新社会人必読「部長! ボクの残業代まちがってますよ!!」

フロッギー版 お金で得するオタク会計士チャンネル/ 山田真哉

みなさんこんにちは! 公認会計士兼税理士の山田真哉です。
今回は、給与明細のミスが起きやすいポイントや見るべき点について解説します。新社会人にぜひ知っておいてほしいことなので、新社会人の方向けに話を進めていきます。これを知らないと、損をする人生を送ることになるかもしれません。

お送りする内容は、以下の通りです。

・給与、残業代の時効は?
・ノーワーク・ノーペイの原則
・休日と休暇の違い
・残業代は本当に割増されている?
・手取りが少ない理由
・最強の割引カード
・年金で元を取る方法
・新社会人へ伝えたい7つのこと

給与・残業代には時効がある

学生時代にアルバイトしていた頃は、給与明細のうち、手取りだけを気にする程度で良かったと思います。しかし、社会人になると、「給与明細は間違っていないか」という目線で見る必要があります。

会社で働く人も人間なので、ミスが起こる可能性があります。しかし、後日間違いに気づいたとしても、給与や残業代には時効があるんです。現在では3年の時効を過ぎてしまうと、請求できなくなります。なお、時効は今後5年間に伸びる予定です。

ミスに会社が気づくかどうかは運次第。たとえ会社が気づいたとしても、それをあなたに伝えるかどうかは、また別問題です。なので、社会人たるもの、自分で給与の額が合ってるか確認することが必要なんです。

ノーワーク・ノーペイの原則

給与明細は会社によってさまざまですが、今回は、下記の新入社員の給与明細を例にして、解説したいと思います。あくまでも一般的な例として聞いてください。

給与明細は、上から勤怠項目、支給項目、控除項目、合計となっています。

まずは、勤怠項目と支給項目について見ていきましょう。そもそも会社側は、労働力に対して給与を支払います。労働と給与の等価交換で、労働契約(雇用契約)は成り立っています。ゆえに、働かない時間の給与を払わなくていい、という「ノーワーク・ノーペイの原則」があります

この方は1日休んだので、勤怠項目の欠勤日数の欄に1日、支給項目の欠勤控除の欄にマイナス9545円と記載されています。

ただ、このノーワーク・ノーペイの原則の元でも、例外として年次有給休暇があります。年次有給休暇は、働かなくても給与がもらえる制度です。入社後すぐにはもらえませんが、半年経つと10日間付与されることが多いです。

給与の世界では「休日」と「休暇」は違う

この年次有給休暇ですが、「休暇」という言葉が大事なポイントです。一般的に、「休日」と「休暇」は似たような日本語として使われていますが、給与の世界では、まったくの別物です。

休日は、そもそも労働義務のない日です。休日には、最低週1日は取るよう法律で決まっている法定休日と、会社が決めている所定休日があります。休日に働くと、普段の給与よりも高くなります。これは割増賃金と呼ばれており、休日に出勤した場合は、基本的に35%以上割増しされるんです。

かたや休暇は、労働義務はあるけど会社側が免除している日です。年次有給休暇や育児休業、年末年始休暇などで、これらの休暇の時に働いても、割増賃金は発生しません。

残業代は本当に割増しされているのか?

会社には就業規則で決めている所定労働時間があり、会社によって、1日7時間、7時間半、8時間、と違っています。一方、労働法で1日8時間、週40時間以内というのが法定労働時間として決められています。この法定労働時間を超えた時間外労働には、割増賃金が25%以上つくことになっているんです。仮に月60時間を超えると、なんと50%以上の割増賃金がつきます。割増賃金は、残業のために労働力を提供した対価です。

割増賃金の計算式は、会社ごとに異なります。今回の給与明細では、普通残業手当の欄に1万3130円と記載されています。仮に、この会社の所定労働日数が年間240日、所定労働時間が8時間だとすると、月の労働時間は160時間です。月の基本給21万円を160時間で割ったものが基礎賃金です。この方の場合は1313円で、これが1時間あたりの賃金となります。

