大公開!! 妄想する決算流だれでも決算書を読めるようになる方法【特別編】パーク24

日興フロッギー版 妄想する決算/ 妄想する決算

カエル先生の一言

音声メディア「Voicy」で、「10分で決算が分かるラジオ」を毎日配信中の「妄想する決算さん」が、日経225・グロースコア・スタンダードコアの企業を1社ずつ取り上げる人気連載を日興フロッギー版としてスタート! 読むだけで、知らず知らずのうちに主要な株価指数に採用されている企業についてわかるようになる決算解説。日興フロッギー版ならサクっと5分でチェックできます!

今回は誰でも決算書が読めるようになる方法を公開ます。実はこの連載を読んでくださってきた読者のみなさんはすでに決算書が読めるんです!! 驚きましたか? 連載開始当初は確立していませんでしたが、途中からこの連載はシンプルな3つのルールのもと書き進めています。そこで、この記事を読めば誰でも決算書が読めるように3つのルールをまとめました。パーク24株式会社の決算を事例に、決算書の読み方を実況します!

パーク24株式会社 2024年10月期第1四半期決算説明会資料
パーク24株式会社 統合報告書2022

※以下の解説で使用したスライド及びデータは、パーク24株式会社の「2024年10月期第1四半期決算説明会資料」「統合報告書2022」より引用しています。
【3つのルール】
ルール①企業間比較を行わず期間比較だけを行う
ルール②会計用語や指標をなるべく使わない
ルール③なるべく毎回同じ手順で読む

まず①についてですが、決算書を読む・企業分析をする際の主な方法としては(1)企業間比較(2)期間比較の2つがあります。

企業間比較は、例えば同業のトヨタと日産を比べて、「トヨタの方がこの部分がいいよね」とか「日産はこの部分がいいよね」といった感じで、他社との比較で結論を出すものです。

一方期間比較とは、トヨタだけの業績を期間ごとに比べて「この部分が良くなってる」とか「この部分が悪くなってる」など、1社の期間ごとの比較で結論を出すものです。

企業間比較も重要なのですが「多くの人が決算を読めるようになって、会計の最低限の知識を持つ人が増えたらいいよね」という思いが私にはあります。

そのためには、チェックするのを1社だけに絞る方が取り組みやすいだろうと、期間比較だけを行ってきました。

次に②の「難しい用語や指標を使わない」です。多くの企業分析を見ると、この指標がこうだから「この会社はいい」とか、「悪い」といったものが多いです。もちろんそれはそれで参考になりますが、詳しくない方からすると、知らない指標や専門的な用語は中々頭に入りませんよね。少なくとも私の頭脳では無理です。それに、専門的な会計の知識や指標などがなくても十分に決算書を読むことができますので、それを実感してもらおうと考えました。

そもそも、指標自体が基本的に企業間比較を行う際に用いられるものですので、単純に相性が悪いということもあります。

そして、読者のみなさんはお気づきかもしれませんが、毎回同じ構成にしています。書くときに楽という理由もありますが、毎回同じということは、再現性があるということです。

つまり、難しい用語や指標を知らなくても、手順と方法を知っていれば決算が読めてしまう、ということです。

妄想する決算流決算書の読み方

それではそろそろ本題に入りましょう。
今回は駐車場の経営などを行うパーク24を例にして、決算書の読み方を実践しましょう。

ポイントはズバリ、7つのステップを踏むだけです。

ステップ1.事業セグメントを見て売上と利益を分解して事業内容を把握する

複数の事業を行う企業は、売上や利益などの情報を「事業セグメント」という事業単位ごとに分けて提供する事が多いです。ここを見ると、どのような事業をどのような規模で行っている企業なのかが分かります。

それでは早速パーク24で見ていきましょう。

2024年10月期1Q決算説明会資料

パーク24の事業セグメントは、①駐車場事業国内②モビリティ事業(レンタカーやカーシェア)③駐車場事業海外の3つとなっています。

国内で時間貸駐車場”タイムズパーキング”を軸とする駐車場事業を行うほか、カーシェアリングサービス”タイムズカー”を軸とするモビリティ事業、海外での駐車場事業も展開している事が分かります。

それでは続いて、事業セグメントごとに売上を分解して、構成比率を見てみます。

①駐車場事業国内:49%
②モビリティ事業:29%
③駐車場事業海外:22%

国内の駐車場”タイムズパーキング”のイメージが強いパーク24ですが、その構成比率は約半分ほどで、モビリティ事業や海外事業の規模も大きいことが分かります。見る人によっては、すでに思っていたイメージと異なることもあるかもしれません。

