〇島村楽器のトータルサポート戦略3~目指せ檜舞台

島村楽器では教室の生徒たちがレッスンの成果を披露する演奏会を定期的に開いている。「発表会があると、そこに向けて練習に身が入る」と言う。

モチベーションアップのため、さらにゴージャスな舞台も用意されている。クラシック音楽の殿堂「サントリーホール」や、「東京オペラシティ リサイタルホール」「紀尾井ホール」といった憧れの舞台に立てるのだ。

こうしたトータルサポート戦略が功を奏し、島村楽器は絶好調。コロナ禍で一時売り上げは落ち込んだが、現在はその分を取り返し再び成長を続けている。

「楽器店を超えていろいろやっていると思っていただけるような存在になりたいです」(廣瀬)

「物」ではなく「人」を売れ~客に信頼される島村楽器

千葉市美浜区の幕張西中学校吹奏楽部。そこに島村楽器の原島將行が楽器のメンテナンスのためにやってきた。取引がある学校を定期的に訪ねて簡単な修理を無料で行い、手入れの仕方も教えている。先輩から後輩へ引き継がれる楽器を大切に扱ってほしいと、長年続けているという。
「大切な思い出のある楽器を長く、一緒に生活していくことをお手伝いする」(原島)

そんな島村楽器は、もともとは東京・江戸川区平井の文具店だった。創業者の島村元紹が店内に「ヤマハ音楽教室」のフランチャイズを開いたのを機に、1969年に島村楽器を創業する。

島村が大切にした精神が「『物』を売る前に『コト』を売り、『コト』を売る前に『人』を売る」だった。

「ギターという『物』を売るのではなくて、ギターを演奏して文化祭で活躍したいという『コト』を売っている。でも、そのためには販売スタッフとして信頼されないとダメなので、『人』を売る」(廣瀬)

ギターを買いに来た客の数だけギターに託す思いがある。接客を通してその思いをくみ取り、思いにかなうギターを提案する。ただ楽器を売るのではなく、客の音楽ライフを支える、信頼される人であれ、という意味だ。

そんな創業者の精神を、廣瀬は入社後に身をもって体感することになる。

廣瀬は1975年、東京生まれ。幼いころは楽器とは無縁で、運動が大好きだった。高校時代はアメフト部に所属する体育会系。慶應義塾大学を卒業後は海外で仕事がしたいと、日本輸出入銀行(現 国際協力銀行)に入行。アジアや中東でインフラ開発などの大きなプロジェクトにも携わる。社会人2年目で結婚。その相手が島村の三女だった。

「念のため妻に聞いた。『継ぐ気は全くないんだけど、いいんだよね』と」(廣瀬)

ところが結婚して3年目、島村から、「会社を継いでくれないか?」と持ち掛けられた。

「当時、誰が後を継ぐかは一切決まってなかった。だから私がもし『それは考えてないので結構です』と話をしたら、島村楽器はどうなるのかなと頭をかすめました」(廣瀬)

考えた末に廣瀬は2004年に入社。
まずは楽器を弾く客の気持ちを知ろうと、ギターを習い始める。さらに店で扱うあらゆる楽器に精通しようと、猛勉強した。

ある日のこと。「1時間ぐらいかけてカタログを見ながら必死に接客して、3万円ぐらいのポータブルキーボードが初めて売れたんです。それはものすごくうれしかったです」(廣瀬)

数日後、その客が店を訪れて廣瀬を呼び出した。「今日は初心者向けの楽譜を買いに来た。この前の接客がとても良かったから、また君に選んでもらおうと思って」と言うのだ。

「そうか、指名をいただけるとはこういうことなんだな、と。お客様に必死に役立とうと思って接客すれば、お客様にそれが通じるんだと体感できました」(廣瀬)

「『物』を売る前に『コト』を売り、『コト』を売る前に『人』を売る」という創業者の言葉を、身をもって納得できたのだ。

重要なのは売った後~楽器ごとに資格制度

2013年、廣瀬は2代目社長に就任。だが2期連続で減益となり、苦しい船出となる。そんなとき経済誌の記事が目に留まった。そこにはタイヤメーカーの「ミシュラン」が、販売後のメンテンナンスなどアフターフォローのサービスを始めたことが紹介されていた。

「我々もギターやピアノを販売して終わりでなくて、販売した後にお客様にどういう付加価値をつけられるかという点で、まだ十分ではなかったなと」(廣瀬)

それまで、楽器のメンテナンスやイベントは大した売り上げにならないため、軽視しがちだったという。だが、楽器を長く続けてもらうには、売った後こそが重要だと気づいた。

そこで廣瀬は、ピアノやギターなど楽器ごとの資格制度を導入。それまでは店舗任せだったスタッフの育成を、会社組織として行えるように統一の基準をつくった。

「楽器店だったらここまでやってくれる、丁寧にやってくれる部分を、我々はスタッフにやっていただきたい」(島村楽器・山口真)

この日、行われていたのはギターの上級資格の試験。正しい手順で演奏までの段取りができれば、楽器の不調に気づくようになるという。さらに、エレキギターの切れた配線をつなぐ、「ハンダ付け」といったメンテナンス技術も問われる。

上級試験に合格すれば、その楽器の「上級アドバイザー」の称号が与えられる。
厳正な試験で知識や技術を高めているから、客からも頼りにされる。

勝部隆之はギターの上級アドバイザーだ。客のひとりは「勝部さんにすすめられたギター、音が気に入っています。異動があっても、店が変わる前には必ず連絡をいただいて、勝部さんにお願いしにいく」と言う。

スタッフの育成が進んだことでギターの弦の交換サービスや、楽器に関する無料相談といったアフターフォローのサービスが充実してきている。廣瀬は創業者の精神を受け継ぎ、発展させているのだ。

養護施設に無償で楽器提供~「音楽愛好家を多く作りたい」

島村楽器の本社倉庫の中には、たくさんのオリジナル楽器が。「商品の制作段階に作られた試作品の楽器」(マーケティング部・守屋奏)だ。品質は問題ないが、店頭に並ぶことはない。

さいたま市にある児童養護施設「カルテット」。さまざまな事情で親と一緒に暮らせない子どもたちが生活している。ここには音楽クラブがあって、よく子どもたちでセッションをするという。ベースは島村楽器から贈られたオリジナル楽器だ。
ベースを弾いていた女の子は「今回、島村楽器さんからもらったので、それでベースをやろうかなと。めっちゃかわいい、形が桜みたい」と言う。

島村楽器では、オリジナル楽器の試作品や店頭でのサンプル品を、全国の児童養護施設に贈る活動を行っている。捨てる予定だった楽器を無償で提供することで、音楽仲間を一人でも増やしたい。そんな思いから始めたそうだ。
※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

楽器をやる人は「ブルジョワ」だと思う。知り合いに、音大出でピアノの講師をやりながら、和物の三味線で名取を取り、今はバイオリンをやっているという人がいる。宝石やファッションには興味がないらしい。もう死語だが「ブルジョワ」だなと。普通の楽器屋は楽器を売るために教室を開くが、島村は、音楽教室を継続してもらうために楽器を売る。音楽の世界は音楽そのものが中心で、そのために必要な道具として楽器を買う。楽器は、習得には長い時間を必要とする。その一端でも味わえば、すでにブルジョワだ。

廣瀬利明(ひろせ・としあき)
1975年、東京都生まれ。1999年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日本輸出入銀行入行。2004年、島村楽器入社。2006年、取締役就任。2010年、代表取締役専務就任。2013年、代表取締役社長就任。

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画像提供:テレビ東京