この基礎賃金1313円に残業した8時間をかけて、割増賃金分として1.25をかけると、1万3130円になります。給与明細の記載と同額なので、間違ってなかったことが確認できました。

ちなみに、よくあるのは残業時間が実際の時間と違っていたり、割増額が違っているといったミスです。また、固定残業代の方もいると思いますが、その場合でも割増賃金がつくので、確認してみてください。

なお、基礎賃金の計算には、家族手当や住宅手当、通勤手当、賞与や残業代は入りません。仕事に直結する役職手当や資格手当・地域手当などは含みます。

この話を聞いて、割増がつくなら残業をたくさんしよう、と思うかもしれません。しかし、多くの会社では月45時間、年360時間の上限規制がかけられていると思います。昨今の働き方改革で、残業の上限はさらに厳しくなっています。

実は、これまで建設関係やトラック、バスの運転手の方々には上限がありませんでした。しかし、2024年の4月から、上限規制がかけられることになりました。このことが理由で、建設が遅れたり、輸送できる量が減るのではないか、といったことが問題になっているんです。

保険証は、最強の割引カード!

続いて、給与明細の控除項目について見ていきます。支給額は25万円あるのに、手取り額(差し引き支給額)は20万円しかありません。この差は一体何なのか、という話です。

控除項目には健康保険、厚生年金、雇用保険(40~64歳は介護保険も)があり、まとめて社会保険と呼ばれます。

社会保険には、公的保険(国民健康保険、健康保険)公的年金(国民年金、厚生年金)があります。それぞれ職業や年収によって加入する保険や年金の種類が異なりますので、下の図でチェックしてみてください。

また、会社員の配偶者が入る国民年金の話については、社会保険の全体像も含めて、以前の記事で解説しておりますので、よかったらそちらをご参照ください。

今回の例、月1万2970円の健康保険料は、標準報酬月額の約5%です。標準報酬月額は基礎賃金と違って、住宅手当や通勤手当、さらに残業代も入ります。そのため、残業をすればするほど社会保険料も上がっていきます

実は、この健康保険の保険料は、労使折半といって会社側も半分払っています。合わせると給与の10%もの保険料を払ってる、ということです。かなりの金額ですよね。

その代わり、病院代や薬代が3割の負担で済むメリットがあります。保険証は、病院や薬局で提示するだけで7割引にもなる、最強の割引カードなんです。体調が悪い時は、早めに病院に行って薬を安く手に入れた方が早く治るし、毎月払っている保険料の元が取れると思います。

年金は元が取れるのか?

次は、公的年金である厚生年金について見ていきましょう。給与明細では2万3790円引かれてます。これは標準報酬月額の約9%です。こちらも会社と労使折半なので、会社側と合わせると、給与の18%を毎月納めていることになります。かなり多いですよね。これがあなたの手取りが少ない理由の1番の要因です。

将来もらう年金のために手取りが少ないんです。「年金のせいで」と思うかもしれませんが、民間の保険では、たいてい10年間や20年間など決められた期間だけしか支払われません。一方、厚生年金は死ぬまでもらえます。長生きしても安心なのは大きなメリットです。

でも、いったいいくら年金をもらえるのか、気になるのも当然でしょう。年金の計算式は以下となります。

年金額=1625円×納付月数+平均標準報酬額×5.481/1000×納付月数

1625円×納付月数は、国民年金の分です。そして、平均標準報酬額×5.481/1000×納付月数は、厚生年金の分となります。

平均標準報酬額とは、標準報酬月額の平均です。例えば月2万3790円の厚生年金であれば、もらう年金は年間3050円増加となります。これでは大損のように思うかもしれませんが、年金は毎年もらえるので、8年間で元が取れます。もっとも、会社負担分も含めると、16年以上年金をもらわないと元が取れないんですが……。

いずれにしても、厚生年金で元を取るなら、長生きするしかありません。今のうちから健康状態には気をつけましょう。

4月から6月は残業するな⁉

例に挙げた給与を100%とすると、そのうち健康保険料5%(実際は健康保険組合によって異なる)、厚生年金約9%の14%が引かれています。これに会社側分を足した給与の28%を、会社が毎月、日本年金機構に納めています。

