株式市場で「大手電力」関連株が買われています。QUICKが選定する関連銘柄の平均上昇率は4.6%と、東証株価指数(TOPIX、0.1%安)に対して逆行高となりました(5月24日までの5営業日の騰落)。株価が上昇した5銘柄とその背景について解説します!
相次ぐ半導体工場やデータセンターの建設で電力需要が拡大
大手電力株が上昇したきっかけは、米国株式市場で電力・エネルギー関連株が上昇したことによる連想買いです。5月17日(米国時間)、生成AIの普及などによる電力需要の増加を背景に、原発・再生可能エネルギー企業のコンステレーション・エナジーや電力大手のNRGエナジーなどの株価が上昇しました。日本の大手電力株も上昇基調にありましたが、米国電力・エネルギー関連株の上昇が、更に株価を押し上げた形です。
日本の大手電力株が上昇基調にある背景は、国内で相次ぐ半導体工場やデータセンターの建設で、電力需要が増えることによる業績へのポジティブな期待です。
半導体工場は使用電力が多く、台湾積体電路製造(TSMC)熊本工場の使用電力量は一般家庭30万世帯分に相当する年9億キロワット時にのぼる可能性があるとの指摘があります。また、データセンターは生成AI(人工知能)の普及に伴う大量のデータ処理や冷却で大量の電力を必要とします。こういった電力需要の増大により、日本の消費電力は2050年に21年比で4割弱増えるとの予測もあります。
“北海道バレー”の電力需要を取り込み【北海道電力】
上昇率首位は「 北海道電力 」です。
北海道では最先端半導体の量産を目指すラピダスが、2030年までに半導体関連企業や研究機関、大学が集まる「北海道バレー」の実現を目指しています。ラピダスと戦略的パートナーシップを結んでいるIBMは「北海道は日本の半導体産業復権の中心地になる」と強調。5月19日には斎藤健経済産業相がラピダスの工場建設を視察し、周辺インフラ整備の支援拡充を検討する考えを示しました。
また、ラピダスの支援に向けた政府による追加投資などの呼びかけに応じ、米半導体製造装置大手のラムリサーチも進出を表明。その他、「 ソフトバンク 」は苫小牧市で国内最大規模となるデータセンター建設を進める予定です。
多くの企業の北海道への進出は、北海道電力への業績インパクトも期待されています。同社は24年3月期連結決算説明会で「(ラピダス進出やデータセンター増加に対応するため)泊原子力発電所の全機再稼働や再生エネルギーなど、しっかりと供給力を確保していきたい」と強調し、拡大する需要を確実に取り込もうと意気込んでいます。
“新シリコンアイランド”実現は業績に寄与【九州電力】
上昇率2位は「 九州電力 」です。九州は1960年頃に半導体関連企業が多く進出し、1980年頃には「シリコンアイランド」とも呼ばれていました。直近では、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出などを契機に、「新シリコンアイランド」を標榜し、再び半導体を手掛ける企業を集積させようという機運が高まっています。
既に「 ソニーグループ 」や「 ルネサスエレクトロニクス 」、「 SUMCO 」などの半導体関連企業が九州に拠点を設けています。半導体関連の設備投資によって、九州への電力・ガス・水道の経済効果は30年までに4500億円超との試算もあり、九州電力の業績にも寄与が期待されます。
北海道、九州以外でも半導体関連などの電力需要が増加
「 北陸電力 」の管内でも半導体工場への投資が加速しており、富山県で半導体製造装置の「 KOKUSAI ELECTRIC 」が工場を建設中のほか、半導体洗浄装置などを手掛ける「 SCREENホールディングス 」は23年に新工場を稼働させました。関連製品の製造も盛んで、北陸3県の電子部品・デバイスの出荷額は21年に1兆円を超える中心産業となっています。
「 東北電力 」管内も半導体関連産業の集積地で、「 東京エレクトロン 」やキオクシアなど半導体関連の企業群があります。半導体研究で知られる東北大学との産学連携にも関心が高まっています。
「 関西電力 」もデータセンター事業に参入しており、業績への寄与が期待されます。
安定経営を再び実現できるか
大手電力株を巡っては、昨年来、燃料価格の下落や原発の再稼働が業績改善期待につながり、株式市場で手掛かり材料となっています(『燃料費下落で収益改善に期待 「大手電力」関連株が上昇』)(『原発再稼働近づく 「大手電力」関連株が上昇』)。
一方、大手電力10社の24年3月期連結決算は、最終損益が約1兆8200億円の黒字(前の期は約5800億円の赤字)でしたが、25年3月期は業績予想を開示した9社中8社が減益を見込みます。
将来的な電力需要の増加が見込まれるなか、収支変動を抑え再び安定した業績を実現できるかどうか焦点の一つとなりそうです。