続いて事業セグメント別の利益の額を見てみます。

①駐車場事業国内:84億円
②モビリティ事業:46億円
③駐車場事業海外:1億円

利益面でも国内駐車場が最も規模が大きいですが、モビリティ事業の規模も大きい事が分かります。そして海外駐車場事業は収益性が低いですね。海外事業は売上では一定の規模がありますが、利益面に大きな影響を与えるのは国内事業だと分かります。パーク24は国内の駐車場、カーシェアが事業の主軸であり、移動需要の影響を受けやすいことが分かりました。

売上と利益を事業セグメントで分解してみると、どのような企業でどういった市場の影響を受けやすいかが分かるということですね。

ステップ2.業績の推移を確認する

事業内容を把握した後は、続いて業績の推移を見ていきます。ご自身の知りたい目的によって、見る期間を選んで問題ありません。

今回は、コロナ禍を経て直近までにどのような変化があったかを知りたいと思います。そこで、2019年10月期第1四半期から直近の2024年10月期第1四半期までの、ここ数年間の第1四半期の業績の推移を見ていきます。

2024年10月期1Q決算説明会資料

まず売上の推移を見ると、2021年10月期第1四半期(2020年11月~2021年1月)に大きく下落。その後は回復傾向となり、2024年10月期の第1半期にはコロナ以前を上回る水準まで増加しています。経常利益は2021年10月期第1四半期に赤字転落。その後は回復が進み、直近の2024年10月期の第1四半期には、コロナ以前を大きく上回る利益水準となっています。

コロナ禍では業績を悪化させたものの、直近ではコロナ以前を上回り非常に好調になっていたことが分かります。

2024年10月期1Q決算説明会資料

2019年10月期の第1四半期→2024年10月期の第1四半期のセグメント別の業績の変化をもう少し詳しく見てみましょう。

売上高
①駐車場事業国内:403億円→423億円
②モビリティ事業:214億円→253億円
③駐車場事業海外:174億円→192億円
経常利益
①駐車場事業国内:69億円→84億円
②モビリティ事業:13億円→46億円
③駐車場事業海外:6億円→1億円

主力の国内駐車場事業とモビリティ事業の好調が、コロナ以前を上回る好業績の要因であることが分かります。

ステップ3.業績の推移の理由を考える、疑問点を出す

では続いて、どうしてこのように業績が推移したのか、その理由を考えます。そしてさらに、疑問点を出していきましょう。

先ほど事業内容を確認したように、パーク24は国内駐車場とモビリティ事業の規模が大きいため、国内の車での移動需要に業績が左右されます。2021年10月期の第1四半期に大きく業績を悪化させていた要因は、コロナ禍での移動需要の減少によるものでした。コロナ後は、移動需要の回復が進み業績回復につながったことも直感的に理解できると思います。しかし、直近の決算では、国内駐車場とモビリティ事業がコロナ以前を上回り好調です。移動需要が回復したとはいえ、需要がコロナ禍前を大きく上回っているとは考えにくいです。なので、業績が大きく上回っている点が不思議に思えませんか。

業績の推移を見ていくと、このように疑問点が見つかることがあります。小さな疑問や、「どうして売上が伸びているのだろう?」といった些細なことでもいいので、疑問点を見つけてみましょう。

ステップ4.疑問点について調べてみる

では続いて、生まれた疑問点について、その理由を調べてみます。企業側が提供する資料が複数あり、そこでは業績の変化に関する理由などを説明してくれています。例えば、どの企業も開示する必要がある「有価証券報告書」の「経営成績に関する説明」や、企業が独自に作る「決算説明会資料」では、より分かりやすく説明してくれています。こうした資料をチェックしてみましょう。

もちろん、会社側としてなるべく良く見せたいと考えている場合もあるので、丸々それだけを鵜呑みにするわけにはいきませんが、基本的には記載の通りと思って読み進めて問題ありません。

今回は、決算説明会資料から変動の要因を確認していきます。

2024年10月期1Q決算説明会資料

駐車場事業国内をもう少し詳しく見ると、コロナ禍でタイムズパーキングの運営件数が減少したことが分かります。売上高に関しても、2024年10月期第1四半期は2020年10月期の第1四半期と比べ減少しました。一方で事業利益率は高まっていて、駐車場当たりの収益性が高まっていたことが分かります。

パーク24はコロナ禍で駐車場の需要が低迷する中で、より筋肉質な経営を目指し、コスト管理の徹底や採算性の低い駐車場の解約など収益性を重視した経営を進めていました。駐車場の需要が回復する中でもその成果が続いていて、利益面がコロナ以前を上回るような好調になっていたということですね。平時であれば中々進みにくいような大きな改革が進んでいて、コロナの影響はパーク24にとってマイナスの影響だけではなかったことが分かります。