会社は労使折半の分も支払う必要があります。そのため、正社員の採用はアルバイトやパートよりも、かなりハードルが高くなってしまうんです。

なお、社会保険料の計算に使われる標準報酬月額には残業代なども含まれるので、毎月変動します。そのため実務上は、4月から6月の給与の平均額で社会保険料が決まります

具体的には、保険料額表があり、給与の額に応じて何等級かが決まります。4月から6月に残業をたくさんしていると、このランクがアップし、社会保険料も増額してしまいます。なので、社会保険料を下げたかったら、4月から6月は残業をあんまりしないほうがいい。これは、これからの会社員人生で役に立つテクニックだと思います。

もちろん、3月の残業代が4月に払われるという会社もあると思いますので、詳しくは会社の先輩に聞いてみることをおすすめします。

所得税の間違いは、直すチャンスあり

その他の控除項目に、雇用保険1505円があります。これは賃金総額の0.6%(業種によって異なる)で、健康保険や厚生年金に比べると少ないです。こちらも労使折半で払っています。

雇用保険は、失業手当、育児休業給付金、教育訓練給付金などの財源になっています。

また、所得税4980円が引かれています。これは、給与から社会保険料を引いた課税所得額の0~40%です。所得金額によって税率が違うので、かなり幅があります。

実務的には給与額、扶養家族の人数に応じた税額の表をもとに引いています。たいてい実際の所得税より多めに引いているので、最終的に12月で調整します。これがいわゆる「年末調整」です。

この年末調整の際、源泉徴収票を会社からもらいます。ふるさと納税をしたり、医療費が多かったり、副業をしている人などは、その後、源泉徴収票をもとに自分で確定申告をすることになります。

所得税はこのような流れなので、仮に毎月の源泉所得税が間違っていたとしても、年末調整で修正されます。さらに年末調整で修正されなかったとしても、確定申告で修正できます。なので、源泉所得税が間違っているかどうかは、あまり気にしなくて大丈夫です。

ちなみに、所得税の計算では、家族手当や住宅手当にも税金がかかってきます。ただし、通勤手当に関しては15万円未満でしたら、税金はかかりません。

入社1年目の住民税はかからない

最後に住民税の欄ですが、0円になってます。「住民税がタダ」と思うかもしれませんが、これにはちょっとワケがあります。

住民税は、前年の所得の約10%です。それを12ヵ月に分割して、今年の6月から翌年の5月にかけて引かれていくという仕組みです。なので、新入社員の前年の所得がゼロであれば、住民税は引かれません。入社2年目の6月から住民税が引かれることになります。2年目に給与が増えない方は、むしろ2年目の方が手取りが減るという現象が起きます。

というわけで、住民税は1年遅れということを覚えておいてください

ちなみに、2024年の住民税だけは定額減税の制度のため、11分割で2024年の7月から2025年の5月と変則的になっています。詳しい定額減税については、以前の記事をご参照ください。

新社会人に伝えたい7つのまとめ

というわけで、最後に、新社会人の君に伝えたいことを7つにまとめました。

①会社で働く人も人間です。ミスは起きます。
②給与明細を、自分でちゃんと確認しましょう。
③健康保険があるので、体調が悪い時は早めに病院行った方がいいです。
④厚生年金の元を取るのであれば、長生きするしかないです。
⑤4月から6月の残業が多いと、社会保険料は増加します。
⑥住民税は1年遅れでやってきます。
⑦新入社員はすぐに辞めようと思わないでください。

新入社員は大変だと思います。でもすぐに辞めようと思うのは良くないと思います。大変なのは当たり前です。
そういう僕のウィキペディアを見てみると、「大学卒業後、東進ハイスクールに就職するも数ヵ月で退職し……」

すみません、人にとやかく言える立場ではありませんでした……。

それでは今後ともごひいきに。ば~い、ば~い!