2024年10月期1Q決算説明会資料

続いてモビリティ事業を見ると、カーシェアリングサービスであるタイムズカーの台数と会員数が共に増加しています。特に会員数に関しては大きな成長が続いています。カーシェアは成長事業で、成長が続いたことで好調だったということが分かります。

好調な2事業ですが、要因は他にもあるようです。

ステップ5.今後の施策を確認する

続いて、今後のためにどのような施策を進めていこうとしているのか確認していきましょう。パーク24の駐車場事業国内では、筋肉質な経営を維持したまま規模の拡大を進めていこうとしています。モビリティ事業では車両台数を拡大させ、事業の拡大を進めていこうとしています(統合報告書2022 P22~25参照)。

各事業とも拡大を目指していて、運営件数を減らし収益性の改善を進めていた駐車場事業国内でも、再拡大を目指していることが分かります。移動需要が回復する中で、単純な収益性改善のフェーズではなくなったということですね(統合報告書2022 P5参照)。

ステップ6.知っている知識や知見も活用して今後について考えてみる

さて、ここまでで「どのような企業なのか」「業績の推移はどうか」「なぜ変化があったのか」「今後どういった変化を進めていこうとしているのか」を知ることができました。考える前提が整ったので、今後について自分なりに考えたり、調べられるものは調べてみましょう。そんなに難しいことでなくて大丈夫です。

例えば、シンプルな疑問として、国内駐車場事業は、収益性が改善しているものの運営件数は減少していますし、今後の業績拡大にはカーシェアリングの拡大が重要と思われる方も多いのではないでしょうか。すると、「カーシェアリングの市場が拡大するのか?」という点が重要になりますね。

こうした疑問は調べれば解決できます。ググれば、簡単に今後の市場予測が検索でき、どの程度拡大が期待できるかを知ることができます。

あるいはもう少し長期的な視点で、「自動運転になったらどうなるんだろうか?」なんてことを考えてもいいかもしれません。いわゆるMaaS(Mobility as a Service」の略)化が進めば、駐車場の需要が減る可能性がありますし、カーシェアも需要が減少するかもしれません。一方でカーシェアを「車両を保有してユーザーに貸し出すサービス」だと考えれば、むしろ自動運転化、MaaS化の中で自動運転の車両を提供する事業基盤が整っているということで、タクシー会社を代替するようなモビリティ企業としての変化が期待できるかもしれませんね。

どのようなことでもいいので考えたり、調べたりしましょう。ご自身の業界の専門知識や経験などを組み合わせていくと、他の人では気付くことができない点に気付ける可能性がありますから、おすすめです。これを続けていくと様々な情報が結び付き始めるので、一気に決算書を読む力も思考力も伸びていくと思います。

ステップ7.自分なりの総括をする

今後がどうなるかまで考えたら、最終的にまとめて総括して、終了します。

パーク24は国内駐車場やモビリティ事業が主力の企業で、国内の移動需要に業績が左右されやすい企業です。直近はコロナ以前を大きく上回り好調で、その要因は国内駐車場事業ではコロナ禍で進めていた筋肉質な経営への改革が進んだことと、モビリティ事業の拡大が続いていることです。移動需要も回復する中で今後は国内駐車場事業の再拡大と、モビリティ事業のさらなる拡大を目指しています。

カーシェアは市場の拡大が続くことが期待されますし、コロナ禍を経て平時では進まないような筋肉質な経営への改革が進んだ駐車場事業国内も再拡大による業績の拡大が期待できます。今後も好業績が続くことが期待できそうです。また、自動運転化が進む中ではモビリティ企業への転換も考えられますから長期的な変化にも注目です。

このように、これまでの流れをまとめてみると、企業の全体像がつかめることが分かると思います。会計の専門的な知識や難しい指標などを見なくても、7つのステップで決算書が読めるようになる事をお分かりいただけたと思います。

妄想する決算流決算書の読み方7ステップ!!

それでは最後におさらいです。

ステップ1.事業セグメントを見て売上と利益を分解し事業内容を把握する
ステップ2.業績の推移を見てみる
ステップ3.業績の推移の理由を考える、疑問点を出す
ステップ4.疑問点について調べてみる
ステップ5.今後の施策を確認する
ステップ6.知っている他の知識と組み合わせて、自分なりに考えてみる
ステップ7.自分なりの総括をする

それではみなさんも是非こちらの7ステップを利用して、決算書を読んでみてください。

以上決算書の読み方講座でした!!

パーク24